「ダメですよ、暴力はどうしようもならない時の最終手段! それで解決しようとしては! 道徳が足らない証拠です!」
シンフォルトはゆっくりと隷属の神に近寄っていく。
隷属の神は走るのを止めて情けなく後退りをしていて、顔からは余裕を感じられない。
「く、くるな!」
「さあ! 貴方にも道徳と清らかな心を!」
シンフォルトは神に祈りを捧げるように跪いて祈った。
「うあああああぁぁぁぁぁ! 止めろ! やぁぁめぇぇぇろ! や、やもえん!」
隷属の神は苦しみだし、地面をのた打ち回りながらも黒い霧となり消えた。
「忘れんぞ! この恨み! 必ずや貴様等を根絶やしにしてくれる!」
「コラ! 懺悔は最後までしなさい!」
シンフォルトはムッとしている。
「えっと縁、こちらの強烈なシスターさんは?」
「シンフォルト、道徳の加護を持ってるシスター」
「それはさっき本人が言ってたじゃん、私が気になったのは何をしたか」
「道徳心を植え付けた」
「道徳心?」
「あの神は隷属を司る神だったんだがな?」
「ふむ」
「簡単に言えば悪人にキラッキラな道徳心植え付けられたら発狂するだろ?」
「ああ~自己嫌悪に陥ると」
「ハッ!? いけません! この村は悪しき神の加護により! 道徳からかけ離れています!」
シンフォルトは辺りを見回してお祈りを始めた。
「このシスターさん、大丈夫?」
「行動には一貫性があるんだがなぁ」
「主よ! 道徳有る者に主の祝福を! 無き者には懺悔の時間を!」
シンフォルトは気合いの入った祈りをしている。
鳴り響いている鐘の音が大きくなる。
すると目の前に放置されいた、なんちゃって盗賊団と村のあらちこちらから奇声が聞こえてきた。
「違うんだ! 俺は悪くねぇ! ウァーン先生が!」
「あの娘が悪いのよ! あの娘が!」
「俺は金を稼いだだけだ! 稼いだだけなんだ!」
「フタの裏のヨーグルト舐めましたぁぁぁぁ!」
「悪戯で靴にプルプルスライム入れましたぁぁぁ!」
「醤油を薄口にすり替えて、健康に気を使うように仕向けましたぁぁぁ!」
村のあちらこちらから地獄の様な阿鼻叫喚が聞こえてきた。
「ああ! 皆様の懺悔が聞こえます! 皆様! 罪の告白を聞かせて下さいまし!」
ある意味地獄絵図のような懺悔が聞こえてくる、シンフォルトはニコニコしながら、祈りを捧げている。
「久しぶりに見たが地獄じゃねーか」
「ほう? 斬銀殿も知っておるのか? 何時見ても見事なお祈りですな、ハッハッハ」
「いやいや少々やり過ぎでござるよ」
「てか縁、あのシスターさんは普段何してんの?」
「シンフォルトは世直しをしているのさ、で、殺さずに悪人を改心させて被害にあった人達のケアも忘れない」
「ほうほう」
「普段は孤児院を経営している教会のシスターだ」
「……どんな場所か見てみたい」
「いや、教会自体は普通だぞ? 今度案内しようか?」
「準備に何かいる?」
「山登りじゃないんだから」
そんな話をしていると鐘の音が鳴り止み叫び声も無くなった。
それと同時に死体の様に横たわる山賊達、建物の中に居る村人達も同様だろう。
「皆様の懺悔! 確かに聞き届けました! さあ! 汚れ無き身に生まれ変わったのです!」
シンフォルトはニコニコしながら、両手を広げている。
「あら? どうしました? 皆様?」
首を傾げて不思議そうに縁達を見た。
「あらあら? 初めましての方ですわね?」
「うお!? な、何!?」
シンフォルトは音も無く風月に近寄っていくが、彼女は怖がって斬銀の後ろに隠れた。
「フッ、俺に隠れるとはな、守ってやるぜ? 鉄壁の斬銀とは俺の事よ」
斬銀は天使のような笑顔を風月に振りまいたが、げっそりとした顔をして筋肉から離れて縁の後ろに隠れた。
「あらあら、相変わらず上半身裸なのですね斬銀さん? 着るものを寄付しましょうか?」
「久しぶりにあったセリフがそれかよ」
「まて皆の者、それよりこの惨状どうするでござる?」
「気絶から目を覚ますのを待つしかありませんな! ハッハッハ」
フォルクの高笑いが村に響いた。