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第14話 謝ってください!

「そうかよ!」


 そう言い、リーダー格が剣を振り上げた瞬間、戦いが始まった。

 ファルシアはその攻撃へ剣を動かし、防御を選択した。

 体格差から繰り出される攻撃でも、ファルシアの姿勢が揺らぐことは微塵もなかった。


「複数戦、懐かしいです」


 瞳からハイライトが消失している状態のファルシアは、集中力が超人的なレベルとなっている。全ての感覚がフル稼働している。

 ファルシアは身体を僅かにずらした。それだけで彼女の背中を狙ってきた突きは空を切る。


(柄頭での打撃。殺すつもりはないってことですか)


 よくよく考えてみれば、当たり前の話ではある。

 サインズ王城で殺人など、誰が許そうものか。反逆罪とみなされても仕方ない。

 だからこそ、男たちは無意識に加減していた。怪我をするような攻撃でも、最低限致命傷にはならない程度の場所へ。


「おら、同時攻撃だ!」


 男たちはほぼ同時にファルシアへ剣を振るう。だが、どれも致命傷コースではない。

 ファルシアは何なら攻撃を全て食らった上で、反撃するかどうか考えていた。

 痛みには慣れている。これも全て、母親が常に実戦を想定した訓練をしてくれたからだ。

 ファルシアの腹は決まっていた。肉を切らせて骨を断つ。


「ファルシア・フリーヒティヒ!」


「なっ!?」


 ファルシアの身体に刻まれるいくつもの剣閃。そのどれもが読みどおり、ただのかすり傷。

 血が流れている。だが、この深さならば、やがて止まるだろう。

 彼女は面食らっている一人の腕を斬りつけ、剣を落とさせた。すぐにファルシアの赤い瞳が近くの敵を求める。


「ぃぃやっ!」


 吐き出される気合と共に、ファルシアは突貫する。

 狙いをつけられた男は剣の腹を見せるように構え、防御の姿勢を取る。対するファルシアはそんな男の手前で止まり、鋭い角度で跳躍した。

 突進と跳躍によるエネルギーはそのまま彼女の攻撃力となる。


「うぉあっ!?」


 剣の腹はそのまま男の額にぶち当たる。ファルシアは防御ごと攻撃を通してみせたのだ。

 流れる血も気にせず剣を振るうファルシア。その表情には一切の苦悶はなく、淡々と戦っていた。


(ファルシア・フリーヒティヒ……貴方は)


 その姿にユウリは戦慄を覚えた。

 あの時、適性試験で戦っていたときよりも気迫が凄まじい。

 実力としてはあの男たちよりも自分の方が上だろう。だが、戦闘にかける気合があまりにも違いすぎる。

 その『差』はすぐに分かった。


「本当に死ぬかもしれない戦闘、だから?」


 そんなファルシアの背後へ二人の男が同時に迫る。

 一人はカバーできたとしてももう一人は捌けるのか――。

 気にするよりも前に、ユウリは抜剣し、地を蹴っていた。


「がら空きの背中よなぁ!」


(一人は確実に捌ける。もう一人は左腕を使って防ぐ。そして、両方斬る)


 振り向いたファルシアは既に左腕を『盾』とし、同時に倒すつもりだった。

 痛みは慣れている。一番大事なのは、その痛みを乗り越えた先に、どんな結果を手にできるか。

 覚悟を決めていたファルシアの前に、ユウリが入ってきた。

 ユウリは神速の突きを繰り出し、片方の男の肩へ僅かな穴を作ってみせた。


「ぐっぅ……!」


「ありがとうございますユウリさん」


「……勘違いしないでください。これは元々私の戦いです」


 これで数は二対二。

 だが、リーダー格を置いて、最後の男は逃げていってしまった。

 二体一。数の利はファルシアたちにあった。


「くそ……どうして」


「私達のほうが強かった。それだけです」


 そう言うと、ファルシアの赤い瞳にハイライトが戻っていく。


「だ、だからその、ユウリさんに謝ってください」


「ファルシア・フリーヒティヒ、もう良い――」


「よ、良くないです!」


 ファルシアはつい声を荒らげてしまった。


「だ、だってユウリさんは頑張って第一部隊になれたんです。それに対して嫌なことを言うなんて、間違ってます」


 剣を収めながらリーダー格へ向けて、一歩踏み出すファルシア。

 おどおどしながらも、力強く言った。


「だっだから! 謝ってください! ユウリさんに!」


 リーダー格は僅かに目をそらした。

 その時点で、このいざこざは完全に決着がついた。


「ちっ……」


「退くのですか?」


「勘違いするな。戦略的撤退だ。俺たちはまだ、お前たちのことを認めたわけじゃない」


 リーダー格は背を向け、歩き出す。

 少し歩いたところで立ち止まり、そのまま二人へ言葉を投げた。


「ただ、その腕だけは見誤っていた。……そこだけは訂正する」


「訂正されてもあとで貴方たちの所属部隊へ抗議を入れさせて頂きますよ」


「元々覚悟の上だ。好きにしろ。全く可愛げのねぇ」


 いつの間にかあれだけ殺気立っていた戦いの場には、ユウリとファルシアの二人だけとなっていた。


「……あはは、なんかあっという間でしたね」


「そんなことよりも手当です」


 言われたファルシアは自分の体を点検する。しかし、流れていた血は固まり、行動には何の問題もない。

 ファルシアはそう訴えてみた。だが、いつの間にか応急処置の道具を握り締めていたユウリは有無を言わさず、手当を開始する。

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