その後、すぐに第三部隊がやってきて、呉服屋付近の捜索を開始した。
その間、ファルシアは第三部隊の隊員から事情聴取を受けていた。
「どうも! 第三部隊所属、マルーシャ・ヴェンセノンでっす!」
マルーシャ・ヴェンセノンは快活とした印象を与える女性だった。髪色は桃色。髪型はボブカット。目は大きく丸く、歯を見せて笑っていた。
外見は整っている。『綺麗』というより、『可愛い』というタイプ。
しかし、最大の特徴はそこではない。
「君が噂の近衛騎士ファルシア・フリーヒティヒちゃん!?」
声が、大きい。
鼓膜がビリビリとする。おそらく遠くから呼びかけられても、一発で気づける自信がある。まさに声量モンスター。
側にいたクラリスは既にうんざりとした顔をしていた。
「は、はい……!」
「きゃああかわいー! ねえ、君可愛いね! どこ出身? 何歳?」
事情聴取、のはずだった。マルーシャは目を輝かせ、まるで憧れの人と会話でもするかのようなテンションだった。
対するファルシアは緊張で吐きそうになっていた。
「ひ、ひぃぃ……!」
――ぐ、グイグイ来る!
ファルシアは押しに弱い。押されると「ひぃぃ」としか思えないし、万が一何かを売りつけられたらその場で「買います」と答えてしまう。
故郷の村でもこのようにグイグイ来るタイプの人間がいた。その経験から、ファルシアはマルーシャに対して、少々苦手意識を抱いた。
「マルーシャと言いましたね。まだ時間があるとはいえ、私には予定がございます。できれば、早めにお願いしますね?」
『王女モード』のクラリスは実に品の良い笑顔を浮かべた。言葉遣いも丁寧だ。
だが、内容は「さっさと終わらせろ」を上品に言い換えただけである。そこには何の気品も感じられない。
「分かりました! ならばこのマルーシャ、さっさと終わらせます! あ、皆さん私のことは『マルーシャ』でも『マルちゃん』でも好きに呼んでください! ちなみに私は『マルちゃん』呼びが好きでーす!」
声の圧が凄まじい。
薄いガラス製品なら声だけで割ることが出来るのではないか。そんなことをつい考えてしまった。
それはそれとして、これはチャンス。友達が少ないファルシアにとって、あだ名で呼べる知人が増えることは、実にありがたいことだった。
「で、ではまっマルちゃんさん……」
「さんなんていらないいらない! マ ル ち ゃ ん。はい、どうぞ!」
「ま、マルちゃん」
「はい合格ー! 私検定に合格でーす!」
「うぇ、え、えへへへへ」
彼女の陽気さにあてられたファルシアはつい頬が緩んでしまった。ついでに不気味な笑い声もあげた。
そのやり取りを見ていたクラリスはユウリにこう指示をした。
「ユウリ、あいつ国家反逆罪でしょっぴけない?」
「後々説明が困りますので、無理です。私ではない人に命令してください」
「ったく」
ファルシアとマルーシャの間に立つクラリス。両手を腰に当て、威圧感たっぷりに再度『お願い』をした。
「もう一度言いますね。さっさと終わらせていただけますか?」
「い、イエッサー……!」
再開された事情聴取。
とは言っても、あの時のファルシアが得られた情報は少ない。
「ふむふむ。茶色の外套を纏った男が……」
「ゆ、弓を持ってました。おっおそらくクラリスさんを殺すため、かと」
「物騒な見解ね。何でそう思ったの?」
「あの人、こっこっちに殺気を飛ばしてました。クラリスさんがいた場所へ向けて……。だ、だからその、分かりました!」
「殺気……殺気……」
マルーシャはユウリへ視線を送る。
「ねえ、ユウリちゃん。これどう情報共有すればいいと思う?」
「私に聞かないでください。あと、馴れ馴れしいです」
「返しが鋭すぎる……! だっ、だったらクラリス王女殿下は何か妙案が……!」
「優秀な貴方のことです。きっと答えにたどり着くことでしょう」
翻訳すると、「知ったこっちゃないわよ」である。
しかし、真の彼女を知らないマルーシャは敬礼ポーズで答えてみせた。
「わっかりました! このマルーシャ・ヴェンセノン! 必ずやナイスな情報共有をしていきたいと思います! じゃあ、私は行きます! じゃあねファルシアちゃん!」
口が早いか、足が早いか。
彼女は既に駆け出していた。颯爽と去っていく彼女の後ろ姿を、ファルシアは少しかっこいいと思ってしまった。
「ぷげ!」
次の瞬間、道路の出っ張りに
かなり良い勢いに見えた。思わずファルシアは駆け寄ろうとしたが、それよりも早く、マルーシャは立ち上がった。
「鼻血出ちゃいました! みんなも走るときは必ず足元確認しようね! それじゃ!」
マルーシャは持っていたハンカチで鼻血を拭う。そして懐から細長い瓶を取り出し、それを鼻にさした。点鼻薬らしい。
軽く一礼をすると、今度は転ぶことなくマルーシャは走り去っていった。
彼女が完全にいなくなったのを確認すると、クラリスはぼそりとこう呟いた。
「疲れた……。なんで市長に会う前からこんなに体力削がれなきゃいけないのよ……」
ユウリはあることを思い出す。
「そういえば、第三部隊には非常に慌ただし――こほん、個性的な隊員がいるとの噂でしたが……」
「それがあいつってこと? っはぁ~……ファルシアに夢中だったようだし、何だか面倒なことになっていく予感がするわ」
「た、楽しい人、でしたね」
「楽しくないから! 声うっさいし!」
それぞれ受け取り方が違ったマルーシャ・ヴェンセノン。
そんな彼女との再会は、思ったより早い。