「長谷川君の地雷踏んでしまった?」
「っても当時青春真っ只中の中学の時は地雷だけど、今思えば大した内容でもない」
言葉では平静を装っていても顔は誰かを睨みつけるような顔をしている長谷川。
「何があったか聞いていい?」
「ああいいよ、簡単に言えば……俺は周りより大人だったって話かな」
「ふむ」
「俺は当時の友達とその時人気だったオンラインゲームをしていたんだ、キャラクタークリエイトに力を入れてる主なRPGだったよ」
「それで?」
「中学男子がやる事は一つだ」
「ああ~セクシーなキャラクターを作ったのね?」
「俺以外ね」
「長谷川君はそういうのに興味無かったの?」
「ある程度はもちろんあったけども、俺はやらなかった」
「どうして?」
「……気持ち悪く感じたからだよ」
長谷川は言葉を飲み込み別の言葉でオブラートに包んだが、込みあがる感情を抑えられなかった。
「男女問わずエロいキャラクターを作り、スカートめくったり下着でそこら爆走したりアクセサリーの位置をずらしてアダルトな表現をしたりその他色々」
「ゲーム内でそういう人達は居るのは仕方ないね」
「最初は身内でキャッキャしてたのが他のプレイヤー混ざってきてほぼ常にそういう事をしていて……俺にとっては地獄でしかなかった」
「どうして辞めなかったの?」
「俺はその時の自分のキャラクターが好きだったからだ、でもすぐさま辞めるきっかけは出来たよ」
「それは何?」
「その時の友達が『俺は自分のキャラクターを大事にしてるから』とかほざいたからさ」
誰かを殺しそうな目をしてそう言った長谷川。
そしてその気持ちを理解出来るかの様に荒野原の顔も笑ってはいなかった。
「……なるほど、性的欲求を満たす為だけに作られたキャラクターに対して長谷川君は嫌悪感を持ったのね」
「怒りを抑えてログアウトしたよ」
「気持ちは解るよ、そんな奴らに自キャラ愛は語ってほしくないわ、当たり前の事を聞くけど全年齢のゲームよね?」
「ああ」
「どうやってレアスナタを知ったの?」
「山本の兄さんにそういう事があった事を相談した時にね」
「なるほど、山本さんは地獄から抜け出すクモの糸を垂らしたお釈迦様だったと」
「俺はそんなんじゃないよ、神様は長谷川のキャラに任せる」
荒野原は空気を換えようとしたのか立ち上がり、クモの糸を垂らしたお釈迦様をして山本は長谷川に向かって拝み始めた。
長谷川はそんな2人を見て微笑みながら自分の黒いモノを吐くように溜め息をする。
「キャラと言えばその時使っていたをレアスナタに使ったの?」
「いや心機一転して新しくしたよ、ただ好きだった前のキャラクターの特徴であった『ジャージ』だけは引き継いだ」
「ふむ、縁のジャージ姿にはそんな秘密が」
「あれ? 荒野原さんに話した事あったっけ?」
「今度一緒に遊ぶ約束した時にキャラの名前聞いたじゃん?」
「ああそうだったそうだった」
「長谷川君のキャラクターは『森山ボックス公認人物設定解析本』の電子版で調べた」
森山ボックス公認設定解析本とはレアスナタをプレイするユーザーのキャラクター設定資料集である。
これは書籍と電子版があり電子版だとPCやスマホ、ゲーム中に閲覧出来る。
もちろん掲載を許可したプレーヤーだけ掲載するのだが、九割以上が許可を出しているから運営は制作と編集が大変。
電子版は買い切りで比較的直ぐに修正や追加が出来るが、書籍は数年に一回の更新だ。
書籍の方が値は張るが人気があり購入者には色々と特典がある。
「あ、ごめん俺調べてないや」
「いいよいいよ、今度遊ぶ時にでも軽く確認しよう」
「おっなんだなんだ、レアスナタで遊ぶなら山本おじさんも混ぜてくれよ」
「もちろん皆でやりましょう」
「話は聞かせてもらいました」
店の奥からタイミングを見計らったかのように左手にカギ、右手に3枚の券を持って現れたあけみ。
「あ、あけみさんすみませんお邪魔しています」
「荒野原さんがバタバタしてたから誰か来てるとは思ってたけど山本君だったのね」
「これ店長とあけみさんが好きな和菓子です」
「じゃあ私からはこれをプレゼントするわ、ゲート使用料の割引券よ」
山本とあけみは物々交換をするかの様にお土産の和菓子と割引券を渡し合う。
割引券を見た山本は苦笑いをした。
「長谷川にお嬢さん、今日レアスナタをしに行く事になりそうだ」
「え?」
「兄さんなんで?」
「この割引券今日までだ」
その言葉を聞いて店を閉める準備を始めるのだった。