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65話 文化祭3

「「焼きそば、焼きそばいかがですかー」」


二人のそっくりな女子生徒が『焼きそば今なら三百円!!』と書かれた看板を掲げながら廊下を歩いていた。


「「焼きそば、美味しいですよ~。どうですか~」」


そう声をかけながら廊下やら中庭を歩いていると、とある屋台の前で引き留められた。


「ねぇねぇ」


屋台の中には袖をまくり、暑そうに額の汗を拭り、頭にはハチマキを巻いている女子生徒が唯と優奈を引き留めていた。


「君たち一年生?」


「「そうです」」


「もしかして双子かな?」


「「そうです!」」


「ふっふ~。似てるからそうだと思った。ところでさ、私たちのたこ焼き買ってかない?」


屋台の看板には『3-1 たこ焼き』と串を持ったタコのイラストとともに描かれている。


「「でもそんな事したらクラスの子に怒られちゃうので...」」


「君たち可愛いから安くしちゃうよ?半額でどう?」


「「いただきます!」」


「ふふっ、可愛いぃ」


女子生徒はニコリと微笑んでたこ焼きの準備を始めた。


===


「「あ、あふっ、あふい」」


「ふふっ、ゆっくり食べてね」


中庭で唯と優奈はたこ焼きを頬張っていた。


「え、可愛い~双子かな?」


渡り廊下を通る三年生の女子生徒二人が唯と優奈を見つめながら通っていった。


===


「しょうがない、先輩がサービスしてあげよう」


りんご飴と書かれた看板の屋台の中に居る三年生の先輩から唯と優奈はりんご飴を受けとる。


「「先輩、ありがとうございます!」」


そう言って唯と優奈はりんご飴へ被りつく。

三年生の間で、唯と優奈は結構話題となっていた。


そっくりな一年生の双子がいると噂が流れ、その噂は瞬く間に三年生の間に広がっていた。


「「いやぁ先輩たちみんな食べ物くれるね」」


「「ね」」


三年生の間で、優奈と唯はもうマスコット的存在となっていた。


===


「ほいほいほいほい」


健吾は中庭の一角でボウリングのピンでジャグリングをしていた。

足元を見てみると筒の上に板を乗せ、その上に誠一が立っていた。


「そして最後に」


誠一は大きくジャンプする。

そして華麗に全てのピンを回収すると、地面に着地した。


周りからは拍手が生まれ、誠一の前に置かれたボウルの中に小銭が投げ込まれる。


「いやぁまさか誠一君にそんな特技があるなんてねぇ。はい、りんご飴」


由美先輩が誠一にりんご飴を手渡しながら話しかける。


「いやぁやっぱこれも才能かなぁ」


「はいはい凄いねぇ」


「由美先輩なんか冷たい」


「倦怠期ってやつかなぁ」


「俺たち付き合ってまだ一年も経ってませんよ...」


そんなことを言いながらも、由美と誠一は手を繋ぎ、歩き始めた。


===


「ねぇねぇ、ここ面白そうじゃなぁい?」


そう言いながら由美が指差したのは恋愛相性占いの出し物である。


「由美先輩って占いとかって信じるタイプですか?」


「自分に都合の良いやつだけ信じるよぉ」


「うわぁ、確かにそんな感じしてます」


「うわぁって何よぉ。うわぁって」


そうこう言いながら由美と誠一は恋愛相性占いと書かれた暖簾をくぐる。


「いらっしゃいませ~」


椅子に座り、顔の前に紫の布をかけた女子生徒が接客してくれる。


「今って行けますか?」


「全然行けますよ~。いやぁ暇だったんですよぉ全然お客さん来ないし」


「そうなんすね。結構来そうなもんですけどね」


「いやぁ三組の奴らがカフェ兼占いとかいう良いとこどりみたいなことしやがってですねぇ。いやぁあいつらずるくないっすか?」


女子生徒の愚痴は止まらず続いていく。


「は、はぁ...それは大変でしたね」


「いやぁ分かってくれます?ですがあのパチモンカフェ兼占い屋と違ってうちはちゃんと当たるをモットーにしてますから」


誠一と由美が顔を見合わせる。

二人とも何か言いたげな顔だ。


「お二人とも何か言いたげな顔してますね?安心してください。実力者ですから」


そう言って女子生徒は腕を曲げて二の腕を見せる。

白い肌の下に小さな力こぶが盛り上がっていた。


「小さなお山さんみたい」


「ふふ~そうでしょ?最近鍛えてるんですよ」


顔にかけている布の奥で女子生徒がどやっている様子がなんとなく察せられた。

別に褒めてないような。という言葉を誠一はぐっと喉の奥底へ押し込んだ。


「まぁ話は一旦置いておいて」


女子生徒はそう言いながら手元に置いてあった水晶玉をテーブルの隅へ置く。


「あっ、それ使わないんだ」


「雰囲気作りが良い占い結果を生み出すんですよ」


「なんかぁ、深いですね!凄いですね」


浅い感想を由美は少し目を輝かせながら言う。


「いやぁそこまで褒められちゃうとなんか良い結果が出ちゃうような気がするなぁ」


出ちゃうような気はしちゃいけないような気がするが、誠一はあまり考えないようにした。


「それじゃ!占っちゃいますか!」


女子生徒はそう言うと、机の引き出しからカードの束を取り出した。


「このカードの束から、一枚ずつ引いちゃってください」


そう言って女子生徒はカードをずらーと机の上に並べ始める。


誠一と由美は言われた通りにカードの束から一枚ずつカードを引き抜いた。


「カードは確認しました?引き直さなくていいですか?」


「引き直していいんですか?」


「ダメですよ占いなんだから」


「なんで聞いたんすか」


なんかこの人と会話してるとペース狂うなぁ。などと考えながら誠一はカードを出す。

その誠一の動作と合わすように由美もカードを出した。


誠一が出したカードは天使のイラストが描かれたカード、由美が出したカードは晴れた空が描かれたカードだった。


「おお、これは大当たりですね」


「大当たり...?」


「はい、もうこれは相性抜群ですよ。そのまま結婚まで行っちゃいましょうって感じなぐらい抜群です」


「だってぇ誠一君。私たち結婚しちゃうのかなぁ?」


「結婚しちゃいましょう。うん!いますぐ」


「今すぐは無理だよぉ」


誠一は女子生徒に小さく親指を立てながら、由美と一緒に退室した。


由美と誠一が去り、その女子生徒しか居なくなった部屋で女子生徒は二つのカードの束を眺めていた。


ある一束には天使など幸せそうなことをイメージさせるカードが、もう一束には悪魔など不幸なことをイメージさせそうなカードばかりが束になっていた。


そのカードを見ながら、女子生徒はとある二人を思い浮かべながら、小さくふふっと笑った。

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