ルナはコウモリのような翼を羽ばたかせ空へ、麗華は雪をちらちらと降らせながら優雅に空に向かった。
「さ、殺し合いをしようぜ! 俺は強い奴を見ると心が踊るんだよ」
「一つ無粋な事を聞いてもいいでしょうか?」
「あ?」
「この街はもう破壊してもよろしいのですか?」
「お互いに好都合だろ?」
「では遠慮なく」
「久しぶりに本物の悪魔と戦えるんだ、遠慮はしないぜ」
「あら? 私以外にも悪魔は居ますよ?」
「本物ったろ?」
「では、始めましょうか」
「先手は譲ってやる」
「では雪に注意しましょう」
麗華のその一言で辺り一面が白銀の世界になった!
縁達が居る場所以外の街も人も家も全てが凍り付き、雪も激しく降り始める!
「面白れぇ雪を降らせるじゃねぇか!」
いつの間にかルナは真っ赤に燃える様なのオーラに身を包んでいて、それが雪を弾いているようだ。
「失礼、小手調べが過ぎましたか?」
「いいや? 先手としちゃー最高だよ、オレには無意味だがな」
「素晴らしいです」
麗華は笑いながら小さく拍手をしていた。
その戦いを見ていた縁といずみは唯一残った建物の階段に座っている。
「いずみ、説明よろしく」
「ふむ、解説が必要ですか?」
いずみは指を鳴らして『世の中の不思議能力全書』と書かれた本を取り出した。
「俺達は野次馬だから邪魔しない程度にな」
「まず麗華さんのこの雪には相手を衰弱させる効果があるようです、そして相手のルナさんのオーラは自身以外の効果を無効にするバリアみたいなものですね」
いずみはゆっくりとした口調で本を見ながら縁に説明をした。
「そしてルナさんは『相思相愛の心』という意志の力を使っています、相思相愛の心は簡単に言えばラブパワーですね」
「なるほど、近しい力を感じたがそういう事か……つまりは純粋な力VS意志の力って所か?」
「あってます」
縁といずみはそんな話している、空中に居る麗華とルナはお互いの動きを読もうとしていた。
先手を取るか後手を取るか黙ったままはお互いを見ている。
ルナが右手を微かに動かして麗華はそれを見逃さなかった。
「来なさい私の世界! 全てを冷たく包みましょう!」
吹雪が更に酷くなり視界も悪くなる、麗華とルナはお互いに見えなくなる。
「甘いな! オレと旦那の愛が凍ると思ってんのか! 旦那への愛二倍だ! うおおぉぉぉぉぉ!」
降り注いでくる雪はルナの放っているオーラを覆い尽くそうとしていた。
しかしルナは気合いを入れた声を上げて赤色のオーラは徐々に大きくなっていく、爆弾の様に弾けて衝撃波となり周囲に拡散する!
それを見た麗華は自分の目の前に厚い氷を出して防御をした!
「素晴らしい! 語彙力が無くなるくらい素晴らしい!」
麗華は拍手をして楽しそうに笑っている。
氷の壁は赤色の波動で吹き飛んでいたが麗華は怪我をしていない。
「ふふふ……」
麗華は震えていた、楽しくて楽しくて仕方ないのだ、もっとこの時間を楽しみたいと思っている顔をしている。
「何だ!? 何だ!? 補助魔法だけしかねーのか!? だったらこっちから攻めてやるぜ!」
言葉は煽っているが楽しそうな口調のルナは一直線に麗華を目掛けて飛んでくる!
「吹き飛べやぁ!」
「甘いのでは?」
ルナは純粋にただ殴りにいっただけのようだ、拳を突き出し麗華目掛けて更に加速する!
麗華は鼻で笑いながら向かってくるルナに対して右手を突き出した!
「この私が凍らせれなかった!?」
凍らなかった事に驚く麗華、ルナはそのまま向かってくる!
「はっ! 自意識過剰なんじゃないか?」
麗華はルナに思いっきり顔を殴られた!
