アニメや漫画、ラノベなどである設定の一つに、学校のマドンナにいきなり告白されて!?みたいな展開がよくある。
まぁそれは空想の中だけでの話で、現実ではそんなことは起こりえない。
大抵の美女は野獣ではなく美少年とくっつくのである。
そもそも学校のマドンナ的な存在自体、あまり現実的ではないのだ。
だが、俺の高校にはそんな現実的ではないような存在、マドンナと呼ばれるような女子生徒が一人、俺の一個上の学年存在していた。
ちなみに日奈のことではない。
日奈も結構可愛いと噂されていたりするが、それ以上に噂されている人物である。、
日奈が可愛い系とすれば、その女子生徒は美しい、キレイ系といったものか。
俺も何回か廊下ですれ違い、その度にキレイだなぁと考えたりしていた。
恐らく学校で一番付き合いたい人は誰?とアンケートをとれば圧倒的一位に踊り出る事間違いなしなマドンナである。
そんなマドンナと呼ばれるような存在が、今、俺の目の前に少し頬を赤らめながら立っていた。
近くで見れば見るほど、キレイという感想が浮かぶ。
背中まで伸びた黒髪に、長く黒いまつ毛、そして大きな瞳にくっきりとした涙袋やすらっと通った鼻筋、神様に愛されたような顔をしている。
まぁ美咲の方が愛されているがな。
そんな女子生徒が、昼ごはんを美咲と一緒に体育館裏で食べようと約束し、向かっている途中の俺を呼び止めたのである。
俺は右手に弁当を持ちながら、女子生徒が話し出すのを待っている。
鳥の鳴き声、葉が擦れる音が俺の耳に届き、近くのグラウンドではサッカーをする声が聞こえる。
絶好の告白シチュエーションである。
俺は突然の出来事に頭が真っ白になりかけていた。
なぜ俺が!?何で呼び止められたの!?もしかして告白!?でもそんなわけない!?じゃあなぜ!?
脳内で考えがぐるぐると回っていて、回り止むことがない。
そしてその女子生徒がようやく、小さく口を開けた。
「私、あなたが入学してきて廊下ですれ違ったときからずっと...ずっとあなたのことが好きでした。私で良ければ...付き合ってくれませんか?」
その一言は、俺の頭の混乱を加速させるような一言だった。
付き合ってください!?なぜ?俺のことが好き?
だが、そんなこと言葉よりも俺の頭を更に混乱させたのは別のことであった。
その女子生徒が話している内容が、全て嘘だったのである。
俺が入学して廊下ですれ違ったことや、俺のことがずっと好きだった事。
女子生徒は、俺に嘘をついているのだ。
じゃあなぜそんなことを?それを考える度に頭が混乱していく。
「だめ...ですか...?」
上目遣いでこちらを心配そうな表情で見つめてくる。
あり得ないぐらい可愛いな...という感想が思い浮かんでしまう。
そして混乱した俺の脳内が辿り着いた結論は一つだった。
そう、罰ゲームである。
何かの賭けに負けてその罰ゲームが俺に告白するといったものだったのだ。
悲しいが、そうならば全ての合点が行く。
そもそも、この女子生徒が俺のことが本気で好きでも、俺の答えはもともと一つである。
「すみません。俺彼女いるので...」
「そう...ならしょうがないわね...」
女子生徒はそう言って小さく、酷く悲しそうに俯く。目元には少しの涙が溜まっていた。
なんだか、悪いことをした気分だ。
「なんだか暑くなってきたわね」
「ですね」
そうすると女子生徒は制服の胸のボタンを一つずつ、外していく。
俺は突然の光景に一瞬頭がフリーズしながらも慌てて止める。
「な、何してるんですか!?」
「何って...暑いからボタン外してるだけよ?」
「だけよって...」
だんだんと服の中が露わになっていく。
「じゃ、じゃあ僕はこの辺で...」
俺がそう言って立ち去ろうとしたとき、腕を掴まれる。
振り向くと、谷間がもう見えていた。
でか、と一瞬思ってしまう。
「そんな胸じろじろ見られると...ちょっと恥ずかしいな」
女子生徒は少し頬を赤らめる。
「い、いや?全然見てませんけど?毛ほども見てませんけど?俺の目には何も映ってませんけど?」
「ふふっ、必死じゃん」
くすっと笑う。
