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第三話 前説 新人バイトのお知らせ

 長谷川は、何時ものゲームショップでアルバイトをしている。

 そのゲームショップの名前は『舞台』で名前の由来は『ゲームは演技だ! 設定の塊の作品だ! 舞台だ!』との店長の言葉からである。


 このゲームショップに最近新しいアルバイトが入った。

 アルバイトの名前は名字は荒野原 こうやはら で名前は しゅう である。

 肩甲骨辺りまである長い黒い髪、顔立ちに特長は無いが、強いてあげればややジト目だ。

 性格は物静かであり、絵に描いた様なやまとなでしこだが時折気性が荒い発言をする。

 元は一流企業で働いていた彼女だが、辞めてゲームショップへと来たようだ。

 本人曰わく『言い寄る男とセクハラがうざかったから、スピード出世して私が居ないと会社に大打撃出るほどの地位について辞めてやった』との事。


 そして長谷川と同じく中学生時代からレアスナタをプレイしており2人は直ぐに意気投合した。

 長谷川はそんな彼女とカウンターで店番をしているが、2人ともイスに座りぐったりとしていて明らかに疲れている。


「レジ打ちお疲れ様、荒野原さん」

「長谷川君も在庫の品出しお疲れ様」

「本当にこの店油断ならねぇな、たまにとは言え『ここからここまで貰おうか』をするお客さんが居るからな」

「支払いはカードでも一つ一つのバーコードがきつい、ああ……バーコード音が聞こえる」

「ネット通販もあるんだからそっちで注文しろってんだ」

「ああ……通販もあるんだ」

「まあでもちょっと現金な話をすると」

「すると?」

「今日みたいなお客さんが居ると店長の奥さんが日当のボーナスを出してくれる」

「夢のある話だけど頂いていいの?」

「お店に累計何百万という売上を出したって事らしい」

「実際あれだけ新品売れたら利益出るね、でもなんでそういうお客さんが居るの?」

「ほとんどが店長の知り合いだからね」

「なるほど、よくわからないけど納得する」

「……駄目だのどが渇く、何か飲み物持ってくるけど荒野原さんは何がいい?」


 長谷川は立ち上がった。


「おやおや? 勤務中に飲んでいいのかい?」

「自営業のいい所さ」

「お茶をお願いします」

「おっけー」


 休憩室に行き、冷蔵庫の中からお茶とニンジンジュースを取りカウンターへと戻り、お茶を渡してニンジンジュースの缶を開け一気に流し込みながらイスに座る長谷川。

 荒野原は受け取ったお茶の缶を開けてお上品にちょっとずつ飲んでいる。 


「ああ……生き返る」

「ありがとう長谷川君」

「どういたしまして」

「長谷川君ってレアスナタはαから?」

「αテストのからだね、いやーあの頃は変な奴らが多くて参ったね」


 αテストはパソコン専用だったのだが、βテストから今のようなVRスタイルを取り入れたのだ。

 無料でアカウントを作れた時代に色々とあった、リアルトレードマネーや、マナーの問題等々。


 まず森山ボックスはパソコンで簡単にアカウントを作れないように、アカウント制作を社員がユーザーの自宅に訪問、または本社での作成に変えた。

 言ってしまえば契約書にサインである、様々な契約書にサインをしてからレアスナタをプレイ出来るのだ。

 その結果業者やマナーの悪いユーザーを弾いた、こんな事をしているのは森山ボックスくらいである。


 今のレアスナタは本当にレアスナタを好きな人しか集まらないのだ、身分をさらしてまで悪い事をする奴などここには居ない。

 そして知らないや聞いてないは効かない、納得して契約書にサインしてるからである。


「今は他のゲームには絶対マネ出来ない程プレイヤーの民度が高くていいよね」

「やはりいい縁は良き流れを作る」

「長谷川君、ここは現実世界です」


 長谷川が縁っぽくセリフを言うと荒野原はジト目でそれを見ていた。

 そこに店の自動ドアが開き、お客が来た時のベルが鳴る。

 2人は息を合わせたかの様に飲み物を隠し営業スマイルをした。


「「いらっしゃいませ」」

「よっ! 長谷川! 久しぶりだな!」


 スーツ姿で手土産を持っている男性がにこやかに手を振りながら店内へと入って来る。

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