しかし氷が割れる音と共にルナが殴った麗華は崩れ落ちていく、氷で出来た偽物だったらしい。
「失礼いたしました」
「何処だ!?」
声は聞こえるが麗華の姿は見えず、ルナは上下左右確認するが居ない。
「背後がお留守番ですか?」
降っている雪が集まる、それが麗華となりルナの背後をとった。
麗華は氷で出来た槍を右手で持ち、それをルナへと投げる!
「お前もな」
ルナの声が麗華の背後からした、麗華はニヤリと笑い両手に降っている雪の一部が集まり氷のグローブが一瞬で出来上がり振り向く。
「うら! うら! うら! うら! オラァ!」
「純粋な力程厄介なものはありませんね」
ルナは麗華に対して殴りかかってくる、麗華はそれを両手で涼しい顔をしながら弾いていた。
「ついて来れるか!? 旦那への愛三倍だ!」
「強い! ここまでの強い惚気を見せつけられるとは!」
ルナのオーラが一段と大きくなって殴る速度も上がっていく!
麗華は楽しそうに笑っているが徐々にルナの攻撃速度についていけなくなっている。
「まだまだぁ!」
「この私が防戦一方とは!」
ルナの攻撃がほぼ全て麗華に入る速度になった!
麗華に苦痛に耐えながらも楽しそうに笑っている!
「終わりにしてやるぜ!」
ルナは麗華を蹴り上げて打ち上げ花火のように更に空中へと上昇する。
「四倍だあああぁぁぁぁ!」
ルナは右手に力を込めて麗華に突撃してきた!
「冷ましてあげます」
なんと降っている雪が麗華に変化した!
30人以上は居る麗華に囲まれるルナは一斉に氷の槍投げられた!
ルナは防御と回避をするが四方八方からの氷の槍投げに対処が遅れていく。
「ちっ!」
オーラを貫通する無数の氷の槍がルナの体に刺さり血が出る、空中で体勢を整えゆっくりと地上へと降りていく。
「言いましたよ? 『私の世界』と」
無数居る麗華はニヤリと笑っていて一人だけ笑っていない麗華が地上へと降りた。
「多方面から心臓を貫いたはずですが? よく生きてますね」
麗華は指を鳴らして分身を雪に戻した、ルナはその様子を見て何かに気付いたような顔をする。
「へっ! オレはな可愛い娘達が居るんだ! 母親がつまんねぇ死に方する筈がねぇだろ!」
ルナは体に刺さった氷の槍を引き抜く、抜いた箇所からは血が吹き出すが直ぐに傷口がふさがっていく。
「困りました、全力は尽くしましたのに」
「ハッ! 言ってろ!」
麗華は涼しい顔でわざとらしく困っていた。
ルナは目線を麗華外さず少しずつ距離を取っている。
その様子を見ていた縁がまたいずみに質問をした。
「いずみ質問だが戦闘中の問答って何でするんだ?」
「おや? 縁さんも戦い慣れてるはずでは?」
「俺は相手の考えを知りたかっただけだ、彼女達からは違うモノを感じたからだ」
「解説しましょう」
いずみは咳払いをした。
「まず、強くなりすぎると自分と対等に戦える相手は居なくなるものです、ひょんな事とはいえ彼女達は出会ってしまいました」
「確かにな」
「次に彼女達が何故問答をするかですが、時間稼ぎですね」
「時間稼ぎ?」
「相手がしてきた攻撃で次はどうでるか、どう防御するか……早い話考える時間と休憩ですね、相手より速く体を休めて何処まで読めるか」
「あの一瞬が休みになるのか……奥が深い」
「あーただ、私達が『茶番』と言ってはダメですよ?」
いずみは不快な顔をしながら縁を見る。
「俺達は『野次馬』であって『当事者』じゃないからな、彼女達が満足するまで待つしかないだろ」
「ああ、縁さんは話が早くて助かります」
「居るんですよ、ヤジを飛ばしたりガタガタとくだらない事をおっしゃるお利口さんがね」
「お前が愚痴るとは珍しいな、聞くぞ?」
「ありがとうございます、いえね? 外野がペチャクチャペチャクチャうるさいと思う時があるんでしよ」
「あースポーツ観戦みたいな感じか?」
