それから、少し先の未来。
アイリとディアは結婚してからも、変わらず魔界の城に住み続けている。
それはアイリの『王女』という立場、そしてディアの『魔王の側近』という立場から、自然な流れだった。
愛娘と離れたくない魔王にとっても、ディアはアイリの理想の相手なのだ。
その日、アイリとディアは二人の子供を連れて、魔獣界に来ていた。
……というか、子供たちに連れてってと、ねだられたのだ。
今では魔界と魔獣界の城は転移魔法の扉で繋がれて、簡単に行き来できるようになった。
魔界の城にある専用の扉を開けると、そこは魔獣界の玉座の間へと繋がる。
そこではエメラが待っていた。
「お待ちしておりました。魔獣王ディア様、王妃アイリ様、王子様に王女様」
「エメラさん、こんにちは!ごめんね、急に」
「お邪魔いたします」
ディアは魔獣王なのだから、その挨拶は変だ。
すると、男の子の方がアイリから離れて駆け出す。
「エメラお姉ちゃん〜!!」
そう言ってエメラに抱きついた、ディアにそっくりの、3歳くらいの男の子。
「まぁ、アディ様。お元気でしたか?」
「うん!あのね、ボクに空の飛び方教えて!あとお勉強も!」
「勉強熱心ですのね。偉いですわ、アディ様」
「うん!はやく大人になってボク、エメラお姉ちゃんをメトるの!」
「まぁ……」
ディアにそっくりなイケメン男児にプロポーズされて、エメラはまんざらでもない。
もう一人の、アイリにそっくりの3歳くらいの女の子は、アイリにくっついたままだ。
「ママ〜!アタシもレイトに会いたいよ〜!!呼んで〜!!」
「えぇ?もう、イリアったら……レイトくん、お仕事中だと思うけどなぁ」
「仕方ないですね、呼びましょう」
イリアが駄々をこねだしたら止まらないのを知ってるディアは、携帯通話機を使ってレイトに連絡した。
するとすぐに転移の扉が開いて、レイトが現れた。
「レイト〜〜!!」
イリアは飛びつくようにしてレイトの腰にダイブした。
「わっ……イリア王女、今日も元気だね」
「レイト、アタシに空の飛び方教えて!絵本読んで!勉強も教えて!」
イリアは明らかにアディに対抗しているようだ。
「あはは、今日も注文が多いなぁ」
「これはメイレイなの!レイトはアタシのダンナになるの!だから、ずーっとアタシのシモベなの!」
「イリア王女、それ怖いから……」
アイリにそっくりな可愛い女児にプロポーズされて、レイトはまんざらでもない。
アイリとディアの間に生まれた子供は、双子の男女。
とは言っても、二人の外見は全く似ていない。
兄のアディは、父のディアにそっくり。
妹のイリアは、母のアイリにそっくり。
親にそっくりなのは、見た目だけ。
魔獣王子・アディは明るく積極的で、魔獣王女・イリアは強気で活発。
二人とも魔獣の希少種『バードッグ』特有の、金色の瞳を持っている。
アディとイリアは、悪魔と魔獣、2種族の血と性質を完璧に兼ね備えている。
悪魔の羽根もあるし、魔獣の姿にも変身できる。
悪魔の王族の血筋も、魔獣バードッグの血筋も、最強の魔力も。
すべて薄れる事なく完璧に受け継いだのだ。
将来、アディはエメラと結ばれそうな気がするし、イリアはレイトと結ばれそうな気がする。
長寿の悪魔と魔獣だからこそ成せる、世代を超えた奇跡の巡り合わせ。
悪魔の王族の血筋も、魔獣バードッグの血筋も。
これからも途切れることなく、永遠に繋がっていくのだろう。
いつか、この魔獣界も……
魔獣王アディと、王妃エメラが治める日が来るのだろう。
そして、アイリとディア。
「アディもイリアも、将来が楽しみだね」
「そうですね。私も楽しみです」
悪魔の王女と、魔獣の側近。
これは、前例のない禁断の恋が成就し結ばれた、奇跡の物語。
そんな二人と家族の愛は、これからも永遠に続いていく。
—完—