作戦内容は至って簡単である。
冷蔵庫に二つのプリンを入れて置き、そのプリンの様子を隠しカメラで撮るというものである。
もし本当に兄ちゃんが犯人ならそのカメラに兄ちゃんの姿が映るはずだ。
二人はもうほとんど兄ちゃんが犯人だと決めつけているらしく、どんなことをしようか二人で相談している。
当初少しあった兄への信頼も、もうとっくにどっかに行ってしまったようだ。
一体過去にどんなことをしでかしたのだろう。
聞きたいような、聞きたくないような。
そんなことを考えていると、ピコんっと通知が鳴る。
何かと思ったら唯と優奈から同時に連絡が来ていた。
優奈の方の通知を開いてみるととある一個のURLが貼られている。
ついでに唯の方も確認してみると、優奈と同じURLが貼られていた。
送られた時間を見てみると、一分一秒違わず同じ時間に送られてきている。
最近、唯と優奈が全く同じことをするのにも慣れてきて何も感じない自分が居る。
慣れとは恐ろしいものである。
俺は二人から送られてきたURLを踏むと、とある動画投稿プラットフォームに飛ばされ、俺の画面に限定公開のライブ配信が映し出される。
視聴者数が三人となっているので恐らく俺と唯たちだろう。
どうやら映像は冷蔵庫前に設置した隠しカメラの映像のようだ。
ライブのチャット欄に二つの『眠たくなってきちゃった』というコメントが投稿される。
時刻は二十四時、恐らく普段なら二人とも寝ている時間なのだろう。
その時、カメラの右後ろから足音が聞こえる。
その足音の主がだんだんと近づいてきているのか、だんだんと足音が大きくなっていく。
別に俺にはあまり関係のないことなのだが、なんだかミステリー小説の謎を解明する瞬間のようで少しワクワクしている。
隠しカメラに男性の後ろ姿が映る。
その男性はそっと冷蔵庫を開けると、冷蔵庫の奥に手を突っ込み、冷蔵庫の奥からとあるものを取り出す。
そしてその男性は冷蔵庫をそっと閉じると、振り返って来た道を帰っていった。
振り返った瞬間に見えた顔は、俺も何回か見たことのある顔だった。
その時、チャット欄に滝のようにコメントが投稿される。
これを二人だけで投稿していると思うと恐ろしい。
『絞める』やら『禿げさせる』やら『ささくれ十個作ってやる』やら恐ろしい言葉がコメント欄を支配している。
俺はそんなコメント欄を見ながらそっと画面を閉じた。
兄ちゃん、まぁ強く生きろよ。
俺はこれから兄ちゃんの身に起こることを想像しながら布団にくるまった。
===
俺はカーテンの隙間から入ってくる日光に照らされながら、気持ちよく目覚めた。
今日が日曜日ということも相まってだろう。
なぜ休みの日の朝はこんなにも気持ちが良いのだろう。
時計を見ると時計はちょうど8の数字に長針と短針が重なっていた。
寝起きも良く、起きる時間も早くなく遅くもない。
何て理想的な休みの朝だろう。
そんなことを考えながら、ふぁ~とあくびをしながら伸びをする。
その時、ふと昨日のことを思い出し、枕元に置いてあったスマホを手に取る。
画面を点けるといくつか通知が溜まっていた。
中学生の時にはあり得なかった光景が今では当たり前になってきて嬉しい限りである。
まぁ今日はいつもと比べるとかなり多いのだが。
俺は美咲から来ていた連絡を返した後、唯と優奈から来ていた通知を開くと二人からこんな気持ちの良い朝とは真反対のような内容が送られてきていた。
『何が一番お兄ちゃんを苦しめることができると思いますか?』
やら
『下剤って何個までなら入れても死なないと思いますか?』
と日常生活では絶対にこの内容でメッセージを送ることは無いだろうと思える内容がそこには羅列されていた。
『い、今何してるの?』
と俺は恐る恐る二人に連絡する。
だがなかなか既読が付かない。
その時、ふとあることを思い出して優奈とのトーク履歴を遡り、昨日送られてきていた
URLをタップする。
もうとっくにライブ配信は終わっているだろうと思いながらタップしたのだが、なんとまだ配信は続いていた。
しかも画面には腕を組みながら正座している兄ちゃんを取り囲んでいる唯と優奈がそこには映っていた。
兄ちゃんはぐったりとした様子で、目を凝らすと兄ちゃんの目の下にはクマが出来ていた。
チャット欄を見ると二十四時半には滝のように送られてきていたチャットが止まっていた。
もしかするとその時間から今ままでずっと正座させられていたのだろうか。
いやぁ、それは流石に....
無いだろうと思いたいが、唯と優奈二人の険しい雰囲気のせいでそう思わせない。
俺は怖さ半分で真実を確かめたくて唯に電話をかける。
すぐに唯が電話に出てくれる。
「「どうしたんですか先輩?」」
「え、え~と...犯人は掴まった?」
「「はい!今はこれからの処遇を考えてるところです」」
電話越しに聞こえる二人の声の奥から小さく「すみませんでしたすみませんでしたすみませんでしたすみませんでした」
とお経のような声がずっと聞こえてきた。
額に冷や汗が流れる。
「そ、そう言えばなんだけどさ。それってどれくらいやってるの?」
「「それっていうのはこの尋問ですか?う~んと十二時半からだから...八時間ぐらいですね!」」
「も、もう許してあげてもいいんじゃ...」
俺がそう言った瞬間、俺の声を遮るように二人の声が聞こえる。
「「何言ってるんですかこんなんじゃ私たちの朝の悲しみに比べたら全然足りないですよ」」
とドスが効いた声で二人が話す。
「そ、そうですよね~」
と俺はびくびくしながら言葉を返す。
食べ物の恨み、恐るべし。
後日、唯と優奈が事の終わりを話してくれようとしてくれたが、丁重にお断りしておいた。