長谷川はいつも通りバイトをしていた。
「ありがとうございました」
「ありがとうございます」
荒野原と一緒に店番をしている、今日は珍しくお客さんがまばらに来て普通の量のゲームやグッズを買っていった。
「今日は適度にお客さんが来たね」
「本当に珍しい、ある程度暇である程度仕事をして」
「私達は後15分くらいであがりだよ」
「もうそんな時間なのか?」
長谷川は店に置いてある時計を見ると4時45分頃を差していた。
「そういえば長谷川はロビーに行った?」
「ああ、行った行った! いや凄かったな! 1日潰れたわ、なんつーかロビーにログインした瞬間テーマパークの真ん中に放り込まれた感じ?」
数日前に一人でゲームにログインした長谷川はロビーを堪能したようだ。
今のロビーは旬なのもありお祭り状態で、黙って突っ立っているだけでも誰かに気さくに話しかけられる。
長谷川もとい縁もキョロキョロと見回っていたら類にもれず巻き込まれ、楽しい一時を過ごしたようだ。
「行ったなら解ると思うけど盛り上がりが凄かったよね」
「うむ、終わりの無い祭だったな、荒野原さんは巻き込まれた?」
「巻きこまれた……スファーリアにお姉様属性が」
「それは女性キャラクターからの黄色い声援かい?」
「当たり、スファーリアはキャラクター的にキャーキャー言われるキャラクターじゃない」
「ははは、ま、それも一つの経験って事で」
「他人事だと思って……本当に恥ずかしかった」
「褒められなれてない?」
「スファーリアはどちらかと言えば褒める方です」
「先生キャラクターだもんな」
「そう言う長谷川はどうだったの?」
「まあ人様の事をどうこう言えん出来事があった」
「褒められたの?」
「いや……皆して『運が良かったな』と言いまくってた」
「ブフォ!」
不意打ちだったのか荒野原は少し唾を飛ばして笑った!
少し恥ずかしそうにしながら口をハンカチで拭く。
「そこまでウケるか?」
「いやだって! 集まった人達が『歯を光らせながらそれを言った』んでしょ?」
「いやそうだけども……よく解ったね」
「縁は結構知られているよ?」
「ええ~噓だ~?」
「あのね、数年以上プレイしてる人が他のプレイヤーに知られて無い訳ないでしょ?」
「ああ~そりゃそうか」
「長谷川君は今日もレアスナタやるの?」
「まあね」
「良かったら一緒にやらない?」
「お、いいよ……ああ、明日は早いから夜遅くまでは出来ないけど」
「じゃあロビーで軽く終わりそうなシナリオ探す?」
「ああ、そうしようか」
「終わったらご飯ね」
「え? ああ、構わないよ」
「待ち合わせは細長い白い時計で」
「あそこか、了解」
「では5時になったので店じまいしましょうか」
「よし、ささっと片付け開始だな」
言葉通り2人はささっと閉店をした後、歩いてゲートへと向かうその道中もレアスナタの話で盛り上がった。
ゲートに到着して受付を済ませてそれぞれに割り当てられたプレイルームへ。
長谷川は荷物を置いてシートベルトとゴーグルを装着する。
「いくぜ! レアスナタの世界へ!」
ゴーグル越しに見えるスタートボタンを押した。