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64話 文化祭2

「やっほ~、交代に来たよ~」


猫耳をつけた日奈が部室のドアを開けてやってくる。


「日奈ちゃんねこ耳可愛い~」


「ふふ~。似合ってるでしょ?」


美咲が目をキラキラさせながら日奈を見つめて、うんうんと力強く頷く。

日奈も気分が乗ったのか手を少し丸めて猫のポーズを取る。


美咲が興奮した様子で話し出す。


「も、もうちょっと猫っぽく」


「こ、こう...?」


日奈は膝を着いて頭のそばに少し丸めた手を持ってきて猫のポーズを取る。


「にゃ、にゃーってお願いします!」


「にゃ~」


その瞬間、ガラガラと部室のドアが開いた。

ドアの先には、先生が立っていた。


ドアがゆっくりと、音を立てずに閉まった。

もう一度ドアを開けたその時にはもう、ドアの向こうに先生は居なかった。


===


「ん~おいひいね」


「わはる」


俺と美咲は体育館裏で一緒に焼きそばを頬張っていた。


ちなみに買った屋台は優奈ちゃんと唯ちゃんがやっているところである。


後輩に手握られて上目づかいでお願いしますなど言われたら、買わないわけにはいかない。


俺はずるずると焼きそばをすする。


その時、近くから声が聞こえてきた。


「恋愛相性占いやってまーす!一回どうぞー!」


===


「次の方どうぞー」


そう言われ、俺と美咲は黒の暖簾をくぐって中に入る。

中には紫のフードを被り、両手を机の上にある小さな紫の座布団のようなものの上に置かれている水晶玉へ両手を置いている一人の女子生徒が座っていた。


「さぁ、席へどうぞ」


そう言われ、俺たちは言われた通りに女子生徒と机を挟んだ席へ着く。


「あぁ見えます見えますよ...私には全てが見えます」


女子生徒は声をだんだんと大きくさせながら水晶玉を覗き込む素振りを見せる。


「あなたたち、付き合って長いですね?」


「二か月経ってないぐらいだけど長い方なのかなぁ?」


「こほんっ、冗談ですよ冗談」


女子生徒がわざとらしく咳する。

この先大丈夫だろうか。今のところ嘘しか言われてないが。


「もしかして本当に占いが当たるか半信半疑ですね?」


「ぶっちゃけちゃうと全疑いですけど、まぁそうですね」


「ふっふっふ。ではそんな心配を取り払っちゃうような占いを一つ、してあげましょう」


そう言うと、女子生徒は大きく腕を広げた。


「さぁあなたの誕生日は?」


「3月26日です」


「つまりあなたは....うお座ですね?」


「おひつじ座ですけど...」


女子生徒があれ...?と小さく呟いて指を折って数え始める。

そして指を折って数え終えると、俺と女子生徒の間に無言の時間が流れる。


「そろそろ占っちゃいましょう」


女子生徒はまるで何もなかったかのように占いの準備をして行く。そして机の上に置いてあった水晶玉をそばに置き、机の中からカードの束を取り出す。


水晶玉使わんのかい。


「あなたたちには今から一枚ずつカードを引いてもらい、その引いたカードから未来を占っていきます」


「あっ、その水晶玉は使わないんですね」


美咲が俺がさっきふと思ったことを聞いていく。


「あぁあれはあの...雰囲気作りです」


女子生徒は少し考えてから本当のことを言ってしまう。


「雰囲気大事ですもんね!」


美咲が納得した様子でニコニコと微笑む。

ローブの下で冷や汗を流す女子生徒とニコニコと微笑む美咲の間に変な空気が流れる。


美咲...実は天然なのか...?


===


俺と美咲は並べられたカードの中からそれぞれ一枚引いていく。


「それでは、自分が引いたカードをご確認ください」


そう言われ、俺は引いたカードを確認する。


俺のカードには、竜巻のイラストが描かれていた。

嫌な予感がする。


「それでは一緒にカードを表にして置いてください」


そう言われ、俺たちは同時にカードを出す。

美咲のカードを見るとそこには悪魔が描かれていた。


「うおっ」


女子生徒が驚いたような表情を浮かべる。


「こ、これはぁなかなか...」


ぽりぽりと額をかく。


「も、もしかして外れだったりします...?」


美咲が恐る恐ると言った様子で聞く。


「カードって百枚用意してるんですけど縁起が悪いカードって五枚しか入れてないんですけど...その縁起が悪いカードをダブルで引いていきましたね...」


「それで占い結果っていうのは」


「あっそうだそうだ」


女子生徒はこほんっと一回咳をしてから重苦しそうな声音で喋る始める。


「あなたたちの間に、未曽有の危機が訪れるでしょう...」


「み、未曽有の危機というのは一体どんな...」


「それは...まぁそれは未曽有な危機ということです」


本当にこの占い師大丈夫だろうか。さっきの五枚しか入れてない話といい嘘ばかりである。

まぁ占いなんて大抵そんなもんなのだが。


そんなことを気にしては楽しめるものも楽しめない。

俺の能力の悪いところの一つである。


「ひぇっ。それは本当のなのでしょうか...?」


「はい、残念ながら占い師の勘は外れません...」


「わ、私たちはどうすればいいのですか...?」


美咲が深刻そうな顔で聞く。

まぁここで嘘ついてますよとかいうほど俺は空気を読めない男ではない。


「う、占い師さん...」


俺も美咲に乗る。


「二人を信じ、愛し抜けばきっと救われるでしょう」


美咲はキラキラと目を輝かせ始めた。


美咲、変な宗教とかにハマらないだろうか。


===


「いやぁ大変な占い結果だったね」


「まぁな」


「でも互いを信じぬいて愛したら大丈夫だったら、私たちなら大丈夫だね!」


「それはどうかな?」


「も~なんでそんなこと言うのぉ?」


ぷすっと美咲が頬を膨らませて俺をねめつける。


「ご、ごめんって」


その時、俺たちは知らなかった。

本当に俺たちの間に危機が訪れることを。

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