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第四話 前説・幕開き 予定の確認のお知らせと本当の名前

 今日もレアスナタガチ勢カップルの長谷川と荒野原は、いつも通りゲートへ来ていた。

 受付を済ませてプレイルームへ。


「今日は荒野原さんが風月でログインするって言ってたな、やりたい事があるとか……他の予定は斬銀さんのお見舞いと、一本槍君との手合せだな」


 シートベルトとゴーグルを装着した長谷川は、手帳を確認していた後ポケットに閉まった。


「行くぜ! レアスナタの世界へ!」


 ゴーグルを通して見えるスタートボタンを押した。

 周りの景色が変わっていく、この瞬間から長谷川から縁になる。

 ログインした縁はロビーを見回しながら歩く。


「おいーす、縁」

「やあ風月」


 お互いに軽く手を挙げる。


「早速だけどやりたい事って?」

「風月とスファーリアの『本名』知らないと思って」

「あ、そうだった、これは一大事だ」

「自己紹介は流れで何とかなるとして、今日の予定は斬銀のお見舞いロールと、一本槍君の手合せロールでいいかな?」

「ああ」

「順番は?」

「自己紹介、お見舞い、手合せでいこう、各開始前に裏で俺がメールをそれぞれに送っとくよ」

「お、さんきゅー」

「自己紹介の場所は?」

「縁達の神社で」

「了解した、んじゃパーティ組んでっと」


 縁はメニューを操作し風月とパーティを組み開始場所を選択し、後は開始を押すだけにした。


「開始するよ?」

「おっけー」


 縁は開始を押し、2人は光に包まれて消える。


 光に包まれた2人は縁と絆を祭っている神社へとやってきた。

 相変わらず神社は拝殿しかなく殺風景。


「ん~久しぶりにここにきたね~」

「突然だが何かあったのか?」

「ああ、縁に聞きたい事と話したい事があったんだよ、ここなら誰も来ないっしょ?」


 風月は辺りを見回す、そよ風や自然以外何も無い。


「そうだが……どした急に」

「重大って程じゃないけど大事な事、私達ってお互いの事ってあまり知らないじゃん?」

「……そうだった、何時も一緒に居るから全部とは言えないが、知ってると錯覚してしまった、すまん」

「それは私も同じ、んじゃ私から話すけどさ」

「ああ」

「まず、あたしとスファーリアは一心同体なのよ、別れた理由は界牙流の修行が嫌になったからだねぇ~」

「修行が嫌に?」

「そ、世界を敵にしても一人で大切な人を守りきるための修行がね」


 風月は嫌そうな顔をして溜め息をした。


「改めて聞くとすげーな、世界ってさ」

「だって『好きな人も居ない』のにそのための修行て」

「あーなるほどな、目標無いのに頑張りましょうって状態だったのか」

「そそ、あたしだってオシャレして恋をしてとかしたかったけど……」

「ま、結果的にスファーリアがいい男を見つけてきたからいいかな」


 楽しそうにニヤニヤしながら風月は『いい男』をマジマジと見ている。


「あ、ありがとうよ」


 縁は少しだけ風月から目をそらした。


「っても、マジモンの一心同体だから記憶の共有だったり気持ちも共有だから」

「他がパチモンみたいな言い方だな……あれ?」

「どったの?」

「あ、記憶を共有してるなら、なんで車を『ブーブー』って言ったんだ?」


 以前縁達と行った村を救う依頼の時、風月は車を『ブーブー』と言ったのだ、知っているならばそう言う言い方をしなくていい。


「『風月は』見た事なかったからね、もちろん知ってるけどさ」

「ああなるほど、そういう事か」

「話を戻すと、その修行も本格的に気合い入れてやらんとな」

「じゃあ元の一人に戻るのか」

「いや、もう少しこのままでいいかなーって」

「どうして?」

「スファーリアがまだまだ先生してたい」

「なるほど」

「てか縁に私の本当の名前って言ったっけ?」

「子供の時に聞いた様な気がするけど何だっけ?」

「名字は風野音かぜのおと、名前はむすび」


