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第二話 演目 縁結びの神様

「お邪魔いましますわ!」


 絆は元気よく前蹴りで目の前の扉を開けた。


「お前、扉蹴るの好きだよな」

「あら? 私、傘で両手がふさがってますので」


 両手で傘を持っている絆だが蹴る直前で両手持ちしていた。


「さ、行きますわよ」


 絆を先頭に中へと入る。

 謁見の間らしい間取りをしているが、目の前に見える玉座に座っている男以外人が居なかった。

 絆達はその男に近寄っていく。


「ほう? 騒がしいと思ったらお前達か、知らぬ顔も居るが」


 男は渋い声と風格を漂わせていて、驚いた素振りも見せていない。


「レーオ・ヒッキョ・イズールだ、イズール帝国初代皇帝に何の用だ?」

「お久しぶりですわ皇帝、いらぬ世話とは思いますし手遅れですが警告をしにきました」


 絆は優雅に挨拶をした。


「ほう? 何をだ?」

「貴方のしている事は自分を不幸にしますけど、覚悟は出来ていますか?」

「愚問だな、不幸の神よ」

「あら、失礼しましたわ」

「長年の研究の成果が出る、配下の者はそちらに行っている」


 皇帝は焦っている様子も無い。


「絆ちゃん、この人は何をしようとしているの?」

「この皇帝は神になりたいらしいですわ、お姉様」

「は?」


 スファーリアは耳を疑う顔をした、皇帝の目的が子供じみていると言うより、現実的ではないからだ。


「私を殺そうと熱心にちょっかいかけていたのは、全ては自分が神になりたいからですわ」

「いやいや、絆ちゃんを殺そうとするのと皇帝が神になろうとするのに何が関わりが?」


 もっともらしい質問をするスファーリア。


「信仰心ですわ」

「信仰心?」

「え? 信仰心さえあればなられるの?」

「ええ、細かくは今は語りませんが」

「最初は正義の味方の真似事をして信仰心を集めようとしたのです、私を悪者にして正義の刃を振りかざしたい人達を誘導し、支持を得たのですわ」

「ああ~自称正義の味方を集めたのね?」

「ですが効率のいい方法を思い付いたと」

「何?」

「感謝されるより、恨まれた方が容易く効率がいいと」


 絆は口元を手で隠して笑っている、ただ皇帝を見る目は哀れ者を見ているようだった。


「善より悪の方が効率が良かった、私を恨む負の感情は凄まじかった」

「なんで皇帝は神になりたいの?」

「さあ? ただなりたいだけでは?」

「え? 人様に迷惑かけてまでなりたいもんなの?」


 スファーリアはズバッとこの話を聞いたら誰もが思う事を言った。


「お姉様、こういう類の人間にもはや『人なのに人の常識』は通用しませんわ」

「ああ、そうか理解しようとするから頭が痛くなるんだ」

「それに人間は既に止められてるようですし?」

「その通りだ不幸の神、古今東西の禁術や秘術を使い私は準備をしてきた、国を創ったのも私が神になるためだ!」


 皇帝は自分の気持ちが抑えられないのか、立ち上がり演説風に話をした。


「そうですか、さ、帰りましょう、警告しに来ただけですし」


 絆は振り返り帰ろうと歩き出し、縁もそれに続いたがスファーリアは皇帝をジッと見ている。


「待て、我が国の民を殺して無事に帰れると思ってるのか?」

「あら? 生け贄が国民? 笑わせる気ですか?」

「生け贄……なるほどね」


 スファーリアはトライアングルビーダーを持つ手に力が入る。


「街から感じた『自分が殺されたくないから殺す』はそういう事か、ま、それ関係なく悪人は絶滅するに限るけど」


 トライアングルビーダーを皇帝に向けた。


「おい皇帝、絆ちゃんと縁君は貴方を見逃そうとしてるけど、私は見逃さないよ?」

「残るのか?」

「当たり前だよ縁君、私が気にくわないから絶滅する」

「コイツはもう終わりだ、それにすら気付いてなくて神になると笑わせるからさ、相手にしてられん俺は帰る」

「絆ちゃんを傷付けた元凶でしょ?」

「ああ、昔は色々と奮闘したが、久しぶりに見たコイツに何も感じなくなった」

「どうして見逃すの?」

「見逃す? 自滅するか他人に消されるかの違いだよ、こいつは『自分が幸せになる事で自滅すると思ってない』からさ、馬鹿らしくて」

「なら、私が絶滅しても問題ないわね?」

「もちろんだ」

「なら遠慮無く!」


 スファーリアはトライアングルビーダーを槍のように構え、皇帝に向けて投げた!


「フッ、用心棒を雇って正解だったな……出番だ!」


 余裕の笑みを浮かべる皇帝は右手をあげた!

 すると上半身は素肌をさらし、下半身の鎧は腰のみに見え、ちょいわる親父の流行に乗ったけどブームが過ぎたような髪型に、素敵な笑顔が似合う大男が皇帝の目の前で仁王立ちをした!


「まだまだひよっこだ」


 大男は飛んでくるトライアングルビーダーを難なく受け止める。

 その大男はなんと斬銀だった!


「斬銀! マジスマイル!」


 斬銀は笑顔を振りまいた、その笑顔は天使のような微笑みだ。


「ぐっ! これは!」


 笑顔を見たスファーリアは凄まじい速度で吹き飛ばされた!

 トライアングルが吹き飛ばされたスファーリアを追うが速さが足りない。


「がはぁ!」


 壁にめり込んだスファーリアは口から血ではなく音楽に使う記号を吐いた。


「お姉様!?」


 絆が直ぐにスファーリアに向かって走り出す。


「忘れもんだぜ?」


 斬銀はトライアングルビーダーをスファーリアに向けて投げた!

