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63話 文化祭

「美咲ちゃん可愛いしかっこいい~」


クラスの女子数名が美咲の姿を見ながら拍手して褒める。


「そ、そうかなぁ」


美咲は照れながらも、嬉しいのははにかみながら返事を返す。


「健吾君は...う、うん。いい感じだと思うよ」


「あ、ありがと」


クラスの女子が俺を褒めてくれるが、美咲の時とは違いたっぷりと嘘を感じられた。

まぁ自分でも良い感じとは思ってないので別にいいのだが。


俺は自分の姿を見る。

フリルのついたスカートに、黒と白のメイド服。

頭には白のカチューシャをつけている。


スカートの中がスースーして慣れない。


俺の前の美咲は紺のズボンに紺のタキシード姿である。

いつもと違い眼鏡では無くコンタクトで、髪も後ろに高めで縛っているおかげでかっこよく見える。


俺とは違いかなり似合っている。


今年の俺のクラスの出し物は、執事アンドメイドコンセプトカフェである。

男子はメイド、女子は執事姿だ。


クラスの女子と話終えた美咲がこちらに近寄ってくる。


「健吾君その恰好...ふ...ふふっ、に、似合ってるね...ふふっ」


「笑ったな!?」


美咲は笑いをこらえられないのか、手で口を隠している。


「ごめん...ふふっあまりにも変で」


「変って言っちゃったら終わりだよ。まぁ俺も変だと思ってるんだけどさ」


俺は小さくため息を吐く。


「ねぇねぇ私はどんな感じ?」


美咲がくるくると回りながら聞いてくる。


「めっちゃ似合ってる」


「ふふっ、ホントに思ってる?」


美咲が嬉しそうにはにかみながら少し疑い深そうに聞いてくる。


「何枚も写真撮りたいくらい」


俺はポケットからスマホを取り出す。


「しょうがないなぁ。一枚だけだよ?」


美咲はポーズを取り、俺はパシャリとシャッターを切る。


「おぉ良い感じ。世界一かっこかわいいよ!」


「ふふっ、照れるなぁ」


美咲は少し頬を赤らめる。


「そこイチャイチャしてないで手伝って!」


「「ご、ごめんなさい!」」


クラスメイトに怒られ、俺と美咲は慌てて準備を始めた。


===


「「いらっしゃいませ~」」


俺たちのクラスの出し物は一言で言えば、大盛況だった。

次から次へとお客さんが来て一息つく暇すらない。


特にある人もチェキは大人気だった。


「私ほっぺにチューされてる感じで撮って欲しいです」

ある女子生徒の要望に応えて美咲は顔をかなりその女子生徒の頬に近づける。


パシャッと俺がスマホで写真を撮り、写真を見た女子生徒はかなり満足した様子で帰っていく。


「美咲大人気だな。これで今日何人目?」


「ぱっと思い出せる限り三十人ぐらいかなぁ」


「すみませーん。写真お願いしていいですか?」


後ろから新たに女子生徒がやってくる。


「勿論!」


俺は女子生徒に渡されたスマホでまた写真を撮る。

撮った写真を見た女子生徒は嬉しそうに出ていった。


ちなみに俺にチェキを頼んだ人は今のところ一人もいない。


入口から新たな生徒がやってくる。


「おっ健吾...くはっ似合ってねぇ」


「健吾...お願いだから一枚撮らせて」


「健吾君...ふふっ」


二人は腹を抱えて、もう一人は口を抑えて必死に笑いをこらえようとしている三人が入店してくる。


「似合ってないことぐらい分かってるわ」


「ほら健吾君ちゃんと接客して」


後ろからクラスメイトに怒られる。


「お、おかえりなさいませ....ご主人様」


俺はスカートをつまみながらお辞儀する。


その時、パシャッとシャッターが切られた音が聞こえた。


音が聞こえた方を向くと美咲がスマホのカメラを向けて微笑んでいた。


「皆酷いよぉ。私は健吾君可愛いと思うのに」


「最初変って笑ったくせに」


「見れば見るほど可愛く思えてきちゃった」


美咲はふふっと笑う。まぁ褒められて悪い気はしない。真偽はどうか置いておいて


「恋の病ね」


ぼそっと日奈が余計なことを言ったのを、俺は聞き逃さなかった。


===


「ん~~...疲れた...」


美咲は背筋を伸ばしながら小さく呟く。


「俺も。お客さん大量だったし」


俺と美咲はクラスの店番が終了し、廊下を歩いていた。

ちなみに宣伝のためにまだメイド姿と執事姿である。


