「っと、自分の目標利用時間ギリギリになってしまった」
ゴーグルとシートベルトを外した長谷川は腕時計を見た。
「まあそれはさておき、荒野原さんと合流するか……いや? 今日は荒野原さんと一緒に来てなかったな」
自分の何気ない発言に徐々に難しく何かを考える顔になる。
「これは……もしかするのか?」
帰り支度をしてゲートを出てその足でファミレスへと向かった。
小難しい顔をしながら頼んだ商品とにらめっこしている。
「あれ? どったのさ? 難しい顔をして」
どことなく長谷川に顔付きが似ている女性が傍に立っていた。
「ん? おお我が妹のあゆさではないか」
「兄貴が真剣に悩んでいるなんて珍しいね、話聞くよ?」
「ああお願いするよ」
「ちょいと失礼」
あゆさは兄の正面に座る。
「で、何難しい顔をしてるのさ」
「ああ、俺は何時もバイト仲間とレアスナタをしにいってるんだがな?」
「ふむ」
「その人は荒野原さんと言うんだけども、一緒にいるのが何というか普通になっていたというか」
「その人ってゲームでトライアングル振り回してた人?」
「そうそう」
「って事は女性ね?」
「うむ」
「はは~ん、兄貴はその寂しさが『好き』って感情なのか気になるのね?」
「やっぱり好きなのか?」
「それは知らないけど、よく一緒に居るの?」
「ああ、ゲームが終わったりしたらお酒を飲んだりもする」
「なるほどなるほど、少なくとも嫌われてないね」
「うーむ、まあ嫌いだとサシで飲みにとかはいかないよな」
「サシで飲んでるのかいな、でもまあ兄貴が気に入りそうなのはわかるよ」
「え? 何で?」
兄の本当にわかってなさそうな顔を見てとても深いため息をする。
「その荒野原さんは知らないけども、ゲーム中の……スファーリアだったっけ? が好きなのはわかる」
「何故バレたし」
「簡単に言ってくと長い黒髪、クールな立ち振る舞い、大きなおっぱい、冷たそうな声なんだけど性格は冷たくないとか? 何年兄貴の妹してるとおもってるのさ」
「これは参った」
「でも良かった、兄貴が女性で悩む日が来て」
「その部分だけ聞くと酷いな」
「中学高校とレアスナタ、成人してもレアスナタ、女の影が全くないから心配もするわ!」
「少しは落ち着いたって事で」
「既婚者としてちと言っとくわ」
「どした?」
「好きだからって変に付きまとったり、自分の気持ちを押し付けちゃ駄目だよ?」
「いやしないよ、今の俺の気持ちがふわふわとしてるからな」
「んじゃ、固まったら?」
「ま、迷惑かけない範囲でデートとかに誘うかもな」
「お、お兄様の口からリアルタイムで『デート』という単語を聞けるとは! 絆はこんなにも嬉しい事はございません!」
自身のキャラクターである絆っぽくハンカチを出してわざとらしく泣く妹のあゆさ。
「そこまでか?」
「……逆に聞きますわ? 10年以上オンラインゲーム三昧の人間がリアル女性に対して興味を持ったのですわよ?」
「本当に字面だけ聞くと酷いな」
「ではお兄様? 解決という事で私はこの『パーフェクトゴージャスパァッフェ』を所望しますわ」
メニューのスイーツ覧に書いてある期間限定の高いパフェを指さした。
「ったく、好きにしろ」
「ぐへへへ、ゴチになりまーす」
パフェを食べる妹にちょいちょい荒野原の事を聞かれる兄であった。