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第一話 幕切れ 願

 うさみみカチューシャを外した縁は神々しい雰囲気を放っていた。


「縁、血だらけに見えるけど大丈夫?」

「妹守った時に人々に恨まれただけさ、それよりも神社に行ってくるわ」

「待て待て縁、俺達も行くぜ? 草むしりもしなきゃいけないだろ」

「あたしも神社見たい」

「僕も行くよ」

「そんじゃいくぜ」


 縁は指をならすと地面に白い色の兎の模様の魔法陣が現れ、その場に居る全員は優しい光に包まれて消える。


「ほえ~立派な鳥居だねぇ」


 風月が関心したように声を上げる。

 目の前にある鳥居はおもむきのある立派な造りでその奥には緩やかな階段と両脇に手すりと観賞用の植物が植えられているのが見えた。

 周りには舗装された道と平原が続いている。


「神社は拝殿しかないがな」

「って今思ったら子供が拝んでるかもしれないんだよね? その姿はまずくない?」

「数分なら誤魔化せるから大丈夫だ」

「そうなんだ……おっと! 鳥居を通る時は頭をさげないとね~」

「そうだな」


 風月、斬銀、グリオードは鳥居に向かって頭を下げた。


「俺は人に崇められるような神じゃないから頭はさげなくてもいいよ」

「縁、卑屈過ぎやしねぇか?」

「そうだね、現に少年がお参りに来てるのは感じているだろう?」

「ああ、しかし何で俺の神社なんかに」


 先頭の縁は溜め息をしながら鳥居の真ん中を通り、風月達は端を歩く。

 緩やかな階段を上り切ると、手入れもされてなく草まみれの神社の拝殿の前に少年が居た。


「お父さんが……帰って……きますように……お金無いけど……お、おね…が……」


 少年は泣きながら賽銭箱の前で手を合わせていた。

 その光景を見た縁の目から涙があふれている。


「俺は……神として恥ずかしい、純粋な『願』を……いや、反省は後だ」


 縁は鞄からハンカチを取り涙を拭いた後、少年に向かってゆっくりと歩き出しすと共に、血を浴びたような姿も真っ白になった。


「君」

「ヒッ!?」


 少年は振り返ると同時に尻餅をついた、縁は笑いながらてを差し伸べた。


「大丈夫かい?」

「お、おじさん誰?」


 縁は子供を立たせるとしゃがんで少年と目を合わせ、鞄から兎の模様がはいったハンカチを使って涙を拭いてあげる。


「ここ居る神様の知り合いさ、何をお願いしていたんだい?」

「遠くにお仕事に行ったお父さんから連絡がこなくなったの、前までお手紙とか届いてたんだけどそれもなくなって……でも、神様ってお金無いと願いを叶えてくれないんでしょ?」

「何?」

「お母さんと一緒に行った神社で貧乏だって笑われた、お金無いと願いは叶わないって言われたから……」


 肩を震わせまた泣き始めた少年に縁は涙を拭き、肩に手を置いた。  


「ここの神様はお金はいらないよ、君の願い、ここの神様が叶える」

「可愛い服を着て傘を持ってたお姉ちゃんにも同じ事を言われたけど、本当? 本当に本当?」

「もちろんだ、ここに居る神様を信じてほしい」

「絶対?」

「ああ!」 


 縁は力強く頷くと少年はニコッと笑った。


「君は傘のお姉ちゃんにここの神社を教えてもらったのかい?」

「うん、連れてきてもらってるんだ、僕が神社に行きたいと思ったらいきなり現れたり、帰る時もいきなり現れるの」

「そうか」


 その時カラスの鳴き声と共にそよ風が吹いた。

 縁は空を見上げると夕暮れ時だった。


「もう夕暮れか、もう暗くなるから帰りなさい」

「うん、ねぇ本当にお願い叶えてね? 絶対だよ!」

「わかった! さようなら!」


 少年は縁に頭を下げて、元気よく階段を下って行った。


「少年、運が良かったな」


 縁は長い髪をそよ風に揺らされ勝ち誇ったような顔をしながらそう言った。


「つ、疲れた!」

「おう、お疲れ」

「いや~神様っぽい雰囲気バリバリ出てたね」


 突然息切れしながら縁は膝から崩れ落ち、再び返り血を浴びたような模様が現れる。


「縁、これをお疲れ様、疲れた時は僕の会社が作った新商品の『信仰心ジュース』を飲むといいよ」

「いやこれ何処に需要があるんだよ、まあいいか」


 グリオードはペットポトルを縁に投げた。

 ラベルには『神様御用達!?』と書かれている。

 縁はそれを飲み始めた。


「そいや~気になったんだけどさ、縁を拝むとどんなご利益があるの? 幸運の神様って言ってたけどどんな幸運?」

「一応縁結びが主かな?」

「お! 縁結びとな!」


 風月は自分のポケットをあさり、四角いお金を取り出し賽銭箱の真ん中に立った。

 そして、軽く会釈をし鈴を鳴らすし四角いお金を賽銭箱に入れた。

 その後、二回頭を下げておじぎをして両手を胸の高さで掌を合わせ、合わせた手の右手を少し下にずらし二回拍手する。


「素敵な出会いをします、見ていて下さい」


 拍手した後、ずらした指先を元に戻した。

 そして最後に一礼した。


「よし、てな訳で縁、見守っていてくださいな」

「願いを叶えるのは自分の力だ、例外はあるが祈る事だけしてもなにも変わらんぞ?」

「解ってるよ、祈りって神様に言う約束事だしね~」

「うむ、君が素敵に素敵な出会いがあるように祈っているよ」

「わーい」


 風月は子供のようにはしゃいでいる。


「なあ縁、草むしりしながらさっきの話を聞いていたが、金無いからって門前払いの神社ってあるのか?」


 斬銀の横には刈られた草が山盛りになっている、神社は少しだけ景観が綺麗になっていた。 


「世の中広いから無いとはいいきれない」

「お祓いとか祈祷とかで金ってんなら分かるけどよ、祈るだけで金って可笑しいだろ」

「その神社がどの国や地域にあるかで法律や規則、風習などもあるからなんとも言えないよ」

「グリオードの言い分もわかるが納得いかねぇな、縁、どうやって解決するんだ?」

「神社も気になるがあの男の子のお父さんが無事かどうかと、事件に巻き込まれてるならそれを助けるだけだ」

「ああそりゃそうか、神社をどうこうって話じゃなかったな」

「既に絆が動いてくれているようだしな」

「誰?」

「俺の妹だ」

「ほ~これまた縁結びと関係がありそうな名前だね」

「妹は縁切りの神だよ、悪い縁を断ってくれるんだ」

「ほほう、なら妹さんにもお祈りしないとね、なむなむ~」

「今日は帰ろうぜ、ここで出来る事も無いだろう」

「ああ」


 縁達が神社から居なくなると、屋根に一人の小柄な女性が現れた。

 黒がベースで白い模様が入ってるゴスロリ服には兎のアップリケが数羽。

 紫色の傘を持っていて、黒色のウサミミカチューシャをしていた。


「草むしりしたら最後までお片付けしてくださいまし」


 女性が指を鳴らすと大量の草一瞬で消える。


「お兄様、これから忙しくなりますわよ?」


 そう言い終わると女性も消えて神社には誰も居なくなった。

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