「ねぇ、私、君になら触られてもいいけど...?」
「触られても良いって一体...」
俺はごくりと唾を飲む。
「分かってるくせに」
俺は自分の邪な考えを振り払うために、ぶんぶんと頭を振る。
「私の、まだ誰にも触られてないんだ」
恥ずかしそうに小さな声でそう囁かれる。
脳内で戦っていた俺の中の天使と悪魔の勝敗が今、決着がついた。
俺は頭の中ではダメだと思いながらも手が勝手に伸びていく。
その瞬間、女子生徒が俺に倒れこむような形で抱きついて来た。
俺は咄嗟に倒れてきた女子生徒を抱える。
「ど、どうしたんですか...?」
俺がそう言った瞬間、後ろで聞きなれた声が聞こえた。
「健吾...君?何してるの?」
俺の身体から大量の冷や汗が流れ出し、恐る恐る後ろを振り返るとそこには手に持っていたであろう弁当箱を地面に落とし、こちらを呆然と眺めている美咲が立っていた。
「ち、違う!誤解...」
俺がそう訂正する前に、美咲は走り出して体育館の角から姿を消してしまう。
「嫌われちゃったね?」
俺から離れた女子生徒が嬉しそうな、満面の笑みでこちらを見つめていた。
俺はそんな女子生徒が怒りがこみ上げながらも、そんなことよりも早く訂正せねばと思い美咲を追いかけようとすると、手をぎゅっと掴まれた。
さっきまで俺の頭の中にあった不純な考えが、一気に去っていく。
「もう勘違いもされちゃったんだし、どうせなら私と付き合っちゃえば?私、自分で言うのもあれだけど多分この学校で一番可愛いし。超当たり物件だよ?」
「な、何が目的なんですか?」
「何が目的って、ずっと言ってるじゃん。私と付き合って欲しいって」
「でも先輩...俺のこと好きじゃないじゃないですか?」
「何言ってんの。私あなたのこと好きだよ?だから無理やり取ろうとしてるんだし」
俺は再び頭が真っ白になりかける。
なんでこの人は俺と美咲との仲を引き裂いてまで、好きではない俺と付き合おうとするのだろうか。
生徒たちの楽しそうな声が少し遠くから聞こえる。
「離してください」
そう言って手を振りほどこうとするが、ぎゅっと強く握られ振りほどけない。
そして俺が更に力を込めて振りほどこうとした瞬間、俺はバランスを崩し後ろに倒れる。
俺の手をぎゅっと握っていた女子生徒も俺に引っ張られる形で俺の上で倒れる。
女子生徒が咄嗟に俺の手を離し、両手を俺の顔の横に着いたことで俺は押し倒されたかのような形になる。
「ねぇ、君は私のどこが嫌なの?さっき触ろうとしたくせに」
「さっきのは...気の迷いです。そもそもどこが嫌って...そもそも俺付き合ってる人いますし...」
「ふ~~ん。そんな理由なら私に乗り換えちゃえばいいのに」
「乗り換えちゃえばって...そんなこと出来るわけないですよ。そもそも俺今日初めて先輩と話しましたし...」
「正確には初めてじゃないんだけどなぁ...まぁそんなことはどうでもいいや」
その言葉に嘘は感じない。本当にどこかで話したことがあるようだ。記憶を探るがそれらしき記憶は見当たらない。
「ねぇ知ってる後輩君?世の中には一目惚れって言葉があるんだよ?今日初めて話したとか関係ないと思わない?逆に私じゃダメな理由って何?
こう見えてっていうか、見た通りアタリ物件だと思わない?告白された回数なんか両手両足指使っても数えきれないぐらいだよ?ほら、顔逸らさないでさ」
先輩は顔を逸らしていた俺の顔を手で戻し、俺の目をじっと見つめる。
先輩のその顔に、一瞬見惚れてしまった自分を恥じる。
「世の中顔だと思わない?男なんてたいがい相手の顔が良ければ自然と好きになるもんだもん。
だからさ、もう心変えて私と付き合っちゃいなよ。私と付き合いたい人間は今まで山ほど出会ってきたけど、私と付き合いたくない人なんてほとんど見たことないよ」
「先輩はじゃあ、なぜ俺に告白なんてしてきたんですか...?」
「一目惚れって言ったら...信じてくれる?」
「信じられないし、信じないですよ」
「やっぱそうかぁ、君意思堅そうだし、本当のこと教えてあげるよ」
そう言って先輩は俺の前でふふっと笑う。
先輩の髪が、俺の頬に少し触れた。
空は先輩で隠れて見えなかった。