「はぁ」
縁は疲れた顔をしながら桜野学園校門前に転移してきた。
スファーリアが小走りで近寄ってくる。
「こんにちは縁君、その姿で来るって珍しいね? どうしたの」
「俺は自分で思ってる程大人ではないんだなってね」
「ちょっと手を出して」
「え? ああ、はい」
縁が右手を出すとスファーリアは両手で優しく包んだ。
「なるほど、そういう事があったのね」
「わかるの?」
「音を聴けばね」
「おっと、これは隠し事は出来ないな」
「ついでに言っておくね」
「ん? 何を?」
「『自分の汚れた手でスファーリアさんを好きになってもいいのだろうか?』とか思ってない?」
「え!? ああーまあ……うん」
「その音に自信を持って? 貴方の音は心地いいから」
「わかった……っても、直には無理だろうだがな」
「あ、そうそう、縁君に来てもらったのはお願いがあったからなの」
スファーリアは気持ちを切り替えるかのような話し方をする。
「ああ、用件を聞いてなかった」
「生徒に話をしてほしいの」
「うお!? スゲー予想外の案件が来たぞ!」
縁は予想外の言葉にバックステップをする。
「そこまでびっくりする? 縁君と話したいって生徒達が盛り上がってね」
「俺そこまで凄い兎じゃないんだがな」
「みんな平常心を装ってるけどね? 心の音でわかるの、負の感情が強くなっている」
スファーリアは復興中の学園を指差すと、先生や生徒、業者の人達が作業をしている。
「復興中だけどここは学校で生徒が怯えながら物事学ぶ場所じゃない、戦闘経験は必要だけどね? 私のクラスには護身術として専攻してる生徒も居る……言いたい事がまとまらない程私はイラついてる」
トライアングルビーダーを握り締めるスファーリアは眉をひそめる。
握り締めているトライアングルビーダーは怒りを表すかのように震えていた。
「よし、引き受けた! 人を導くのも神の仕事さ」
縁は親指をグッとしながら歯を光らせて笑う!
「……普段そういう言葉を言わないから似合わないよ?」
「生徒を想う気持ちに答えるよ、やはり人々の縁は美しい」
「うん、縁君らしい」
「久しぶりに懐かしい声が聞こえたと思えば! スファーリア先生に色目を使うとは!」
何処からともなく縁を知っているような口振りが聞こえる。
「こ、この声は!」
「久しぶりだな縁!」
学園の屋上を見ると、一人の少女が腕組みをして縁を見ている。
少し濃いクリーム色ツインテールのジャージの少女。
「お前はサンディ・シーナ! って待て! スファーリアさんに色目を使ってないぞ!?」
「ええい! スファーリア先生から貴様とのイチャイチャ旅行記を聞いとるわ!」
「何か話がデカくなってない!?」
「デートはしてるかもね? イチャイチャはしてないけど」
「ったく、人の話を聞いてデカくするのは相変わらずか」
「何をごちゃごちゃと! 縁! 貴様のジャージ魂が有るか見せてみろ!」
「ほう、ジャージと言われて黙る俺じゃない!」
サンディはジャージの上着を脱ぎ、縁もノリノリでジャージを脱ごうとする。
勢い良く脱ごうとしたが鞄にジャージがひっかかるので縁は鞄を地面に置いた。
「はぁ!」
気合いの入った声と共にジャージの上着を脱いだ縁はサンディに向かってジャンプをした!
「はっ!」
「せい!」
サンディは自分のジャージの袖を持って縁に向かって振るとジャージは伸び始めた!
「ぬるいわ!」
縁はまるでヌンチャクのように自分のジャージを振り回してサンディのジャージを弾いた!
