開始を告げるベルが鳴る。
縁は一人でポーカーをしていて斬銀はスロットで遊んでいた。
「おい縁、この台出ないぞー」
「斬銀さん、出ないからってスロット台壊さないでくださいね」
「壊さねーよ!」
「と、言う割にはイラついてスロットやってますよね」
「てかお前このスロット可笑しくねーか!? 尋常じゃないくらい早いんだが!」
「ああそれ確率とかじゃなく目押し台なんで」
斬銀が遊んでいる台のスロットの速さは電車の窓から真下近くの景色を見たように速い。
「目押し~? ウソだろ~? 数年前に世界に名を轟かせた格闘流派『斬』の現師範代だぜ~? その俺が押せない~?」
「斬銀さん、それ自分で言ったらカッコ悪いですよ?」
「ガキのイキリじゃなく実力を世界にしらしめた俺の言葉なんだが?」
斬銀は振り返った、それと同時に場の空気が変わった。
それまで気前のいいおっちゃんがスロットを遊んでいるだけだったのだが。
自身に満ち溢れ殺気を露わにし、睨む様に縁を見る。
「言ってる事はかっこいいんですがスロットにムカついてるだけですよね?」
「だってよー! でねーんだもん!」
「それ無料台だから難し……」
「たのもー! 強い殺気を感じて来ました! やはりカジノという場所は裏格闘技があるんですね! どうやったら参加できますかー!?」
縁が呆れた顔をしながら斬銀に近寄ろうとした時、風月が出入り口の扉を思いっきり開けて入って来た!
自身満々でキョロキョロしている風月に縁と斬銀はあっけにとられている。
しばらくしてハッとした縁が深呼吸をして風月に近寄っていった。
「ここはそういうカジノじゃありませんよお嬢さん」
「お、お嬢さん!? うは! やべーよ! イケメン兎に声かけられた!」
「おいおいなんだなんだ、スゲー女が殴り込みに来たな」
「……」
テンションの高かった風月が斬銀を見た瞬間まるで雨で遠足が中止になった子供の様に静かになった。
「あの……兎さん、私山に住んでる田舎者なんで偏見とかで笑われるんですが」
「どうしました?」
「都会って上半身晒していても大丈夫なんですか?」
「安心してください、あの大男が少し可笑しいだけです」
「そうなんだ、この地方独特の文化かと思ったよ~」
「この地方はカジノや遊園地、映画館とかの娯楽施設が密集したエリアですから、服装だけで話を進めるのであれば上半身裸はまず店に入れませんよ」
「もしかして噂に聞く『すーつ』とか『どれす』ってやつを着なきゃだめってやつ?」
「店によってはそうかもしれませんが私の店は気にしませんよ」
「あのー……田舎娘が失礼な事言いますけど……」
風月は斬銀をチラッと見た後、今居る3人以外誰も居ないだだっ広く感じてしまうカジノを見回した。
「その人が居るからこの店は閑古鳥が鳴いてるんですか?」
「いえ、斬銀さんは関係ありませんよ、自分でまいた種ですから」
「おっ何々? 気になるじゃないそんな言い方されちゃ~」
「隠す事でもないのでお話しましょうか?」
「聞きたい!」
縁が指を鳴らすとカジノの扉はゆっくりと閉まっていく。
そして風月を上品にエスコートして中央にあるポーカーテーブルの椅子に座らせた。
斬銀は険しい顔をしながら『やっぱりTシャツくらい着るべきだろうか』と静かに唸りながらスロットで遊んでいる。
「突拍子も無い事からお話します」
「おう、どんと来い!」
「実は私、幸運を司る神でして」
「ふんふん! それで?」
「あれ? ビックリするかと思いました」
「一語一句ビックリしてたら話が進まないでしょ? 続きをどうぞ!」
「簡単に話ますと、子供の頃は神の学校じゃなく地上の学校に通ってました」
「ほうほう、神様の学校とかあるんだ……それで?」
「妹は不幸を司る神なのですが、そこの先生方は理解ある人達でしたが……」
「ははーん……不幸を司るってだけでイジメにあったのか?」
風月は腕と足を組み、ドスの効いた声と怒りを露わにした顔をしている。
「はい、それが徐々にエスカレートしていって……」
「戦争になるまで発展したとか?」
「ええ、最終的には」
「なるほどなるほど、一言で言えば小さい時から兎さんは妹さんを守る為に『敵』と戦い続けたんだね?」
「はい、両親や友達、そこに居る斬銀さんも巻き込んでしまいました」
「その戦い勝ったの?」
「複雑に様々な国と勢力と戦いましたから結果はそれぞれです」
「ああなるほど、例えば金で雇われた傭兵を恨むのは筋違いって事ね?」
「ええ、当時まだ子供だった自分にその分別はつけれませんでしたが」
「その妹さんはまだ生きてるの?」
「もちろんですよ」
「おっ! だったら兎さんの勝ちだね! 大切な妹を守り切ったんでしょ?」
風月は自分の事の様に嬉しそうに笑いながらサムズアップした。
「あ、兎さんって呼ぶのは失礼だった?」
「いえ、自己紹介が遅れました、私の名前は縁といいます」
「あら、縁起が良さそうな名前ね」
深々とお辞儀する縁をニコニコしながら見ている風月。
「私は風月、
「聞いた事な……」
「界牙流だと!?」
斬銀が大声を上げながら振り向いく、それと同時にスロットが回っているリールの最後のボタンを押した。
パパパパーン! スロットは音が鳴ってスリーセブンの大当たりしスロットからチョコのお菓子が5個出てくる。
「おお! 当たった! じゃなくて!」
景品のチョコのお菓子を鷲掴みにして斬銀は2人の元へと歩き出しポーカーテーブルの椅子に座った。
「まさか世界に牙をむく流派に会えるとは」
「お? あたしの流派も有名になったね」
「凄い流派なんですか?」
「んじゃ、お礼って訳じゃないけど次は私の自己紹介だね?」
風月は自身満々に腰に手を当ててエッヘン! としている。