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第四話 演目 斬銀の昔話

「ほい到着!」


 風月と縁は手を繋いだ状態で空中に現れ、地面へと着地した。


「……俺も少しは身体を鍛えた方がいいんだろうか」


 縁の呼吸は少し乱れている。


「鍛えるなら自分に合った鍛え方しないと駄目だぜ?」

「おうよ」

「んじゃ受付行って面会手続きだね」


 風月は縁から手を離した。


「それはもう済ませてある」

「お? そうなの? なら病室直行でいいのね?」

「ああ、問題無い」


 縁を先頭に病院へと入っていく、静かな病院内を歩いて行く2人。


「ここだ」

真寺まじ……? ほう? 斬銀の名字は真寺なんだ」


 風月は病室の扉近くのプレートを見た。


「おーい斬銀さーん、お見舞いに来たぜー」


 縁は扉を軽くノックする。


「縁か、入っていいぞ」


 中から斬銀の声が聞こえた、2人は扉を開けて病室へと入った。

 斬銀は病衣を身にまといベットで寝ている。


「こんちゃー斬銀、傷の具合はどう?」

「よう風月、外傷は治ったが内臓がまだな」


 斬銀はゆっくりと体を起こし、縁に蹴られた場所をさすっている。


「縁、俺は嬉しいぞ、心身共に強くなったな」


 成長を喜ぶような父親の顔をした斬銀。


「どうした斬銀さん、藪から棒に」

「てか斬銀、あの時本気出してた? 『隠してる力』あるよね?」

「心が負けを認めたんだ」

「それ程縁の成長が嬉しかったの?」


 風月は病室内にあった椅子2つ斬銀の近くに置き座り、縁も座る。


「聞くか? 何故俺が嬉しいのか、長くなるが」

「お、聞こうじゃないの、斬銀さんのお話、じっくりと聞いたことがないし~」

「まず俺は今は亡き親友と共に、昔から傭兵をしていたんだが、ある大規模な戦争中親友は死んでな……敵を恨み、自分の力の無さを悔んで鍛える方法を探し、ある巻物を見つけた」

「どんな力なの?」

「単純に安全性度外視な、身体を一時的に強化する方法だ、特に名前が無かったから俺は『赤鬼』って呼んでるけどな」

「界牙流みたく……破滅的に体を強化する方法かな?」

「ああ……俺は早く死にたかったんだろうな、その力を使って逆恨みしまくったよ」


 斬銀は自分の右手を見た。


「でも生きてるじゃん」

「死んだ親友が化けて出て来やがった」

「幽霊って事?」

「ああ……『お前は何をしてるんだ?』って言われたよ、最初は偽物と疑ったが、俺達しかしらない事をべらべらと話始めてな」


 斬銀は窓の方を向き外を見る。


「話している内に俺は自分が恥ずかしくなってきたんだ、大小問わず悪人を無差別に殺しまくった、悪人だからいいだろってな」


 その言葉を語る斬銀の顔は自分を嘲笑うようだった。


「都合がいいけどよ……幽霊でも親友と話してると心が救われたんだ」


 俯いた斬銀は寂しそうに笑う。 


「そこから心機一転したのね?」

「そうだ、親友と色々と話し合った俺は、自分と同じような奴を救ってやりたいと決意した矢先……縁と出会った」

「ああ……その頃の話は耳が痛いし、どっかに隠れたい」

「まあ、それからは友として一緒に居てな」

「ははーん、一言で言えば『ちょっと痛かった奴が、胸張って誰かを守れる位になった』のが嬉しいのね?」

「ああ、昔から知ってる縁がな? 『俺の大切な人傷付けてベラベラ喋ってんじゃねぇ』って言った時に嬉しくてしょうがなかったんだよ」


 先ほどとは変わり、また嬉しくてしょうがなく同じ話をする父親の顔をしている。


「ちょっと違うね、愛を叫んだ時の言葉は『最愛の人に手をかけて平然としてるんじゃねーぞ! 人間! てめぇを極上に幸せにしてやる!』んで、斬銀を蹴りぬいた時が『人を好きになる覚悟が中途半端な訳ねぇだろうが! この筋肉やろぅがああぁぁぁ!』だよ」


 風月は小声で叫ぶ縁のモノマネをした。


「一語一句覚えてるのか? よく覚えてるな」

「当り前でしょ、私にとって特別な言葉だからね? まあ、風月としてはまだ何も聞いてないけども~」

「……」


 縁は恥ずかしさからか座りながら蹲っている。


「別に恥ずかしがる事はねーのに、この俺を負かした気持ちだぞ?」

「んだぞ? あの言葉だったから私は心を動かされたんだ、自信持て」


 茶化すように笑っている斬銀と風月、縁はフッと笑い立ち上がった。


「そうだな……ありがとう斬銀さん」


 縁は深々とお辞儀をする。


「ど、どうした急に」

「家族以外で本気で叱ってくれたのは斬銀さんだけだった、怒られてなかったら……多分今も調子に乗っていてさ、もっと酷くなってたかもしれない」

「家族じゃなく友達、親友や恋人だから響く言葉ってあるよね~」

「まあそのなんだ、お前も誰かに道を示せればいいな」


 斬銀は照れ臭いのか頭をかきながら目線が泳いでいる。  


「おお、道を示すとは違うけどこの後縁はね、私の生徒と手合せすねんだよ」

「ほう……お前が誰かに稽古付けるって珍しいな、どんな生徒なんだ?」

「見てて気持ちいい程真っ直ぐで、努力する生徒だ」


 縁は会えるのを楽しみにしている笑い方をした。


「いつか俺も会ってみたいものだ」

「斬銀なら歓迎するよ」


 風月はウィンクしながら立ち上がった。


「んじゃそろそろ行こうか、学園までダッシュね」

「また走るのか……了解」


 縁は溜め息をしながら立ち上がる。


「またね~斬銀」

「お邪魔しました」

「おう、またな」


 縁と風月は軽く手を振り病室からでていき、斬銀はそれを見送った。

 しばらく病室の扉を見た後、斬銀はベットに横たわる。


「……本当に強くなったな」


 満足したように笑い目を閉じる斬銀だった。

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