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第三話 演目 小さな演奏会の準備

「自分の実力不足を痛感する、感情を抑えきれなくなると音の細かい調整が出来なくなり敵を逃すとは」

「大丈夫かい? スファーリアさん」

「失礼、熱くなった」

「ってか地面に刺さっているトライアングル叩く……バチ? 大丈夫なの?」

「これはトライアングルビーダー、バチでもステックでも棒でも構わない」


 スファーリアは右手でトライアングルビーダーを引き抜き自分の右肩で担いだ。


「縁君、私の絶滅演奏術じゃフレビィレンスの悲しみの根源は消えない、どうにか出来ない?」

「任せろ、命に関しての専門家を知っている」


 縁は鞄からスマートフォンのような長方形の物を取り出した。

 それを耳に当て長方形の物から音が出る。


「出るだろうか?」

『どうした縁? 緊急連絡してくるなんてよ、今訓練中だが?』


 通話相手の声が洞窟に響いている。


「ああ陣英じんえいか? 『命を弄んだ輩』があらわれた」

『なぁにぃぃぃぃ!? 何処のどいつだ!?』

「扉を開くから、来てくれ」

『わかった! 早よ!』


 縁は耳に当ていた長方形の物体を空中へと投げた。


『隊長! 緊急案件の為、少し行ってきます!』


 投げた長方形の物が光に包まれ煙のようにモヤモヤとしたモノが現れた。

 そこから出て来たのは迷彩服を着た男性。

 生命と書かれた帽子をかぶり、熱血漢を思わせるような太い眉毛。

 がたいも良く短い白い髪が帽子の隙間から出ていて、白髪だが若いようにも見える。


「到着! 久しぶりだな! って、この気配はなんだ!?」


 男性は振り返り無残にも枯れている太陽の花畑に近寄っていく。


「こ、これは……おいおいおい! 縁! なんだこの花畑は! 無残に散らされた命は!」

「俺はその場には居なかったからわからないが……『ジャスティスジャッジメント』って奴らが荒らしていったらしい」

「その一言で察しはついた、この花畑の所有者は?」

「あそこで抱っこされてるフレビィレンスって吸血鬼、太陽の吸血鬼の娘さんだ」

「おお、直接は知らんが太陽の吸血鬼の娘か」


 縁はフレビィレンスを指さすと陣英はフレビィレンスに向かって歩き出した。 


「ああ? どっかで見たことあったと思ったら絶滅演奏術奏者じゃねーか、毎度~」

「こんにちわ」


 陣英は手を上げてスファーリアは軽く会釈した。


「あら? スファーリアさんは陣英とお知り合いですの?」

「『お得意様』って奴だ、今はそれより……」


 スファーリアはフレビィレンスを下ろして、陣英はしゃがみ泣いている彼女と目を合わせた。


「お嬢ちゃんがこの花畑の持ち主かい?」

「……お母さんの」

「この花畑はまだ死んじゃいない、まだ生きようとしている」

「お花元気になるの?」

「ああ、この花は太陽の花だな?」

「うん」

「この花は強い太陽の光が有れば枯れても、時間をかけてまた花を咲かす……って知ってるか」

「うん」

「ならこの花は炎を養分に出来るのは知ってるか?」

「え? そうなの?」

「普段は過剰な養分になるからしない方法だ」

「じゃ、じゃあ! 炎が有ればお花は元気になるの?」


 フレビィレンスの顔はビックリしつつも可能性にすがる顔をしている。


「ああ、君は太陽の吸血鬼の娘さんなら太陽を作れるんじゃないか?」

「うん、どうすればいいの?」

「君の楽しいとか嬉しいという気持ちを込めながら太陽を作る、作った太陽に俺の力を加えて花畑に撒く」

「本当にそれで元気になるの?」

「小難しい話になるから説明は省く、が……」


 陣英は右手を腕まくりをする、そこには見事な鳳凰の刺青があった。


「この不死鳥に誓って嘘はつかない」

「あ、おじさんはもしかしてお母さんが話していた『生命の加護』を持つ人?」

「ああ、実際に会った事はないけどな、まあそれは置いといて太陽の花を元気にしようか」

「楽しい気持ちで太陽を作ればお花元気になるんだね?」

「ああ、まずは君がどうすれば楽しくなるかだが……」

「それなら私の出番」