 風月はウィンクをした。


「私の里は特殊でね家族でも名字が違うの、生まれたら里にあるパワースポットみたいな所がいくつかあってさ、一番適正が有る場所で祝福をうけるの」

「珍しいな」

「だよね、で、私は風が吹く丘で祝福を受けたから風野音、その場所で月が出ている時に力が一番出たから仙人の名前が『風月』になったの」

「ロマンチックな命名だ」

「んで、縁に聞きたいのは」

「お、何?」

「ここに祭られてる男の兎の神様の『本当の名前』が気になってさ」


 風月は拝殿を右手を開いて指示した。


「ちなみに? 結びさんが好きになったのは神様じゃなく、目の前に居る君だからな? 間違えんなよ?」


 今度は自身満々な顔をして右手で縁を指差す。


「ここに居る男の兎の名前は『縁起えんぎ身丈みのたけ白兎神しろきうさぎのかみえにし』だよ」

「おおう、神様らしく長かった、意味とか有るのは?」

「身の丈にあった縁起いい事を与える兎の神様、で名は縁……だな」

「あれ? 縁結びの神様じゃないの?」

「例えるなら温泉みたいなもんかなー?」

「温泉?」

「例えば腰痛に効く! って温泉があっても、他に切り傷にいいとか、打ち身にいいとか有るだろ?」

「ああ~納得……って、あ! 忘れてた!」


 風月は大声を出した手を叩いた!


「おお!? なんだなんだ」

「ここの神様に報告もしないと! ついでに私達の身の丈の幸せを見守ってもらおう!」


 風月は賽銭箱の目の前に立ち、自分のポケットをから四角いお金を取り出し軽く会釈をし鈴を鳴らす。

 四角いお金を賽銭箱に入れた後、二回頭を下げてお辞儀をした。

 そして両手を胸の高さで掌を合わせ、合わせた手の右手を少し下にずらし二回拍手する。 


「素敵な人と出会えました、ありがとうございます」


 風月は目を閉じて報告をしている。


「お願いがあります、自分達じゃどうしようも出来ない事から守って下さい、この人とずっと居られるように頑張りますので、見守っていてください」


 拍手した後、ずらした指先を元に戻し最後に一礼した。


「……」


 縁は風月のお祈りを静かに見守っている。


「俺もお願いしとくか」


 風月の隣に立った縁は、ポケットから丸いお金を取り出して、賽銭箱に投げた。


「頼むぜ神様、これ以上無い人と出会えたんだ、見守っていてくれ」


 知り合いと話しているかのように、軽い話方をする縁。 


『その願い……承りましたわ』


 どこからともなく絆の声が響いた。


「え? 絆の声がしなかった?」


 風月は辺りを見回した。


「ここは絆の神社でもあるからな、どっかでみてんだろ」

「なるほど、んでさ、祭られている絆のお兄さんは私達を祝福してくれるかね?」


 風月は期待に満ちた眼差しをしていた。


「2人で幸せになる努力をしたら必ずな」


 自信に満ちた目と声で風月を見る。


「よし、なら大丈夫だな……おっ!」


 風月が空を見上げた、それに釣られて縁も見る。


「日差しが……そろそろ病院の面会開始時間じゃない?」

「もうそんな時間か、ならボチボチ行くか」


 縁は鞄から時計を取り出して時間を確認した。


「病院の場所は?」

「アフロ先生の病院」

「よし! ひとっ走りするか」

「付き合うぜ」


 風月は軽くストレッチを始めた。

 縁もストレッチをする。


「ほほう? あたしの速さについてこれるのか?」

「付いて行けないからさ、手を繋いでもらっていいか?」


 縁は右手を突き出した。


「しょうがないな~ほれほれ~」


 風月はニヤニヤしながら左手で縁の右手と繋いだ。


「んじゃ行こうか」


 そよ風だけを残して2人はその場から消える。


「まったく……ここはデートスポットじゃありませんのに、困った人達ですわ」


 こっそりと神社の屋根に隠れていた絆が姿を表した。

 溜め息をしながらもその顔は嬉しそうだった。

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