俺の横を通る人が物珍しそうに毎回チラ見してくるので結構恥ずかしい。


「ねぇねぇ写真撮ろうよ」


「写真?」


「そ、文化祭の思い出に」


「着替えてきていいか?」


「何言ってんのさ。この格好だから良いんだよ?」


俺と美咲は中庭へ出ると、校舎のそばに並んで座る。


美咲はポケットからスマホを取り出す。


そしてスマホのカメラをインカメにすると、肩を寄せてレンズに俺と美咲が映る。


「ほらピースピース」


美咲は空いている左手でピースをを作る。

俺も美咲に言われた通りに右手でピースを作る。


パシャとシャッターが切られた。


「健吾君真顔じゃん。もうちょっと笑ってくれてもいいのに」


「俺なりに笑ったつもりなんだけどなぁ」


「にらめっこしてるのかと思うぐらいに真顔だったよ。健吾君にも送るね」


美咲がそう言うと、ピコンッと俺のスマホに一通の通知が届く。


「うわすげぇ真顔だな」


「ふふっ、言った通りでしょ?」


美咲は微笑みながら写真を見つめる。


「ねぇねぇ、これ二人のスマホの壁紙にしようよ」


「壁紙?」


「そ、壁紙。健吾君が写真の私が映ってる部分を壁紙にして、私が健吾君が映ってる部分を壁紙にするの。二人の壁紙をくっつくけたら一枚の写真になるみたいな?」


「俺は別にいいけど...美咲気持ち悪くない?俺のメイド姿が壁紙なの」


「私は嬉しいよ。メイド姿の健吾君可愛いし」


「コンタクト変えてきてもらったら?何か悪いもん入ってるかも」


「入ってないよ~。酷いなぁ」


美咲がぷすーと少し頬を膨らませる。


「まぁ確かに可愛いは言い過ぎたかもね」


「言い過ぎなんかい」


「まぁでもほら、カップルぽいじゃん?ほら健吾君も」


そう言って俺は美咲に押し切られるがままに壁紙を変えた。


===


俺と美咲は文芸部の出し物の店番をしていた。


そして今年の文芸部は去年と同じように、閑古鳥が鳴いていた。


「暇だね~」


「ね~」


俺たちがそうぼやいていると、ガラガラと部室のドアが開いた。


「あー居た居た」


しょっちゅう見る顔がそこには立っていた。


「明衣じゃん。どうしたんだよ」


「どうしたんだよって遊びに来たんだよ。ほら、可愛い妹が来たんだから喜んでいいんだよ?」


「妹が文化祭の出し物に遊びに来て喜ぶ兄などこの世に存在せん」


「ていうか兄ちゃんなにその格好。ウケるんだけど」


「最近流行ってるんだよ」


「流行ってないよ」


美咲が隣でふふっと笑う。


「それで、何しに来たんだ?」


「あっそうそう、私も美咲さんと一緒に写真撮ってもらいたくて」


「勿論いいよ~」


「お代は高くつくぞ」


「こ~ら健吾君。嘘つかないの」


美咲が頬をぷす~と膨らませ、俺の頬をつんつんする。


「どんな感じで撮りたいの?」


「美咲さんに抱かれてるみたいな感じがいいです!」


「だ、抱かれてる感じ...?こうかなぁ?」


美咲がぎゅっと明衣を抱きしめる。、


「お、お兄ちゃん。カメラ任せた」


「おう任せとけ。今日だけで何回撮ったか分からんからな」


そう言って俺は二人にカメラを向ける。

明衣と日奈の顔と耳が心なしか赤い。


パシャリと音を立てて、写真は保存された。


===


「あっ、そうそう。兄ちゃんと美咲さんちょっとこれ見てよ」


写真を撮り終わった明衣は興奮した様子でポケットからスマホを取り出して俺たちに画面を見せる。


「なんだこれ?」


「これ美咲さんと写真撮った人がネットに上げてて、結構バズってるの。ほら見て、もう1000いいね行ってる」


「1000!?そりゃ凄いな」


「1000も!?私の姿が1000いいね...うっ、頭が」


美咲が頭が痛そうに頭をさする。


「コメント見ます?」


「見たいような...見たくないような...」


「褒めてるコメントばっかですよ」


「じゃあ見ようかなぁ」


美咲が恐る恐る画面を覗き込んでコメントを見る。


そのコメント欄には『可愛い!』『カッコいい!』『かっこかわいい!』と確かに褒めん言葉しか並んでいなかった。


美咲が頬を緩める。


「ふふっ、なんか照れちゃうなぁ」


美咲はしばらくコメントを眺め続けた。

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