「んで、生徒達にどうやって精神力の大事さを教えるのかえ?」
「簡単だ風月、実体験を交えて話すだけだ」
縁は両手を使って印を組むように、ゆっくりと兎っぽい形を次々と作っていく。
すると、縁の周囲にぼんやりと身体が光っている、兎が数匹現れた。
「おっ! 何だ何だ? この可愛い兎達は?」
「俺が考えた『
「ほほう~」
「あの先生! 質問いいでしょうか!」
男子生徒が手を上げた、クラスを表す紋章は『幽霊が杖を持っている』模様だった。
「僕は幻術を専攻している、イリュー・ジョースといいます、その兎達は高度な幻術ですよね」
「ああ、現実に影響を与える幻だ」
「この兎達は『癒し』に特化した幻術ですよね?」
「専攻しているだけある、当たりだ」
「僕は将来、人を楽しませる為に幻術を勉強しています、教えて下さい! お願いします!」
「自分でそれ専用の術式を作る、自分の想いを込めながらする、それだけだ」
「媒体は魔力とかでしょうか?」
「運だ」
「う、運?」
「信念、感情、運、そう言った、目に見えないモノを媒体にしている」
縁はニヤリとしながら、イリューを見た。
「君の『幻術で人を楽しませたい』という気持ち、それがどれ程のものかだ」
「……やります!」
挑発的な言い方をした縁に対して、睨みながら決意を露わにする。
「兎術!」
イリューの気合の入った声と共に、両手で印を組むが何も起きなかった。
「縁、雑な教え方じゃダメダメじゃん」
「いや? 成功している、シルクハットの兎君、準備はいいかな?」
縁は指を鳴らす、すると、シルクハットを頭にかぶり、ほのかに光っている兎がイリューの近くに現れた。
シルクハットの兎は帽子から、幻で出来たハトを飛ばす。
「おお~見えた!」
「これが兎術!」
「すげ~」
「私も欲しい」
生徒達は飛んだハトを見るが、すぐさま消えてしまう。
「この兎術は俺を救ってくれた」
「あ! なるほどね、理解した! 例えば丸腰で牢獄に入れられても、この術はそう簡単に見破れないのか」
「魔力とかそういう類ではないから、探知もされにくい、風月、お前も気付かなかっただろ?」
「確かに、でも何で?」
「それはあの兎は『認知』されてないからさ、理由は彼の『妄想』にすぎないからだ」
「なんか神様みたいだね」
「ま、そりゃどっかの縁結びの神様が考案したからな」
「なるほどね、でもこれ役に立つの? 縁くらいの実力がなきゃダメなんじゃない?」
風月は縁の呼んだ兎を一匹抱っこする。
「戦闘に使うならな、彼の様に人に楽しませたいとか、連絡するのに使う分にはそんなに力はいらないよ」
「連絡に使えるの?」
「対象者との仲良し具合による」
「なんだかあやふやだね~」
「人の縁もそんなものだろう、だから他者との関わりは大事なんだ」
「せんせ~私には見えないんだけど~」
今度は女子生徒が手を上げた、紋章は『魔法陣と杖』の模様だ。
「君には難しいと思う」
「え~ひどくな~い?」
「いや、君は現実主義者だろ? ちょっと厳しいな」
「え? 思想バレバレ?」
「妄想はしても、現実的に可能かどうかと考えるだけだろう?」
「確かにそうだけど~私だけ仲間外れってカンジ~?」
「君からは召喚士としての素質を感じるが?」
「あ~私、召喚クラスに居る、
「ならそのシルクハットの兎君を召喚すればいい、名を与え、形を作り、」
「なるほどじゃん? イリューだっけ? 貴方の相方の名前は?」
イリューは比良坂の質問が解らず首を傾げる。
「相……方?」
「貴方の考えた兎だよ、私だけ見えないのはムカツクから、召喚する」
「僕の妄想を召喚するの!?」
「何言ってんの? 召喚の世界にはもっと無茶苦茶な術式がある、てか貴方の思想で揚げ足取るなら、私を含めて数人、見えなくて楽しんでないんだけど?」
比良坂の言葉にハッとしたイリュー。
何人か苦笑いしている生徒が目に入った。
『楽しんで居ない人がいる』それは、イリューにとって見逃せない。
「君の名前は『手品』だ」
自分の妄想の兎と目を合わせてそう言った。
手品は紳士の様にお辞儀をする。
「はいオッケー! イメージがしやすくていい、ちょっと私の手を繋いで、簡易召喚するからさ」
「あ? え? は、はい」
グイグイくる比良坂の圧に戸惑いながらも、イリューは比良坂の手を取った。
「夢幻、妄想、思想、期待、楽しみ、比良坂黄泉の名をもって幻想を召喚する、イリュー・ジョースから生まれた『手品』よ! 降臨せよ!」
比良坂の足元に魔法陣が現れた。
手品がゆっくりと消えて、ぼんやりとではなく、ハッキリとした身体が白で耳が黒い姿で現れる。
さっそく口から万国旗を出す手品。
「おお! 成功した~って、お前お茶目だな」
「幻想ってか、妄想って召喚出来るんだ」
「んだよ~このくらいの召喚なら直に出来るけど勉強してみよ~」
「ええ? 確定の流れ!?」
イリューが驚いた所で授業終了の鐘が鳴る。
「おっ! 鐘が丁度鳴ったね、授業はここまでにしときますか? 縁?」
「ああ、そうだな風月」
「このまま挨拶無しで解散ね、私達はこれで帰るから、次の授業遅れないように!」
縁は召喚した兎達を消す、生徒達は手品の手品に魅了されているようだった。
実習室を出て風月がすぐさま声をかける。
「縁、ワザと比良坂含めた数人に、見えないようにしたね?」
「結果、いい方に物事が進んだだろ?」
「恋のお節介だね~」
「いや、あの二人はいいライバルになる」
「ほほう?」
「幻想と現実、互いにいい刺激になるだろう」
「縁結びの神様は、お節介に変わりないね~」
そんな話をしながら学園の外までやってきた。
「んじゃ、反省会を兼ねて飲みにケーションだな? 縁さんや」
「風月でも飲むのか」
「いやいや、一心同体だから、ささ! レッツゴー!」
「はいはい」
縁は風月に手を引っ張られて、その場から消えた。