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第21話 王女命令

 なんとか時間までに市長の元へとやってきた三人。

 市長室へはクラリスとファルシアだけで入り、ユウリは出入り口の前で警備役。

 万が一、いきなりテロリストが攻め込んできた時に備えての割り振りである。


「これはこれはクラリス王女殿下。ようこそ商業都市ビイソルドへ。我々市民一同は王女の訪問を歓迎いたします」


 ビイソルド市長は小太りの男性だった。頭髪は薄く、眼鏡をしている。

 笑顔を浮かべる彼は、人の良さそうな印象を与えた。


「こちらこそお招きいただき、ありがとうございます。二日間、よろしくお願いしますね」


 対するクラリスはやはり『王女モード』。

 そろそろ慣れてきたファルシア。途中で吹き出すことはしなくなった。

 応接用の椅子への着席を促されるクラリス。ファルシアは彼女の背後に位置するよう立った。

 市長とクラリスが今日の段取りを確認している間、ファルシアは気づかれないように市長室を見回す。

 ――近衛騎士である貴方は常に、数秒後の王女の安全のために動かなければなりません。

 ユウリの言葉を胸に刻みつけていた彼女は、早速部屋の安全確認を行った。


(……変なところはなさそう?)


 ファルシアの危険に対する嗅覚は凄まじい。

 とりわけ、悪意を持って仕掛けられたものについては、すぐに見つけ出すことが出来る。

 それも母親の訓練の賜物である。

 ファルシアは、一番奇襲をかけられやすい窓ガラスへ視線をやる。

 魔力の気配を感じる。おそらく何かしらの防御魔法が付与されているのだろう。

 総合的に、この部屋には危険がない。


(よ、よし……! とりあえずユウリさんの言う通りに、出来た)


 話が終わったのか、クラリスが立ち上がった。


「さて、そろそろ行きましょうかファルシアさん」


「……は、はい」


「お待ちを、王女殿下」


 クラリスは市長のほうへ向き直る。


「既にご存知かと思われますが、テロリストが今回の祭りを狙っております。ありがたいことに、第三部隊からご協力をいただきながら、捜索と警備を行っているところでございます。どうか安心して、この二日間をお過ごしください」


「テロリストの件、委細承知しております。お互いに連携し、一刻も早く事件解決することを祈っております」


 部屋から出るなり、クラリスは大きなため息をついた。


「っはぁ……疲れる」


「お、おつかれ、様です」


「本当に疲れたわよ。さ、帰るわよ」


 今回、クラリスは大型の通話魔法具の前で挨拶をする。都市各地に設置された受信用の魔法具を通じて、彼女の姿と声が一気に拡がる。

 その挨拶が終われば、あとは祭りを適当に視察し、それで終了。

 これほど楽な公務はない。

 挨拶の時間はまだ先なので、一度宿へ戻ることにした三人。

 帰りの道中、馬車の中でクラリスはぼやいた。


「それにしても、やっぱり来賓なんて大してやることないわね。これなら勉強していたほうがまだマシ」


「誰かに聞かれるかもしれないのに、その言い方は感心しませんよ王女」


「人がいないのを確認して喋ってるからオーケーなの。それよりも」


 クラリスはファルシアへ目を向ける。


「もうちょっとでさっきあんたが警戒した呉服屋を通り過ぎるけど、今のところどうなの?」


「と、特に何も、感じ、ません。嫌な感じもしません、し。殺気も感じられないし」


「距離、遠かったわよね。そんなに殺気って分かるもんなの?」


「わっわかります。離れてても、私やクラリスさんを狙ったものなら、分かります」


「その感覚は理解できませんね」


 ユウリにとって、感覚的な話ほど曖昧なものはない。

 しっかり根拠のある話こそ、彼女にとっては大事なのだ。


「う~ん……」


 クラリスは馬車の天井を見上げ、悩む。

 悩みの案件は、今回のテロ騒動。

 第三部隊も動いているので、最悪の事態は特に考えていない。

 だが、気持ち悪い。このままモヤモヤしたまま、王都へ帰るのは実に不愉快だった。


「ど、どうしたん、ですか? クラリスさん」


「あんた、テロリスト探しに付き合いなさい」


「……へ?」


 突然の命令。

 ファルシアは彼女の言葉を飲み込めずにいると、ユウリが口を挟んだ。


「お言葉ですが、ファルシア・フリーヒティヒは近衛騎士です。王女の側から離れるなど、言語道断です」


「まーったく。言葉をちゃんと理解している? 私は、『テロリスト探しに付き合いなさい』って言ったのよ。ファルシアを側から離すわけないじゃない」


「……は、発言の意味が分かりません」


「頭固いわね。だーかーら」


 クラリスはファルシアの腕を掴み、引き寄せた。


「私とファルシアもテロリスト探しに協力するって言ってんの」


「え、えええ!? く、クラリスさん、本気なんですか?」


「もしかしてあんた、私が酔っ払って発言してるとでも思ってんの? 私は常に本気よ」


「危険すぎます!」


 珍しくユウリが声を荒らげた。しかし彼女の反応は当然と言える。

 一国の王女に何かがあれば、このサインズ王国は終わる。

 クラリスはもちろんそんなこと分かっていた。だが、彼女はそんな無茶を考えさせてしまう『近衛騎士』がいた。


「ファルシアの危険察知能力を見たでしょ? この子がいれば、私は大丈夫」


「とはいえ……!」


「気に食わないのよ。このサインズ王国内で好き勝手やろうとする連中がね」


 クラリスはファルシアを指差す。


「王女命令。あんたは私と一緒にテロリスト探しに協力。その間、私のこと全力で守りなさい。以上! 何か文句は?」


「あ、ああありませんっ!」


 こうしてクラリスとファルシアも今回の事件に関わることとなった。

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