「それは少し違います、選手達もプロですから何を言われようが結果が全てでしょう、私的には過程も評価しますが」
いずみは早口で説明しだした。
「誰も殺した事無い人間が俺なら私ならこうするって見ると……モヤモヤしません? 間違った知識しか持たないお利口さんや都合のいいようにしか理解しないお利口さん……ふざけんなですよ」
いずみは深いため息をして地面を見つめた。
「まあ、私が愚痴って数が減る訳じゃないので授業するしかないんですがね」
再び右手の人差し指を立てて縁を見るいずみ。
「ああ良かった、そんなに重くなかった」
「ふふ、失礼しました」
いずみの愚痴を聞いているとルナと麗華に動きがあったようだ。
「さて……そろそろお互いに必殺技の一つでもどうだ?」
「失礼、私は必殺技は持ち合わせていません、かっこいい名前もありません」
「そうかい! だったらこれで終わりにしてやるぜ!」
ルナは足を肩幅に開き、両手は腰の辺りで握り締る。
「ハアアアアアァァァァァ! 相思相愛の力は家族を守る力! だがオレは悪魔だ! 好き勝手させてもらうぜ!」
ルナを包んでいた真っ赤なオーラは更に膨れ上がり色も濃くなって両手を合わせると集まり始める!
「凍らせてさしあげましょう!」
麗華は両手を広げて笑っていた。
「相思相愛――」
ルナは目を閉じて精神を集中させる。
深呼吸をして一瞬呼吸を止めて目を見開いた!
「はあああああぁぁぁぁ!」
ルナは両手からトンネルの入り口位の大きさはある真っ赤な波動を麗華に向けて放った!
「この程度ですか? 笑わせるな!」
麗華は赤色の波動を目の前にして笑って両手で真っ赤な波動を受け止めると、速い速度で麗華側から凍り付いていく!
「オレの想いが凍っていくだと!? だったら――」
ルナは全身に力を入れた!
「じゅうばいだああぁぁぁ!」
先程より更に大きい赤色の波動に膨れ上がる!
凍っていた真っ赤な波動も飲み込み麗華に襲いかかった!
「まだまだ私には届きませんよ?」
放たれた赤色の波動すら涼しい顔で両手で受け止める麗華。
先程よりも更に凍る速さが上がっており、あっと言う間にルナの腕まで凍ってしまった!
「オレの愛がが凍る!? そ、そんな事があってたまるか!」
ルナは必死に動こうとするが凍っていて動けず、一瞬で凍らせた速さではなく弄ぶかのようにジワジワと凍結していく。
「さようなら」
ルナが氷像になりかけているのを笑っている麗華、その顔は残虐性しか感じられない。
「死ねない! オ!」
口まで凍り付き喋れなくなったルナ、恐怖に怯える目には涙が溜まっていた。
その涙が一筋になって地面へと落ち、ルナは物言わぬ氷像になってしまった。
「なかなか面白……!?」
余裕の笑みを浮かべていた麗華は違和感を感じて辺りを見回し始めた。
ルナを見るが麗華は確実に仕留めたと確認するように小さく頷く。
麗華は違和感を感じとれずにいた。
何処からか声が聞こえる、それは小さく麗華にも聞こているらしく周りを見ても縁達が居るだけだ。
その声はやがてハッキリと聞こえる大きさになる。
『お母さん!』
『かあちゃん!』
『ルナさん!』
まずは少女の声が聞こえた、声からしっかり者のお姉ちゃんのような姿を想像出来る。
そして先程聞こえた少女よりも幼く活発な妹を想像させる声だ。
最後に優しそう男性の声が聞こえた。
「この声は何処から!?」
麗華の焦っていた、このままでは自分に不利な状況になる事を予感していたからだ。
「うおおぉぉぉぉ!」
ルナは自分の体にまとわりついている氷を気合いで粉砕した!
真っ赤なオーラは体の一回りくらいの大きさになっている。
更に真っ赤なオーラは更に赤くなっていて、それを見る者を魅了するような深紅の色をしていた。
「氷の悪魔! 家族愛まで凍らせられるか!」
「くっ!」
ルナの姿を見て麗華からは余裕が無くなっていた。
「はああああぁぁぁぁぁぁ!」
再びルナは麗華に向かってオーラを放った!