 絆の横を通り過ぎるトライアングルビーダー、トライアングルが身を挺して守ろうとしても遅い。


「ぎゃ……がぁ……」


 スファーリアの胸に深く突き刺さった、胸からは大量の記号が溢れて地面へと落ちていく。


「お! お姉様!」


 絆はトライアングルビーダーを引き抜いて、壁にめり込んだスファーリアを助け出す。

 心配そうに浮いているトライアングル。


「まずは一人……で、黙って突っ立ってるだけか? 縁」

「絆! スファーリアの治療を頼む、鞄に音人専用の治療箱がある」


 縁はそう言うと斬銀から目をそらさずに絆へ向けて鞄を投げ、絆は鞄を受け取り治療を開始した。


「こっちは任せて下さいまし!」

「この様子なら大丈夫だな、斬銀、私は地下へ行く後は任せた」

「はいよ皇帝さん」


 斬銀は右手を軽くあげて答え、皇帝は玉座の近くにある扉へ向かう。


「で、縁、お前平和ボケしたか?」

「あんたが出てくるとは思わなかった」


 縁のウサミミカチューシャがスッと消えていき、光に包まれ血だらけで和服を着た神様の姿へとなった。


「昔みたく『なんでそっちに居るんだ!』と聞くか?」

「ガキじゃねーんだ、今あんたは仕事をしてるんだろ?」

「ほう? 少々大人にはなったようだが、本当に平和ボケしているようだな」

「な……ぐっ! これは!」


 縁は急に跪いた、何か背中に乗っかっているかのように、動こうとしても動けない。


「分身相手にお話しご苦労様、本当に平和ボケしてるな」


 そう言いながら近くの布で仕切られている場所から盆踊りをしながら現れる斬銀。

 本物が現れると今まで縁が話していた分身は消えた。


「神……封じ……の……盆踊……りか!」

「そうだ、昔のお前は絆を守る為に容赦が無かったが、今のお前は自分の力に酔っている馬鹿な神だ」


 その言葉を聞いて苦しそうな顔から怒りに満ちた顔をした。


「なんだ? 図星で怒るか?」

「くっくくく、あはははは!」


 縁は笑いながら苦しそうに立ち上がる!


「斬銀! 俺はまだ大人になりきれていないようだ! クールに装い大人ぶっているだけだった!」

「ほう?」

「スファーリアさんがやられた瞬間でさえ、怒りに身を任せず対処出来ると甘い考えをしていた! いや! 自分を偽っていた!」


 縁は右手で自分の胸ぐらを掴んだ。


「俺の心はお前への憎しみで溢れている! この気持ちは絆がいじめられてた時以上の憎しみだ!」


 スファーリアの方をチラッと確認する縁。

 治療は終わったらしく、座りながら壁に寄りかかってるスファーリアと心配そうに見ている絆が目に映る。


「ああ! 自分が許せない! 何かを失敗して気付く自分が許せない! 自分の想ってる以上に想っていたんだ! 俺の……俺の……」


 縁は斬銀に視線を戻す。


「最愛の人に手をかけて平然としてるんじゃねーぞ! 人間! てめぇを極上に幸せにしてやる!」


 縁は身体から白い色のオーラが溢れだした!


「愛を叫ぶのはいいが……遺言はそれでいいか?」


 斬銀は顔色一つ変えずに盆踊りを踊っている。


「なっ!?」


 突如縁の身体はバラバラになった、刃物で斬られたように。


「俺を目の前にしてペラペラと無駄話をするなよ?」


 血を流しなにも言わなくなった縁に対して、盆踊りをしながら近寄る斬銀。


「戦いってのは呆気ないな」


 そう言って斬銀は寂しい顔をした。


「最後はお前だ、絆、神封じの盆踊りを踊る限りお前に俺をどうこう出来まい」


 険しい顔をし盆踊りをしつつ絆へと近寄ってくる斬銀。


「くっ!」


 絆は斬銀を睨む事しか出来ない。


「絆ちゃん」


 スファーリアは肩で息をしながら絆を見た。


「神の力は信仰心なのよね? つまりは想い」

「ええ、そうですわ」


 絆は最後の時を覚悟しているように頷いた。


「縁君、私もあなたと同じように貴方が最愛の人よ」


 スファーリアは優しい声で神に祈るように手を合わせる。


「……お姉様」

「困った時の神頼みか? 恋愛と信仰心は違うだろうが」


 鼻で笑い盆踊りを止めずに絆達の目の前までやってきた!


「む! 何だ!?」


 盆踊りを止めて振り返った、背後に異常なモノを感じたようだ。

 そこには血だらけではなく返り血を少々浴びたような、白て赤く染まった和服姿の縁が立っていた。


「馬鹿な!」

「はっ!」


 斬銀は目の前の光景を信じられないと言った顔で見ている。

 その隙を絆は見逃なさず、自分の傘で斬銀の両足のふくらはぎを素早く突いた!


「ぐっ!」


 斬銀は両足の痛みでしゃがみ、スファーリアはトライアングルビーダーを持ちトライアングルに乗り縁の背後に。

 絆は傘の先から銃弾を斬銀に向けて発射しつつ縁の元へ、しかし弾丸は斬銀の鋼の肉体に弾かれる。


「そうかお前は縁結びの神! 一番の力の源は『恋愛成就』か!」


 斬銀は両手で両足を叩いた、すると何事も無かったかのように立ち上がる。


「ああ、彼女の想いが俺の心と身体を動かした」


 縁は自信満々にそう言った。

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