風月はゆっくりと自分の事を語りだした。
「んじゃ、界牙流から説明するけどね~簡単に言えば『自分の大切な人をたとえ世界を敵にまわしても守る』って流派」
「言葉だけ聞けば凄そうな流派ですね」
「いやいや縁! この流派はマジやべぇんだって!」
「え? そうなんですか?」
「本当に言葉通りだからだよ!」
「ふふん、凄いだろ~っても、あたし自身ははだ『世界は』相手にした事はないかな」
風月は自身満々な顔をしている。
「質問なんですが流派の起源を教えてください」
「ほいほい」
「俺も成り立ちとかは知らねぇな」
「んとね、初代はどこにでもいそうな格闘家で、ずば抜けて強いわけじゃなかったんだよね」
「最初から強かった訳じゃなかったのか」
「そりゃね、で、初代は奥さんもらって二代目が産まれましたと」
「そっからどうやって界牙流ができたんだ?」
「奥さんが悪い奴に憑依されたんだよね、その姿で悪行をしまくったらしいよ」
「お、おい、そのオチって……」
斬銀は少しひきつった顔をしながら風月を見る。
「そ、結果は初代が奥さんを殺したんだよね、憑依してた奴は逃げたらしいよ」
「胸くそ悪い話ですね」
「だよね……奥さんは遺言で『子供や大切な人に貴方と同じ気持ちをさせないであげて』と初代に言ったらしいよ」
「その言葉が界牙流の心情になったのか」
「うん、初代と二代目は世界を旅して色々な戦闘技術を学んだり、人脈を作ったりしたみたい」
「気になるのは奥さんに憑依していた奴はどうなったんですか?」
「二代目がきっちりと完全消滅させたとか」
「まさかとは思うが……その憑依してたやつって全く同じ手で誰かに憑依してたのか?」
「らしいよ? 何時までも同じ手が通じると思うのが甘いよね」
「だな……ああそうだ風月、五代目って事は伴侶が居るのか?」
「……斬銀だっけ? あんた何者?」
風月は斬銀を睨み敵意をむき出しにして見て、斬銀はキリッとした表情になり、立ち上がりポーカーテーブルから少し離れた。
「失礼、俺の流派は『斬』の現師範代の斬銀、界牙流五代目、お初にお目にかかる」
斬銀は右手を拳を握り肘をL字に曲げ手を前に出した後お辞儀をした。
それを聞いた風月は睨むのを止めて尊敬する眼差しをしながら立ち上がる。
「私は界牙流五代目、本名は伴侶は居ないので明かせない、仙人としての名前は風月だ、斬の師範代よろしく頼む」
風月は腕組みをし、そのまましゃがみ頭を組んだ腕に付けた。
しばらくして斬銀と風月は顔を上げる。
お互いの頭の下げ方は自分の流派の誠意がこもった挨拶なのだろう。
「そっかそっか、斬銀は斬の師範代か~先祖がお世話になりました」
「おう、ってか一つ疑問があるんだが」
「どったのさ」
「確か界牙流って伴侶居ないと何代目~とか名乗れなかったよな?」
「んだよ、まあそこまで厳しく守らなきゃいけないものでもないし」
「なるほどな」
「おっとっと」
風月は縁を見ると自分が座っていた椅子に座り、斬銀はポーカーテーブル付近に移動し立ってる。
「縁さん抜きで盛り上がってしまったよ」
「いえいいんですよ、私は格闘家ではないですが同じ業種の人との話は盛り上がりますからね、わかります」
「あれ? 格闘家って業種?」
「一般的な格闘家は業種だろうが……あれだ! 風月は格闘家として金を稼いでいるか?」
「修行ばっかでお金は稼いでないけど?」
「おおう……」
「あ、でも里の野菜作るのとか魚を捕るとか鉱石掘るとかお酒作ったりで手間賃もらってるかな」
「おお、それなら生産者の仕事ってやつだな」
「斬銀は自分の腕でお金稼いでいるの?」
「ああ、傭兵とか用心棒の仕事とかでな」
「いいな~あたしは表だってあまりそういう事出来ないから」
「裏で何してんだよ」
「ただの『自己防衛』しかしてないよ」
風月はこの世を嘲笑うかのような黒い笑みをしてそう言った。
「その笑顔怖えよ! なあ縁!」
「そうですね、風月さんは楽しそうに笑っているほうが素敵ですよ」
風月の黒い笑顔を見ても縁は態度を変えずに歯を光らせながら笑顔でそう言う。
「ねぇ斬銀、これが噂に聞く『なんぱ』ってやつ?」
「縁、そう言う言動は誤解されるから止めろと昔から言ってるだろ」
「は!? 昔から!? 色んな女性をたぶらかしてって事?」
「いや、男女問わずくっさいセリフを言う時があるんだ」
「ぷっ! うひゃひゃひゃひゃ!」
風月はいきなり笑いながらペシペシと凄い勢いでポーカーテーブルを叩き始めた!
「風月、どうしたいきなり!」
「いやだって男女問わずって事は斬銀も言われた事あるんでしょ!? ムキムキ男に歯を光らせながら!」
「なっ!? 俺は……あったっけ?」
「俺も男ですから『言葉遊びがちゃんと出来きて理解出来る女性』しか言ってませんよ」
「ぶはははは! 斬銀が言ってる事と違うじゃん!」
「いやお前この間男にも言ってなかったか!?」
「心も乙女で男装が趣味の女性と心が乙女で女装する男性にしか言ってませんよ?」
「性別で言えば男にも言ってんじゃねーか! 俺あってんじゃねーか!」
「駄目だ! マジで笑える!」
風月が椅子から滑り落ちた。
地面をゴロゴロと転がりながらバシバシと地面を叩いている。
その時、カジノの扉が開いた。
「縁、居るか?」
カジノに一人の男性が来店してきた。
その男性は砂漠に住んでいる王様のような服装をしている。
マントは儀式や礼服のマントではなく雨風をしのぐマント。
髪は黒でロン毛であり、その顔つきは整っており高貴な風格を醸し出していた。