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66話 姉妹喧嘩

「「もう”優奈””唯”のことなんて嫌い!」」


唯ちゃんと優奈ちゃんは同時にそう叫ぶと、二人同時に部室から出ていく。

俺は二人が心配で後に続いた。


そして二人同時に廊下を走り、二人同時に階段を降りていく。


「「なんで着いてくるの!」」


そして二人同時に叫ぶ。


こうなったことの発端はほんの十分前に遡る。


===


部室には俺と唯ちゃん、優奈ちゃんしかいなかった。部室の外の窓には曇り空が広がっている。


二人はいつも通り一緒に本を読んでいた。


そして二人同時に思い出したかのように話し始めた。


「「そう言えば冷蔵庫に入れてあった私のプリン食べたでしょ!」」


急に二人が大声を出し始めたので、俺は驚きながら振り返った。


「「私は食べてないよ!」」


「「嘘つかないで!」」


二人が同時に怒り、同時に否定して、また同時に怒りだす。

絶対に他では見られない光景だ。


二人が睨み合っている間に火花が散る。


「まぁまぁ二人とも落ち着いて」


俺は二人をなだめようと席を立って二人に近づく。


「「これが落ち着いていられますか!」」


これがまぁ逆効果だったようだ。


「それでもまぁ、プリン一個でしょ?また買えばいいじゃん」


「「健吾先輩は何にもわかってないです!」」


二人の鋭い視線が一斉に俺へ向いた。


火に油を注ぐとはこのことなのだろうなと、身をもって実感する。


「プリン一個を甘く見積もったのはごめん。でも一個無くなったらまた買えばいいんじゃないかな?」


「「健吾先輩は何にもわかってません!」」


また俺は火に油を注いだようだ。二人により強く睨まれる。

もう俺は何にも喋らないほうがいいのかもしれない。


「「朝プリン食べるのを楽しみにしてたらそのプリンが無かった私の気持ち、分かりますか!?」」


「「なんでそっちが被害者ぶるのよ!」」


二人の視線が俺からまた二人にへと移る。


二人を見ながら思う、食べ物の恨みというのはこれほどまでに重いのか。


ただそれと同時にあることにも気づく。

二人とも嘘をついていないのである。


その事実から分かることは一つ、実は二人とも悪くないのである。


俺が声をかけようとするが、さっき火に油を注いだせいか、俺の話を聞いてくれない。


だんだんと二人の口論はエスカレートしていくと、二人は立ち上がり、そして部室から去っていったのだった。


===


「はぁ...はぁ...はぁ...」


俺は肩で息をしながらようやく唯ちゃんと優奈ちゃんの元へ辿り着いた。

およそ一時間は走ったような気がする。


運動不足がたたってか、足がプルプルと震えている。

二人は肩で息をしているが、まだまだ走れそうな雰囲気である。


これは俺が運動不足過ぎるのか、二人が体力お化けなのか一体どちらなのだろうか。

できれば後者であればありがたい。


「「だから何で着いてくるのさ!」」


「「家何だから当たり前でしょ」」


その言葉を聞いて俺は左にある家を見る。

俺は顎が外れるんじゃないかという程口が空いてしまう。


そこには今まで見てきた家の中で、一番大きな家だった。


皆が巨大な豪邸を浮かべたら、こういう感じだろうなというのを体現したような家である。


長い白の塀の中に、巨大な白の壁に、お洒落な赤レンガチックの屋根。

一体この中に何人住めるのだろうか。入ったらデカすぎて迷子になりそうだ。


俺がぽけぇと口を開けていると、唯ちゃんと優奈ちゃんが走ってついてきた俺の存在に今気付く。


「「あんたがついてきたせいで健吾先輩が走る羽目になったじゃん!」」


「「はぁ!?あんたのせいでしょ?」」


二人の間に再び火花が散る。


「まぁまぁ二人とも落ち着いて」


そう声をかけると、今度は俺の声が聞こえたのが二人は一息つく。


「とりあえず朝何があったか詳しく教えてくれるか?」


「「朝起きて冷蔵庫を開けたら私のプリンが無くなってて...その後残ったプリンを巡って喧嘩してて一旦は仲直りしたんですけど...やっぱプリン食べられたのが腹立ってきてもう一回喧嘩になったって感じです」


数時間後に再び喧嘩を発生させる食の恨み、恐るべし。


「結局冷蔵庫に残ってたプリンって誰が食べたんだ?」


「「私たちの喧嘩の仲裁に入ったお兄ちゃんが「このままプリンを残しておくと、一生喧嘩しそうだからこのプリンは責任を持って俺が処分する」と言いながら食べてました」」


「お兄ちゃんってあの...日奈のこと大好きな俳優のあの兄ちゃんか?」


二人はこくこくと頷いた。


その時、俺の脳内にある一つの原因が思い浮かぶ。


「もしかして冷蔵庫のプリンって、兄ちゃんが食べたんじゃないか?」


俺がそう言うと二人ともはっと驚いたような表情を見せたが、ブンブンと首を振ると俺のことを睨みながらぷくっと頬を膨らませる。


「「お兄ちゃんがそんなことするはずないです!」」


二人に睨まれたもんだから俺は咄嗟に謝る。


「ごめん。まさか兄ちゃんへの信頼がそんなに厚いとは思わなかったんだ」


俺がそう言うと二人はまたぶんぶんと首を振って口を開く。


「「いや私は全然お兄ちゃんのこと信用してませんけど...」」


「あれ?じゃあさっきなんであんなに...」


「「信用はしてないけど、妹たちが昨日の晩から楽しみにしているプリンを二つとも食うなんていう極悪非道なことはを行うほど落ちぶれてはないと思ってるぐらいには信頼してますから」」


まぁ確かに犯人が兄ちゃんならこんなにプリンに固執している妹たちのプリンを食べるなんて、そんな事はしないだろう。


その時、俺はふとある違和感に辿り着く。


「じゃあなんで兄ちゃんは残った一個自分で食べたんだろうな。そんなに妹たちが楽しみにしているはずのプリンなら半分ずつに分けてあげたら良かったのに...あっ別に兄ちゃんが犯人と思っているわけではなくて...」


さっきのことを思い出し、俺は咄嗟に言い訳しておく。


そんな俺の言い訳は耳に届いていないような様子で、二人は顔を見合わせながら呟いた。


「「じゃあ犯人は...お兄ちゃん?」」


「い、いや俺は兄ちゃんかもしれないって言っただけで別にそんな確信があるわけじゃないんだけど」


そんな俺の声はまたしても届いていないようで、二人は訝しげな顔をしながらお互いに呟く。


「「そういえばお兄ちゃんあの時笑ってたような...」」


そう呟くと、二人はお互いの顔を見ながらだんだんと目を輝かせ、


「「先輩って実は天才なんじゃ...!!」」


と俺を褒め始める。まぁ実はは余計だが、褒められて悪い気はしない。


「「じゃあ早速お兄ちゃんに問い詰めなきゃ!」」


そう言って家の中に入ろうとする二人を俺は食い止める。


「ちっと待ちなお二人とも、俺に良い案がある」


俺はさも名探偵になったかのような気分で、とある作戦を二人に話し始めた。

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