目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第四話 幕切れ 兎術

「んで、生徒達にどうやって精神力の大事さを教えるのかえ?」

「簡単だ風月、実体験を交えて話すだけだ」


 縁は両手を使って印を組むように、ゆっくりと兎っぽい形を次々と作っていく。

 すると、縁の周囲にぼんやりと身体が光っている、兎が数匹現れた。


「おっ! 何だ何だ? この可愛い兎達は?」

「俺が考えた『兎術とじゅつ』ってやつだ、種類は色々とあるが」

「ほほう~」

「あの先生! 質問いいでしょうか!」


 男子生徒が手を上げた、クラスを表す紋章は『幽霊が杖を持っている』模様だった。


「僕は幻術を専攻している、イリュー・ジョースといいます、その兎達は高度な幻術ですよね」

「ああ、現実に影響を与える幻だ」

「この兎達は『癒し』に特化した幻術ですよね?」

「専攻しているだけある、当たりだ」

「僕は将来、人を楽しませる為に幻術を勉強しています、教えて下さい! お願いします!」

「自分でそれ専用の術式を作る、自分の想いを込めながらする、それだけだ」

「媒体は魔力とかでしょうか?」

「運だ」

「う、運?」

「信念、感情、運、そう言った、目に見えないモノを媒体にしている」


 縁はニヤリとしながら、イリューを見た。


「君の『幻術で人を楽しませたい』という気持ち、それがどれ程のものかだ」

「……やります!」


 挑発的な言い方をした縁に対して、睨みながら決意を露わにする。


「兎術!」


 イリューの気合の入った声と共に、両手で印を組むが何も起きなかった。


「縁、雑な教え方じゃダメダメじゃん」

「いや? 成功している、シルクハットの兎君、準備はいいかな?」


 縁は指を鳴らす、すると、シルクハットを頭にかぶり、ほのかに光っている兎がイリューの近くに現れた。

 シルクハットの兎は帽子から、幻で出来たハトを飛ばす。


「おお~見えた!」

「これが兎術!」

「すげ~」

「私も欲しい」


 生徒達は飛んだハトを見るが、すぐさま消えてしまう。


「この兎術は俺を救ってくれた」

「あ! なるほどね、理解した! 例えば丸腰で牢獄に入れられても、この術はそう簡単に見破れないのか」

「魔力とかそういう類ではないから、探知もされにくい、風月、お前も気付かなかっただろ?」

「確かに、でも何で?」

「それはあの兎は『認知』されてないからさ、理由は彼の『妄想』にすぎないからだ」

「なんか神様みたいだね」

「ま、そりゃどっかの縁結びの神様が考案したからな」

「なるほどね、でもこれ役に立つの? 縁くらいの実力がなきゃダメなんじゃない?」


 風月は縁の呼んだ兎を一匹抱っこする。


「戦闘に使うならな、彼の様に人に楽しませたいとか、連絡するのに使う分にはそんなに力はいらないよ」

「連絡に使えるの?」

「対象者との仲良し具合による」

「なんだかあやふやだね~」

「人の縁もそんなものだろう、だから他者との関わりは大事なんだ」

「せんせ~私には見えないんだけど~」


 今度は女子生徒が手を上げた、紋章は『魔法陣と杖』の模様だ。


「君には難しいと思う」

「え~ひどくな~い?」

「いや、君は現実主義者だろ? ちょっと厳しいな」

「え? 思想バレバレ?」

「妄想はしても、現実的に可能かどうかと考えるだけだろう?」

「確かにそうだけど~私だけ仲間外れってカンジ~?」

「君からは召喚士としての素質を感じるが?」

「あ~私、召喚クラスに居る、比良坂ひらさか黄泉よみっていいます~」

「ならそのシルクハットの兎君を召喚すればいい、名を与え、形を作り、」

「なるほどじゃん? イリューだっけ? 貴方の相方の名前は?」


 イリューは比良坂の質問が解らず首を傾げる。


「相……方?」

「貴方の考えた兎だよ、私だけ見えないのはムカツクから、召喚する」

「僕の妄想を召喚するの!?」

「何言ってんの? 召喚の世界にはもっと無茶苦茶な術式がある、てか貴方の思想で揚げ足取るなら、私を含めて数人、見えなくて楽しんでないんだけど?」


 比良坂の言葉にハッとしたイリュー。

 何人か苦笑いしている生徒が目に入った。

 『楽しんで居ない人がいる』それは、イリューにとって見逃せない。 


「君の名前は『手品』だ」


 自分の妄想の兎と目を合わせてそう言った。

 手品は紳士の様にお辞儀をする。


「はいオッケー! イメージがしやすくていい、ちょっと私の手を繋いで、簡易召喚するからさ」

「あ? え? は、はい」


 グイグイくる比良坂の圧に戸惑いながらも、イリューは比良坂の手を取った。


「夢幻、妄想、思想、期待、楽しみ、比良坂黄泉の名をもって幻想を召喚する、イリュー・ジョースから生まれた『手品』よ! 降臨せよ!」


 比良坂の足元に魔法陣が現れた。

 手品がゆっくりと消えて、ぼんやりとではなく、ハッキリとした身体が白で耳が黒い姿で現れる。

 さっそく口から万国旗を出す手品。 


「おお! 成功した~って、お前お茶目だな」

「幻想ってか、妄想って召喚出来るんだ」

「んだよ~このくらいの召喚なら直に出来るけど勉強してみよ~」

「ええ? 確定の流れ!?」


 イリューが驚いた所で授業終了の鐘が鳴る。


「おっ! 鐘が丁度鳴ったね、授業はここまでにしときますか? 縁?」

「ああ、そうだな風月」

「このまま挨拶無しで解散ね、私達はこれで帰るから、次の授業遅れないように!」


 縁は召喚した兎達を消す、生徒達は手品の手品に魅了されているようだった。

 実習室を出て風月がすぐさま声をかける。


「縁、ワザと比良坂含めた数人に、見えないようにしたね?」

「結果、いい方に物事が進んだだろ?」

「恋のお節介だね~」

「いや、あの二人はいいライバルになる」

「ほほう?」

「幻想と現実、互いにいい刺激になるだろう」

「縁結びの神様は、お節介に変わりないね~」


 そんな話をしながら学園の外までやってきた。


「んじゃ、反省会を兼ねて飲みにケーションだな? 縁さんや」

「風月でも飲むのか」

「いやいや、一心同体だから、ささ! レッツゴー!」

「はいはい」


 縁は風月に手を引っ張られて、その場から消えた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?