自警団の団長は自分が切り捨てた人間が元気に走り去って行くのに驚きを隠せなかった。
「回復魔法? いや、蘇生魔法か! これほどの高位の魔法を容易く使える貴様! 何者だ!?」
「あらあら、私の魔術に少なからず対抗出来るなんてやりますわね? 自警団の団長様…フフフ」
「おのれ魔女め! 私はグレモリアル自警団団長! アースカリアの剣のサビにしてくれるわ!」
自警団の団長は動きは遅くなっているが、剣を抜いて辺りを見回した。
女性の声が広場に響きわたるが広場周辺は自警団しか居ない。
「姿を見せろ!」
自警団の団長アースカリアは剣を地面に突き刺した!
アースカリアが持っている剣をよく見ると、鎧のように黒と赤が混ざったような色をして返り血で染まったようにも見える。
その色が波紋の様に辺りへ拡散すると動けなかった団員が徐々に動き出す。
「あらあらそんな呪われた剣で私を斬るとでも? いいでしょう、お相手して差し上げますわ」
アースカリアの少し離れた場所にに突如女性が現れる。
その女性は金髪のドリルヘアーで真紅のドレスを着て、社交パーティーにうってつけのデザインだ。。
顔付きは凛々しく堂々として、少々グラマーで眉毛は少し太く背丈は成人女性の平均といった所だ。
「傷の魔女の娘セイザ参上、と、でも言えばいいかしら? 団長様?」
「傷の魔女の娘だと?」
「ええ」
セイザは自身満々に高笑いをし、団員はざわつき始めた。
「傷の魔女の娘……どこかで?」
「数十年前に大量殺害を犯した魔女の娘か!」
「その時の主なメンバーは東洋という全身鎧の男と強化魔法が得意な男に筋肉質の男だったとか」
「俺もそれは資料で読んだが東洋以外の名前が全て不明だった」
「いや、それよりも大量殺害出来る魔女に俺達は勝てるのか?」
団員達のざわつきがより一層大きくなり、統率が乱れ始める。
「皆うろたえるな!」
喝を入れられた団員達はハッとして武器を構えた。
アースカリアは右手を掲げた一瞬で右手にどす黒い玉が現れ、そのある程度の大きさになった所で黒い玉を地面に叩きつけた!
霧のように辺りに充満し、団員達は次々とセイザを取り囲みざっと10人は居る。
「粛正と断罪の神シュクダンの奇跡よ! 悪しき魔女の災いを払いたまえ! 悪しき魔女の娘よ! これで貴様の術なぞ役にはたたぬわ!」
「あらあら怖い」
「その余裕もいつまでも持たぬぞ! 粛正と断罪の神シュクダン様の加護が有る限り、貴様に裁きを下してやる!」
「よほどその『加護』に自信があるようね? 本物の加護の力を見せてあげるわ、私ではないけど」
セイザはニヤリとしながら右手の親指と中指をこすらせ、パチンと音を鳴らした。
アースカリアはそれを見て剣を勢いよく地面に突き刺し、怒りに満ちた声で叫んだ!
「我らにはシュクダン様の加護がある! 粛正と断罪を忘れなければ必ずや悪しき魔女を倒せる! みな声をあげよ!」
アースカリアは突き刺した剣を地面から抜き、剣を空高く掲げた!
「うおおおぉぉぉぉ!!」
アースカリアは雄叫びをあげた!
その雄叫びから少し遅れて団員達が雄叫びをあげる、グレモリアル自警団の団員はおよそ30人、大人数の雄叫びは大地を揺るがす怒号のようだ!
そして空が急に曇った、その雲はどす黒く血のような雲。
空から赤色の雨が降り注いでくる、グレモリアル自警団の団員は恵みの雨かの如く両手を広げ赤い雨を全身に浴びている!
そして周辺に居る動物や植物にも赤い雨が当たと動物達は動かなくなり、植物は赤く染まって別の植物かのようになった。
「みなの想いがシュクダン様に届いたぞ! この祝福の雨を浴び! ここを魔女の墓場にするのだ!」
アースカリアは両手で剣を持ち、セイザの方を見た。
「まあ大変、どうにかしなきゃ」
「ふっふっふ、随分と余裕ではないか魔女よ、どんな策を講じようが我らの神の前では赤子同然」
「この程度の雨が加護? ドレスが汚れるだけで嫌な精神攻撃ですこと」
セイザは血の様な雨に打たれながらドレスに何かゴミが付いた様に軽く払いのけている。
「最後の言葉がそのセリフか魔女よ、では死ぬがよいわ!」
アースカリアが剣をその場で振り下ろした、すると団員の何人かが消えてセイザの頭上に現れた!
そして剣を両手で握り締め、地面に差し込むかのように両手を上げて一気に振り下ろす!
キンと高い音と共に初撃は弾かれた、結界を貼っていたのだろう、しかし目に見える亀裂が入った。
団員数名が結界に亀裂確認した瞬間、アースカリアが瞬間移動し亀裂に斬撃をする。
ガラスが壊れるような音と共に結界が砕かれ、その好機を見逃さない団員達は四方八方からセイザに向けて一斉に剣を突き出した。
結果セイザはあっけなく串刺しになってしまい、その場に血を流しながら倒れた、セイザが動かなくなったのを確認した団員達は剣を抜いて各々鞘に納めた。
「ふん、魔女と言えど死ぬ時はあっけないか」
アースカリアは剣を納めセイザの死体へと近寄り、つま先でセイザの死体を転がした。
仰向きになるセイザの顔は無表情で空を見ている。