 スファーリアはトライアングルビーダーでトライアングルを叩く。

 甲高い音と共に様々な楽器が空中に現れる、それはオーケストラを開催出来そうな種類と数だった。


「私の『絶滅演奏術』が役に立つ、音楽は人を楽しくする」

「なるほど音楽か、俺は『生命の氣』を練る集中させてもらう」


 陣英はそう言うと花畑の中央で座禅をして目を閉じた。


「水を差すようで悪いが名前からは想像できねーな」

「初めまして私はスファーリア、音楽の先生」

「……俺はリッシュ、タベリアって町で警備の仕事をしている」


 お互いにただ者ではないと感じ取っているのか少し硬い笑顔をしている。


「ただ見てるだけでは面白くないですわスファーリアさん、これだけの楽器があるんですから何か貸してくださいまし」

「私の楽器は演奏者を選ぶ、手を伸ばせば波長の相性がいい楽器が来てくれる」

「なるほど、私と踊れる楽器は誰かしら?」


 手を伸ばした絆に近寄ってきたのは黒い色のマラカスだった。


「あら? これはたしかマラカスでしたわよね?」

「それは『絆を奏でるマラカス』」

「ふふ、絆ですか? 私と同じ名前ですわ」


 軽くマラカスを振るとシャッ、シャッと音が鳴る。


「不思議と手になじみます、何と言うか心が高ぶりますわ」

「それが波長があってる証拠」

「ちなみにこのこ達はどんな波長なんですの?」

「『他者に何を言われようが大切な人と互いに信じあう心』だね」

「気に入りましたわ、大事に使わせていただきます」

「ほーう? 波長が合う楽器か、面白れぇな! 俺には何が来るかね?」


 リッシュが手を伸ばす、彼の元にやってきたのは……


「……ほ、ホラ貝? いや楽器……か?」

「それは『勝ち鬨のホラ貝』」

「ホラ貝のイメージまんまだな」


 試しに吹いてみると『ぶおおおおぉぉぉぉぉ』とホラ貝らしさ全快。


「おお~……やっぱ見たまんまホラ貝だな」

「今度は俺だ」


 縁が手を伸ばすと白い色のトランペットが近寄ってきた。


「トランペットか」

「それは『終わりを告げるトランペット』」

「神話に出てきそうなトランペットだな」

「終わりは悲しいだけじゃない」

「ちなみに波長は?」

「『あらゆる事を終わらせてきた人』と波長が合うの、文字通りね」

「ほう? よし、ちょっと吹いてみるか」


 『ぷああぁぁぁぁん』と情けない音が響き、何とも言えない空気が流れだす。


「お、お兄様……おいたわしや」

「まあお前は楽器と縁が無かったからな」

「黙れ、打楽器や吹けば鳴るようなホラ貝には言われたくない」

「縁君この楽器達に技術は必要ない、心を通わせているかどうか」

「そうなのか……いや失礼、んじゃ集中して」


 今度は何かの曲のワンフレーズっぽく音を奏でた。


「操作してないのに色々な音が出たな」

「私の楽器達は奏者の心を奏でる」

「うーむ、珍しい楽器だ」


 フレビィレンスがスファーリアのスカートを軽く引っ張る。


「おねえちゃん、私は何をしたらいいの?」

「フレビィレンスは何がしたい?」

「歌を歌いたい!」

「縁君、マイクとか持ってる? 流石に楽器しかない」

「ああ、ちょうどいいのがあるよ」


 縁は鞄からスタンドマイクを取り出し置いた。


「それ大人用じゃない?」

「この『セレブ御用達高級仕様どこでもライブにするスタンドマイク最上級ヴェール絶叫マックス』は――」

「縁君、長い」

「商品名だから仕方ないだろ? 細かな性能の説明はいいか、こういう洞窟でも使える優れもんさ」

「頼んだ私が言うのもなんだけど、スピーカーも無しにマイクだけってのも変な気がしてきた」

「そこは色んな技術の集まりだからな、そのままでも使えるぜ」


 フレビィレンスは興味津々にスタンドマイクに触れるとフレビィレンスに丁度いいサイズに縮む。


「おお! これすごーい私サイズになった! 早く歌いたい!」

「そうだね……じゃ、演奏会の開始」


 スファーリアが右手を上げると空中に浮いている楽器達は演奏の準備に入る。

 それを見て縁達も楽器を構えた!

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