「山本の兄さんじゃないか! どうしたのいきなり!」
「有給使って帰ってきたんだよ、いや~出世すると自分の時間があまりとれなくなっていやだね~」
山本は疲れ切った大人の顔をしながら長谷川に近寄っていく。
「…ん?」
山本は荒野原を見た、荒野原も山本を見る。
「新しい従業員さん?」
「はい、荒野原終と言います」
「俺は
「面接の時に『君の父上から聞いたが君はレアスナタガチ勢らしいね、敬語は使わなくていいからレアスナタに対しての想いをぶつけなさい』っていわれました」
「店長らしいな」
山本は苦笑いしながら溜め息をした。
「兄さん、積もる話もあるだろうからこっちに来てちょっと話そうよ」
「長谷川君、今仕事中では? てか親戚のお兄さんでもカウンター内に居れるのもどうかと」
「長谷川、昔店長がよくやってたよな俺らに店番させてお客とずっとはなしてるの」
「……懐かしいですねぇ」
「2人して思い出にひたらないで」
「まあまあお嬢さん、手土産のコイツで手を討ってくれ」
山本は紙袋から取っ手の付いて、おそらく中身がケーキであろう白い箱を取り出した。
箱の側面には泡だて器のシールが貼っている。
「私がモノに釣られ……その泡だて器のマークは!」
「おっ知ってるかい?」
「お菓子作りが趣味のプレイヤーがレアスナタゲーム内で知り合った人にオフ会で配ったのが元祖と言われるケーキ!」
「へ~そんなのあるんだ」
「長谷川君が知らない!? 貴方本当にガチ勢!? このケーキの成り立ちはただで貰ってた人達が悪いからと材料費と手間賃を出したの!」
「お、おう……それで?」
「そしてそのプレイヤーは徐々に腕を磨いていき、お店は持ってないんだけど最終的にはご予算に合わせて作りますとなったわけ! くっそ! これじゃ凄さが伝わんない!」
「長谷川に凄さを説明するなら……気まぐれな腕のいい職人がまれに作るケーキってくらいに思ってくれ」
「それなら何となくわかる」
「山本さん! 取りあえずイスとテーブルと皿とフォーク用意しますね! 飲物は何がいいですか!」
「紅茶があったら紅茶で、あ、缶でいいからね?」
「お任せあれ!」
荒野原は立ち上がり奥へと消えていった。
「……これ作ったの妻とは言わない方がよさそうだな」
「あ、そうなんですか、その情報は伏せた方がいいでしょう」
気合いの入った荒野原によりちょっとしたお茶会の準備が出来る。
山本が白い箱を開けると見るからに手の込んでいて高そうなケーキが入っていた。
3人は味を楽しみように食べたがあっという間に無くなってしまう。
「美味でござった、流石伝説でおじゃる……ついつい公家の言葉使いに」
「なるほど……これは荒野原さんが熱く語りたくなるのは解る、絶句してしまう美味さだった」
「はは、そう言われるとつ……てを使って持ってきて良かったよ」
「御馳走様でした山本さん」
「兄さん、ありがとう」
「どういたしまして」
荒野原は簡単に後片付けをした。
「ああそうだ、山本さんと長谷川君は積もる話が有るとかどうぞどうぞ、私はケーキの賄賂で黙ってます」
「積もる話か、確かに言ったが考えたらそんな無いよな? あの頃と違うんだし」
「レアスナタ始める前後には兄さんにお世話になったね」
「何々? ちょっと暗い話?」
「まあ、暗いちゃくらいかな? 俺がレアスナタにハマるきっかけと……」
長谷川は過去を嘲笑うかのように溜め息をした。
「友達だと思ってた奴らとの別れた話さ」