「なんだぁ、変な奴らが歩いてくるぜぇ?」
絵に描いたような山賊が入り口で見張りをしていた。
「人を集めるぞ」
「ヘイ!」
見張りの山賊達は村の中へと入っていった。
「見つかってしまいましたな、ハッハッハ」
「いや、隠れる気は無かったよね? 逆立ちしてるあたしが言うのもなんだけど」
風月はジト目でフォルクを見た、フォルク達は村へと入っていく。
すると、ろぞろと山賊風味の衣服をまとった男達が出てきた。
風月と斬銀は逆立ちを止める。
「へっへっへ! 何しに来たのかしらねぇが、このトドギラン村は俺達が選挙しているぜ!」
「おかしらー! イントネーションが違いやす!」
「馬鹿野郎! 言わなきゃわかんねーだろ!」
おかしらはツッコミをした部下をスパーン!といい音で頭を叩いた。
「ハッハッハ、選挙活動とは……頑張って下さい」
「はい!」
おかしらは頭を下げた。
「って、そうじゃねぇ! 俺達は占拠したんだ! 命がおしかったら、金目の物を置いていきな!」
「仕方有りませんな、斬銀さん、風月さん、懲らしめてやりなさい!」
「はっ!」
「御意!」
斬銀と風月はフォルクをかばうように前に出た。
「縁、拙者が守るゆえ黒幕の方は任せたでござるよ」
「ああ」
縁は瞳を閉じて集中し、青桜は縁の前に立った。
「生意気な! やっちまえ!」
「「「「「ヘイ!」」」」」
おかしらの部下十数人が一斉に襲い掛かってきた!
「アチョー!」
風月は持ち前の素早い動きで、武器を持っている男達の利き手を次々と攻撃する。
「な、なんだ!?」
「み、見えねぇ!?」
「は、速……いってぇ!」
あっと言う間におかしら以外の武器を持っていた男達は、武器を落として利き手を押さえている。
「こんなもんでしょ」
「くっそー! てめぇら! しっかりしやがれ!」
おかしらは部下に喝を入れて立ち上がる部下達。
「ちくしょう! やりやがったな!」
「ま、まだまだ!」
「やるじゃねぇか」
部下は落とした武器を各々拾う。
「俺に任せてもらおうか、斬銀! スマイィィィル!」
斬銀はボディビルがするポーズの一つ、サイドチェストをした。
パァァァン!
と大きい音がして彼が着ていたTシャツが弾け飛んだのだ!
天使のような笑顔をした斬銀、その笑顔は赤ちゃんが笑うような可愛さに溢れている。
だが、筋肉ムキムキの上半身真っ裸で、下半身はこしのみのような鎧、正常な人間ならば耐えられないだろう。
「くっ! なんてピュアな笑顔なんだ!」
「き、気持ち悪い! しかし同時に愛らしさを感じてしまう!」
「オロロロロ!」
「お母さん、先立つ不幸をお許し下さい」
部下達は吐く真似をしたり、絶望にしたり、先立とうとしたり様々だ。
「笑顔で戦意を無くすだと!? 大丈夫かてめぇら!?」
「ほう、頭を名乗るだけはあるな、俺の笑顔に屈しないか」
「ちっ! 気持ち悪い笑顔を振りまきやがって、仕方ねぇ! 先生! よろしくお願いいたします!」
何処からともなく、草笛の音色が響く。
「来た…」
「来た!」
「…来た」
部下達はざわつき始める、村の奥から、右手で刀を持ち鞘に入った刀身を右肩で担ぎ、左手で草笛を吹いている着流しの剣客がやってきた。
「忘れちまったぜ、桜の美しさなんて」
死んだような目でそう言い放った男、生気を感じさせない雰囲気を漂わせて、首には黒い首輪をしている。
「あの男は……斬銀、風月、ここは拙者に任せるでござる」
「何々? 知り合い?」
「嬉しそうにすねな、どうやら茶化す場面じゃねーぞ?」
「そう?」
「縁は任せたでござるよ」
青桜はそれだけ言うと、男に近寄っていく。
「先生、お願いします」
おかしいらと部下達はそそくさと物影に隠れた。
「同門でござるな?」
「あんたも人斬りかい? 匂いで解るぜ?」
男は楽しそうに笑って首を傾けた。
「人を斬り世を正そうとした時代の負の遺産でござるよ、同門ならわかるはず」
「人斬り同士仲良くしようじゃないか」
握手をするように手を伸ばすが青桜はそれを無視した。。
「違うなお前に信念は無い」
青桜はその場に正座して男を睨んだ。
「うっ! な、何? この殺気!?」
「何って風月、今自分で言ったろ? 殺気だよ殺気」
斬銀は笑っていて縁もフォルクも平然としている。
「待って、ちょっと耐えられない」
風月は小刻みに震えて冷や汗をかいていた。
「おいおい余裕は何処にいったんだ?」
「この殺気を前によく平然としてられるね」
「ずっと殺し合いの世界に生きてた奴らには普通な事だ、しかしその『恐怖』ってのはお前の心は普通って事だ」
「……斬銀も怖いのね?」
「そりゃな、相手の『脅威』を感じとれるのも実力だ」
斬銀は平然としていても少々冷や汗が流れている。
風月はそれを見てもニヤリと笑った。
「いいねぇ……」
男は狂ったように笑って青桜を見ている。
「俺の名は
「青桜衣通姫だ」
「最後にいいモノが見れそうだ」
桜家紋は肩幅に足を開いて刀を左腰に差し、左手で鞘を持ち右手で刀の柄を持っている。
お互いに刀の柄に手をかけているが動かない。
張り詰めた空気が漂って皆が動けずに居た。
お互いに睨み合いまばたきもしない、ただただ相手の隙をお互いに伺うだけだ。
2人の距離は約3メートル程、正座をしている青桜には不利な距離だろう。
回避、攻撃、反撃、どれをとっても桜家紋の方が有利に見える。
その時、ピキっと何かが割れる音がした!
青桜は目を見開き桜家紋は刀に手をかけた!
桜家紋は刀を抜いて素早く水平に抜刀する!
動作はシンプルだが桜家紋の方が刀を振り終え、水平に振った刀の軌跡からは縦に放たれた衝撃波2つが青桜に襲いかかる!
青桜は謎の音と同時に右足を前に出し、立ち膝になるように動かす。
その立ち膝をする為に出した右足が地面に付く前に青桜は信じられない事をした。
まず右手で刀を抜く動作に入る、左手で鞘を引いて刀を抜けやすくする。
抜かれた刀はくるりと一回転した、ほぼ一回転したと同時に立ち膝になり刀の矛先は鞘に収まっている。
この動作を刹那の時間でやってのけたのだ。
「この程度の腕前で『血桜』を名乗るな」
青桜はゆっくりと納刀の動作に入る、だがよく見れば青桜の両頬に縦の刀傷が有り、その部分から出血をしている。
桜家紋は枯れはてた桜の木のように倒れる。
「敵討ちは任されよ同門、今はゆっくりと休むでござる」
青桜はゆっくりと立ち上がった。