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第二話 演目 信仰心

「ふはははは! 縁結びの神如きが我に勝てると思っているのか!」


 団員達を吸収してパワーアップしたシュクダンは高笑いしている。

 先程シュクダンの攻撃を弾いた縁の右の手の平からは、血が溢れ出ていて地面へと垂れていた。


「ああ勝てるよ、世間知らず」

「何を根拠にそんな戯言を言っているんだ?」

「お前に勝てると言う事をちゃんと説明出来るからだ、お前は自分が勝てるという説明出来るか?」

「説明? 貴様の右手を見て見ろ! それがなによりの証拠ではないか?」

兎呪とじゅ……結束兎けっそくうさぎ


 縁がそう呟くと地面に流れていた血が兎の形になりシュクダンめがけて走り出す。

 何かする前に血で出来た兎はシュクダンの体内へと入り込んだ!


「貴様! 何を!」

「産まれてから自分の力が人間やその他の種族に脅威だと考えなかったのか? 神が万能だと思ってるようだがそれは違うぞ」

「ぐっ! 動けん!」


 白色の兎の形をした模様がシュクダンの体にあちらこちらと浮かび上がっている。


「消す前に簡単に基本的な事を色々と説明する」

「そんなものを誰が聞くか!」

「おい、人の良き縁を俺の目の前で無残に贄にしたお前に選択の余地は無い、少し黙ってろ」

「むぐっ!」


 シュクダンの口付近にも兎の模様が浮かび上がった。


「おっ!? えにっさんが神について語るんでやんすか? ちょっと興味があるんで邪魔にならない程度に聞き役やりやすよ? 旦那、へっへっへ」

「セイザいい機会だ、神について知っておくといい」

「はい、お父さん」


 リステイナはゴマをすりながら近寄ってきて、自分の影から机とイスを縁の近くに置いて座り、セイザも縁の近くに移動する。


「まずお前は人々の『願い』から産まれた神」

「おや? えにっさんは違うんですか?」

「母が神で父が人間だ」

「あっなるほど! つまり目の前の神様は『怒られた事が無い子供がそのまま成長した』って所ですかね、そりゃはた迷惑でヤンスな? リステイナ君賢い!」

「常識無く人知を超えた力で暴れまわられると厄介ですね」

「信仰心から産まれた神が全て非常識な訳じゃないがな」


 縁は左手で怪我した右手に軽く触れる、するとあっという間怪我が治った。


「神の強さについてだが、一番は『信仰心』」

「ほえ~さっきの話と繋がりそうでっすにゃ?」

「どれだけ人間に必要とされているか、恐れられているか、信仰心と言っても色々と有る」

「縁さんの血だらけの様なその姿も信仰心と関係があるのですか?」

「妹を守るため様々な種族と争った結果、こんな姿になってしまった」

「ですが言い換えれば強い信仰心を集めた証拠ですよね? そしてお父さんの様に信用している人達も居る」

「なるほどなるほど、信用等の正の感情、恨み等の負の感情でも信仰心になるっすね? で、目の前の神はえにっさんに比べて信仰心が少なかったから弱いと」

「理にかなってますわね」


 リステイナはノートに文字を書くふりをして、セイザは興味深そうに聞いている。


「次に贄……生贄についてだが、これも信仰心が関係している」

「……わかりましたわ縁さん、例えば『村の畑に雨を降らせてくれと生贄に捧げられた人』が居たとして、生贄よりも『雨を降らせてくれという強い願い』が神を動かすのでは?」

「そうだ、生贄は解り易い信仰心の集め方だが、そんなのはもう古臭い」

「賢いリステイナ君はわかりやしたよ? 9人で祈られるより10人で祈られる方が力で出るからでゲスな?」

「ああ、だから生贄は効率が悪い、それより祭りでもやった方が信仰心が集まる」

「にゃるほどにゃるほど、使い切りドーピングより継続的な力って事っすね」


 リステイナは影から影で出来た栄養ドリンクの様なビンとダンベルを机の上に置いた。


「長々と語ったがこれで最後だ、さっきも言ったがお前は縁を司る俺の目の前で一番やってはいけない事をした、お前が贄とした団員達は団長であったお前を信用し、そこには縁があった、善悪は関係ない、いい縁を持つ者を俺は好きだ」


 縁はシュクダンを睨んむと、リステイナは口笛を吹きながら縁から目をそらし、セイザは生唾の飲み込む。


「自ら進んで贄になったので有れば俺が口を挟む義理は無いが……そうじゃないだろ?」


 素早く両手で様々な印を刻む縁。

 その印は影絵で兎を作る時のような形がいつくもの言葉を表す様に変わっていく。


「消えろ! 白兎神術はくとしんじゅつ! 縁断絶!」


 縁は手を合わせ、パンという音が響く。

 動けず喋れないシュクダンの体から赤い糸の様なモノが無数に現れてはハサミで切られたように垂れ下がる。

 最後の一本が切れたと同時にシュクダンの体は塵の様になり風に流されながら消えていった。


「贄となった者達よ、せめて次の人生ではいい縁が有る事を祈る」


 縁はそのまま目を閉じて贄となった団員達に祈りを捧げた。

 少し離れた場所で見ていた東洋が終わった事を感じて近寄ってくる。


「えにっさん、今の技は?」

「文字通り縁を断ち切る技だ」

「あら? それって信仰心を断ち切るのと同じ事なのでは?」

「おお! 強力そうな技でヤンス!」

「だが奴も神、そして願いから産まれたのであれば直ぐに復活するだろう」

「ん? そうなんでゲスか?」

「ああ、精神体みたいな存在だから奴を求める声が多ければな」

「確か粛清と断罪の神でしたか?」

「ありゃりゃ~一部の人達に大人気なワードですよそれ、復活したらどうするんでヤンス?」

「どうもしない、俺の知り合いに迷惑かけなければな」

「どうやって産まれたとか誰がラキアグの街にちょっかいだしたのかとか、色々と謎が残りますがとりあえずこれで終わりっしゅね」

「縁さん、ありがとうございます」

「すまんな縁、お前が居て助かった」


 セイザと東洋深々と頭を下げた。

 縁はウサミミカチューシャを付けていつも通りのジャージ姿になる。


「ああ、どういたしまして」

「お礼をしたいのですが」

「ならえにっさんの神社の賽銭箱をいっぱいにしやしょうぜ?」

「なるほど」

「やめろ、お礼なんていいから」

「ではせめてお茶の一杯をラキアグで奢らせてください」

「そういうお誘いなら喜んで」

「おお! 三時のおやつっつですな?」

「貴方は何もしてないでしょう?」

「遊んでたら疲れたぴょん」


 両手を頭の上で開きウサミミを表現しながら跳ねている。

 それと同時にねちっちゃいリステイナが机やイス等を本体の影に分投げて後片付けをし、一礼をして自分達も影へと消えていった。


「全く……案内しますからついてきてください」

「れっちゅゴー!」


 セイザを先頭にラキアグの街を目指す。

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