麗華に直撃するが氷で出来た偽物だったらしい。
それを見たルナは放っている波動を空へと向けた!
「この雪の世界はお前自身だったか!? だったらお前の全て消し飛ばしてやらぁぁぁぁ!」
空中へ放った深紅のオーラが地上に降り注いだ!
世界の終わりかのように降り注ぐ深紅のオーラで街も麗華の世界も消し飛んだ。
「へっ……まだ立ってやがるのか……」
ルナは赤色のオーラを放ってはおらず、苦痛を耐える顔をして足を震えながら立っていた。
「やりますね、ですが終わってはいませんよ?」
麗華は顔や体から血を流して着ているドレスもボロボロ、見るからに痛々しい右腕がだらっと力無くぶら下がっていた。
だが麗華は冷や汗を垂れ流そうが涼しい顔をしてルナを睨んでいる。
「面白くなってきたじゃねーか!」
「……第二幕ですね」
お互いにここからは根性比べと悟ったようだ、ルナと麗華はニヤリと笑いながらぎこちない歩き方で近寄っていく。
「ロック」
何処からともなく声が聞こえてきた。
その言葉と共にルナと麗華は地面から現れた鎖に縛られる!
ルナと麗華の近くの空間が裂け目が出来た。
「街一つ消し飛ばすなんて何をしてるんだか、やれやれ面倒事は嫌なんだがな」
黒くもふもふしたロングコートを来た青年が空間の裂け目から現れる。
「な、なんだてめぇ!」
「この力は神が関わっていますね」
ルナは暴れるが鎖は引きちぎれない。
麗華は自分の体に巻き付いている鎖を見ている。
「無粋な事をしたな人間、いや……異世界人」
「ああ、これはまた凄いお利口さんがやってきましたね」
縁といずみはルナと麗華を守るように何も無い所から光に包まれて現れた。
それと同時にルナと麗華の鎖が音を立てて崩れ消えた。
黒いロングコートの青年はふーんといった顔をしている。
「2人には悪いが第三者が介入するなら俺もでしゃばらせてもらう」
縁は鞄をあさり始める。
「縁さん、相手は縁さんが太陽の花を見に行った時に出会った異世界の人間ですね、この世界での名前はスバルフ」
「ああそんなの居たな」
「ええ、世界の厄介者ですよ」
いずみは冷たい口調で本を開いて見ている。
タイトルは『よその世界から来た災害っていうか愚者』と書いてあった。
「そっちの俺と同じ様な力を持つ悪魔さんにはこれを、麗華さんにはこれだな」
縁はルナに栄養剤のような瓶を投げて麗華には青い色をしたひし形の石を投げた。
「お、おい! 高級品の恋愛心ウキウキ悪魔専用精神回復剤じゃねーか! な、何で初対面のお前が私に一番効く栄養材知ってんだよ!」
「元気ですねルナさん、私には悪魔の石ですか」
ルナは投げられた受け取り瓶を見る。
麗華は投げられた石を左手で受け取っていて小さい傷から徐々に治っていく。
「2人の勝負に茶々入れたコイツに用がある、任せてもらえるか?」
縁は怒りを露わにして黒いロングコートの青年を睨んでいる。
「麗華だったか? 一時休戦だ」
「賢明な判断ですね、私の国においでくださいませ」
「わかった世話になるぜ」
麗華は雪の魔法陣を作りその場を離れようとする。
「やれやれ、逃がさないよ? ロック」
黒いロングコートの青年はは長方形の物体を操作している。
再び地面から鎖が出て来てルナと麗華を拘束しようとしていた。
しかしそれを見た縁が睨むと鎖はまた消える。
「彼女達の代わりに俺達が相手してやるよ異世界人」
縁は殺意に満ちた目で青年を見ていた。
「一度破られた技を再度使うとはお利口さんで笑えてきますね? お勉強の時間ですね」
いずみは何もない所から浮いている黒板と指し棒を召還した。
麗華達は魔法陣で消えて黒いロングコートの青年はやれやれと溜め息をしていた。