「やぁ!」
「ふっ!」
縁とサンディは自分達のジャージを武器か防具かのように使い、戦いながら落ちてきている。
「私の理解出来ないノリが目の前に」
ジト目をしながらスファーリアは縁が地面に置いた鞄を拾う。
「やるな縁! ジャージ魂を忘れてはいなかったか!」
「お前もジャージを愛する心を持ったままのようだな!」
縁とサンディはお互いに握手をした。
「で、縁君はシーナ先生と知り合いなの?」
「ああ、俺が絆を守る時にしていた修行の一つにジャージで戦う流派があってな」
「え? 何その流派は? 軽く質問、何でジャージ?」
「スファーリア先生なら解るだろ?」
サンディはニヤリと笑いながらスファーリアを見る。
その言葉にスファーリアはハッとした。
「なるほど、確かに私はジャージと聞いて油断していた、油断大敵」
「敵を殺すなら一撃有ればいい、まあ一撃で決まればだけどな」
縁はジャージを着る、それを見たスファーリアは縁に鞄を渡した。
「しっかし縁、お前殺気が無くなったな」
「戦争終わったし」
「積もる話は後だな、今日はスファーリア先生の用事出来たんだろ?」
「ああ」
「面白そうだから私もついて行くぜ」
「ここの先生やってんなら自分の生徒は?」
「ああ~自主的にジャスティスジャッジメントと戦いに行った、っても、街を防衛したり資源を守ったりと色々な」
「いい生徒じゃないか」
「サボリじゃなきゃな」
「サボリなのか」
「学園はこんなんだが、授業はあるからな」
「そろそろ鐘がなる、教室へ向かいましょ」
スファーリアは学園敷地内にある時計を見てそう言った。
3人は学園内へと入るとますば職員室へ向かう、縁は手続きをして証明書をジャージにくくりつけた。
生徒が待つ教室へ、教室前にはトライアングルのマークが扉の上に飾ってある。
スファーリアが扉を開けて教室へ入り続いて縁とサンディが入る。
教室には4人生徒が居た、ちゃらそうな男子生徒、真面目そうな生徒、縁を期待の目で見ている女子生徒。
そして机に水晶玉を乗っけてる女子生徒が居た。
生徒達は紺色の制服に名前とトライアングルが刻まれたバッチを付けている。
「はい、皆さんのご希望に答えて縁さんを連れてきました」
スファーリアと縁は教壇へ、サンディは教室の後ろへと移動した。
「どうも縁です」
縁は生徒に向かって頭を下げた。
「じゃあまずは、生徒の皆さんは自己紹介よろしく」
「んじゃ、俺から自己紹介を始めるっす!」
ちゃらそうな男子生徒が勢いよく手を上げた。
「俺は冥界を追放された死神のツレ・テークダっす!特技は応急処置で趣味は瞑想っす!」
金髪でイヤリングをしていて、スタイリッシュなサングラスを掛けた男子生徒は立ち上がって自己紹介をした。
「よろしくテークダ君、そのサングラスとピアスは面白い性能をしてるね」
「うお!? 怒られるとかじゃなく性能を見破られたっす! 凄いっす!」
「死神も色々と辛いだろうとね」
「うぉー! 色々お話したいっすけど我慢するっす! 次いいっすよ!」
ツレは湧き上がる感情を抑えつつ椅子に座った。
「次は私ですね、一本槍陸奥といいます!」
ツレの隣の生徒が立ち上がり礼儀正しくお辞儀をする、ツンツン黒髪で眉毛が太くてハンサムな男子生徒。
「一本槍という名字ですが体術が主力です、スファーリア先生のクラスに専攻した理由は自分に足りない技術を補う為です!」
「足りない技術?」
「はい、魔法の類は苦手ですが一番相性が良かったのが音だったんです」
「なるほどな、だから足音で俺の実力を見極めにきたのか」
「気付いていましたか!?」
「ああ」
「完敗です」
「一本槍君、よろしく」
「はい! よろしくお願いします! 縁先生!」
一本槍は頭を下げた後に着席した。
「スファーリアさん、俺は先生……ではないよね?」
「教壇に立てばみな先生、諦めて」
「えぇ……」
「はいはーい! 次はファリレントのばーん!」
手の平サイズのトライアングルを持った女子生徒が手を挙げた。
制服以外スファーリアとほぼ似ている、顔や黒い髪に魔女の帽子。
「ファリレント・タルテ・ナガルアです! スファーリアおばさん……じゃなかった、スファーリア先生の姪なのです!」
ファリレントは元気よく立ち上がってえっへんと腰に手を当てた。
「将来はスファーリア先生のような先生になりたくて勉強をしています!」
「スファーリアさんの奏でる演奏は美しいからな、目標になるのもわかる」
「ミュッハー! コレが大人の愛なのですね!」
ファリレントは鼻血でも出すかの如くテンションを上げて自分のトライアングルをガンガントライアングルビーダーで叩き出した!
「2人のハネムーンには私を是非とも同行して最高の音楽を!」
「えぇ……今のに何処に愛の要素が? しかし滅茶苦茶に叩いてるのに音楽として成立してるのが凄い」
「ファリレントさん、落ち着きなさい」
「はっ! 失礼しましたよ! ミュッハー!」
叩くのを止めたが体の疼きが止まらのか悶えながら座るファリレント。
「最後は私」
机に水晶玉を乗っけてる女子生徒が立ち上がった。
深い青色の癖っ毛のショートヘアーで前髪で目が隠れている。
「私は前の3人に比べて面白みは有りません」
「机に水晶玉乗っけてるから、最初のインパクトは強かったよ?」
「バカな、私にインパクトがあったとは!」
水晶玉をペチペチと叩く女子生徒。
「感性が独特な生徒だね?」
「未来さん、ちゃんと自己紹介しなさい」
「ただの占い師系生徒です」
「なんだそりゃ」
「じゃあ、生徒系占い師です」
「意味が違ってくるとおもうぞ?」
「なるほど、あ、名前は未来です、名字は秘密です、自己紹介は終わりですので授業をどうぞ」
「え? ああ……っても、スファーリアさん何を話せばいい?」
「縁さんが若者に伝えたい事」
「伝えたい事か」
縁は少し考えた後。
「じゃあ自己紹介を踏まえて話をしようか、俺の昔話をね」