神社の境内に誰も居なくなってから数十秒後。
リンリンとロールを開始した時と同じベルの音が響き渡った。
帰ったはずの縁達も境内へ戻ってきて、最後に現れたゴスロリの女性も姿を現し少年の姿は無い。
「ロールお疲れ様でした!」
「「「「お疲れ様でした!」」」」
縁がお辞儀をすると他の人達もお辞儀をした。
「ういーす! 兄貴! 愛おしい妹のダイレクト身投げー!」
「はいはい、ゲームだと久しぶりだな絆」
絆はいきなり縁に向かってダッシュしてジャンプ。
そして空中で両手を広げた。
縁はめんどくさい顔をしながらも絆を受け止めた。
「へいへい、兄貴! あのナウい女性キャラクターは誰だい? 私にも紹介してよ~」
「彼女は風月さん、今日初めて一緒に遊んだんだ」
「おおう、ちゃんと挨拶しなきゃ!」
絆は縁から離れて風月の前に立った。
「ごきげんよう、わたくしは絆、お兄様共によろしくお願いしますわ」
「……」
優雅に挨拶をする絆を風月は黙って見ていた。
「うお! 滑った!? 兄貴! 滑った妹をフォローして!」
「俺にそんな技術力は無い」
「ちぇ~……あ、ごめんなさいキャラになりきって挨拶してしまい」
絆は風月に平謝りを何度もしている。
「ああ違うの! あまりにもキャラクターとプレイヤーの雰囲気が違うからあっけにとられたというか、キャラクター可愛くて絶句したというか」
「おお! やったぜ兄貴、私のキャラクターのファンが増えたよ!」
「よかったな」
「そいえばあの少年は運営のお手伝いさんのキャラクターだよね? 何かのイベントするの?」
「兄貴達と考えた公式初イベントに向けたフラグ回収だよ風月さん」
「ああ~そういば数ヶ月後に初イベだったね」
「よかったら私達のシナリオに参加します?」
「お、絆さんいいの?」
「もっちろんですよ! ささ、フレンド交換いたしましょ~ほれ兄貴達も速く」
全員メニューを開いてフレンド交換の操作をした。
「お前自キャラ可愛いって言われてテンション高いだろ」
「おバカですかお兄様? 可愛いと言われてテンション高くなるのは当たり前ですわ!」
「エフェクトを使うなエフェクトを」
絆はドヤ顔をしてスポットライトを浴びて紙ふぶき、クラッカーまで付いている。
「ロビーが出来たらこう言う会話もそこになるんだろうね~」
「いや? 必ずそこでしろって訳じゃないがな、今だって非表示等の設定あるだろ」
「斬銀さんわかってるんだけどさ、早く実装しないかな~なんて~かさ、舞台の上で楽屋裏やってる感じが」
「まっ、もうすぐなんだから気長に待つことだな」
「果報は寝て待てって事だ、あ、この後どうする? まだ何かする?」
「僕はこれで失礼するよ、仕事が……家に持ち帰る事になった仕事が! 正式版稼働初日なのに!」
「おおう、グリちゃん大変だね、お疲れ」
グリオードは悔しそうに握り拳をつくっていて、絆はポンと肩を叩いた。
「俺も一旦おちるわ、VIPルームの夕飯時だし」
「これまた兄貴らしい、何日滞在するのさ」
「3日間」
「セレブー」
「半額券使ったけどな」
「落ちる人は落ちて、後は残る人達でどうするか考えよ~」
「だな、今日はお疲れ様でした」
「お疲れ様です」
「おつ~」
「お疲れ様」
「お疲れ様だな」
縁はメニューからログアウトを選択すると直ぐに薄暗い部屋が目に入る。
『長時間のロールお疲れ様でした、一時間以上の休息をおすすめします』
部屋のスピーカーから聞こえる声に長谷川は溜め息をした。
「今更だが……VRゲームだからこの部屋うろうろして独り言言ってるだけなんだけどスゲーよな」
長谷川はゴーグルとシートベルトを外しプレイルームから出た。
VIPな部屋へ戻ってきて部屋のベッドに横になる。
「ベッドも広すぎるだろ! ふかふかしすぎだろ! くっそ! 半額とはいえ高い金払ったのに見合ってるぞ! そしてお腹すいた」
何回かベットでゴロゴロ転がった後、ソファーに座りご飯のメニュー表を見る。
「……自キャラ弁当だと!?」
長谷川はメニュー表を持ちながら立ち上がった!
自キャラ弁当のメニューには制作に時間がかかる、完全再現は出来ない等々の注意事項と共に『お客様のご予算に合わせます』の文字。
「万札出したらどうなるんだ? やってみるか!」
その後、豪華な重箱の夕食を堪能して1日を終了。
そんな調子で3日間長谷川はVIPルームで過ごした。