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第20話 私検定に合格でーす!

 その後、すぐに第三部隊がやってきて、呉服屋付近の捜索を開始した。

 その間、ファルシアは第三部隊の隊員から事情聴取を受けていた。


「どうも! 第三部隊所属、マルーシャ・ヴェンセノンでっす!」


 マルーシャ・ヴェンセノンは快活とした印象を与える女性だった。髪色は桃色。髪型はボブカット。目は大きく丸く、歯を見せて笑っていた。

 外見は整っている。『綺麗』というより、『可愛い』というタイプ。

 しかし、最大の特徴はそこではない。


「君が噂の近衛騎士ファルシア・フリーヒティヒちゃん!?」


 声が、大きい。

 鼓膜がビリビリとする。おそらく遠くから呼びかけられても、一発で気づける自信がある。まさに声量モンスター。

 側にいたクラリスは既にうんざりとした顔をしていた。


「は、はい……!」


「きゃああかわいー! ねえ、君可愛いね! どこ出身? 何歳?」


 事情聴取、のはずだった。マルーシャは目を輝かせ、まるで憧れの人と会話でもするかのようなテンションだった。

 対するファルシアは緊張で吐きそうになっていた。


「ひ、ひぃぃ……!」


 ――ぐ、グイグイ来る!

 ファルシアは押しに弱い。押されると「ひぃぃ」としか思えないし、万が一何かを売りつけられたらその場で「買います」と答えてしまう。

 故郷の村でもこのようにグイグイ来るタイプの人間がいた。その経験から、ファルシアはマルーシャに対して、少々苦手意識を抱いた。


「マルーシャと言いましたね。まだ時間があるとはいえ、私には予定がございます。できれば、早めにお願いしますね?」


 『王女モード』のクラリスは実に品の良い笑顔を浮かべた。言葉遣いも丁寧だ。

 だが、内容は「さっさと終わらせろ」を上品に言い換えただけである。そこには何の気品も感じられない。


「分かりました! ならばこのマルーシャ、さっさと終わらせます! あ、皆さん私のことは『マルーシャ』でも『マルちゃん』でも好きに呼んでください! ちなみに私は『マルちゃん』呼びが好きでーす!」


 声の圧が凄まじい。

 薄いガラス製品なら声だけで割ることが出来るのではないか。そんなことをつい考えてしまった。

 それはそれとして、これはチャンス。友達が少ないファルシアにとって、あだ名で呼べる知人が増えることは、実にありがたいことだった。


「で、ではまっマルちゃんさん……」


「さんなんていらないいらない! マ ル ち ゃ ん。はい、どうぞ!」


「ま、マルちゃん」


「はい合格ー! 私検定に合格でーす!」


「うぇ、え、えへへへへ」


 彼女の陽気さにあてられたファルシアはつい頬が緩んでしまった。ついでに不気味な笑い声もあげた。

 そのやり取りを見ていたクラリスはユウリにこう指示をした。


「ユウリ、あいつ国家反逆罪でしょっぴけない?」


「後々説明が困りますので、無理です。私ではない人に命令してください」


「ったく」


 ファルシアとマルーシャの間に立つクラリス。両手を腰に当て、威圧感たっぷりに再度『お願い』をした。


「もう一度言いますね。さっさと終わらせていただけますか?」


「い、イエッサー……!」


 再開された事情聴取。

 とは言っても、あの時のファルシアが得られた情報は少ない。


「ふむふむ。茶色の外套を纏った男が……」


「ゆ、弓を持ってました。おっおそらくクラリスさんを殺すため、かと」


「物騒な見解ね。何でそう思ったの?」


「あの人、こっこっちに殺気を飛ばしてました。クラリスさんがいた場所へ向けて……。だ、だからその、分かりました!」


「殺気……殺気……」


 マルーシャはユウリへ視線を送る。


「ねえ、ユウリちゃん。これどう情報共有すればいいと思う?」


「私に聞かないでください。あと、馴れ馴れしいです」


「返しが鋭すぎる……! だっ、だったらクラリス王女殿下は何か妙案が……!」


「優秀な貴方のことです。きっと答えにたどり着くことでしょう」


 翻訳すると、「知ったこっちゃないわよ」である。

 しかし、真の彼女を知らないマルーシャは敬礼ポーズで答えてみせた。


「わっかりました! このマルーシャ・ヴェンセノン! 必ずやナイスな情報共有をしていきたいと思います! じゃあ、私は行きます! じゃあねファルシアちゃん!」


 口が早いか、足が早いか。

 彼女は既に駆け出していた。颯爽と去っていく彼女の後ろ姿を、ファルシアは少しかっこいいと思ってしまった。



「ぷげ!」



 次の瞬間、道路の出っ張りにつまずき、顔面から転ぶ彼女の姿があった。

 かなり良い勢いに見えた。思わずファルシアは駆け寄ろうとしたが、それよりも早く、マルーシャは立ち上がった。


「鼻血出ちゃいました! みんなも走るときは必ず足元確認しようね! それじゃ!」


 マルーシャは持っていたハンカチで鼻血を拭う。そして懐から細長い瓶を取り出し、それを鼻にさした。点鼻薬らしい。

 軽く一礼をすると、今度は転ぶことなくマルーシャは走り去っていった。

 彼女が完全にいなくなったのを確認すると、クラリスはぼそりとこう呟いた。


「疲れた……。なんで市長に会う前からこんなに体力削がれなきゃいけないのよ……」


 ユウリはあることを思い出す。


「そういえば、第三部隊には非常に慌ただし――こほん、個性的な隊員がいるとの噂でしたが……」


「それがあいつってこと? っはぁ~……ファルシアに夢中だったようだし、何だか面倒なことになっていく予感がするわ」


「た、楽しい人、でしたね」


「楽しくないから! 声うっさいし!」


 それぞれ受け取り方が違ったマルーシャ・ヴェンセノン。

 そんな彼女との再会は、思ったより早い。

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