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61話 合宿3

「「『唯』『優奈』パクらないでよ」」


「「パクってるのはそっちじゃん!」」


「「私はパクってないよ!」」


唯ちゃんと優奈ちゃんの二人の言い争いが始まる。

俺は二人の後ろに回ってノートパソコンの画面を見ると、そこには一言一句誤字脱字も同じ間違い方をしている文が書かれていた。


ちなみに俺が二人を見ていた感じどっちとも真面目に書いていたので本当にたまたま一言一句同じになっているのだ。


まぁもうここまで来たらたまたまではなく必然なのかもしれないが。


俺は言い争っている二人に声をかける。


「合作にしたらどうかな?」


「「合作?」」


「そう合作。二人で書いたことにしたらいいんだよ。じゃあ全く同じ文でも問題ないでしょ?」


「「確かにそうですね!」」


二人は納得したようで画面へ向き直り、拙いタイピングで文字を打ち始める。


俺も自分の席に戻って自分の物語を書くことにする。

場面を想像しながら結構なスピードで文字を打ち込んでいく。


文字を打ち込みながらふと考える。

タイピング早くなったなぁと。


最初は人差し指で一文字ずつ丁寧に打っていてたのが、今ではほとんどの指を使いながらキーボードを見ずに打てるようになったのだ。


俺も結構小説書いてきてたんだなと思い、少し嬉しく思う。

まぁ選考は全然通らないが。


「はぁ...」


隣に座っている日奈がふと、ひどく小さいため息を吐いた。


「どうしたんだ?」


「いやぁなんか最近...まぁいいや。ちょっと外の空気吸ってくるね」


そう言うと日奈は席を立ち、外へ出て行ってしまった。


俺はそんな日奈の背中を見送りながら書き続けたが、どこか日奈が心配になり、俺も外の空気を吸いに行った。


===


「はぁ...」


日奈は縁側で両手をつけて壁に背もたれるような形で俯きながら座り、大きなため息を吐いていた。


「どうしたんだ?そんないっぱいため息吐いちゃって」


「私のこと追いかけてきたの?何?私のこと好きなの?美咲ちゃんが居るのに?」


「ばーか。そんな訳ないだろ。俺は一途な男なんだ」


「ははっ、知ってた」


俺たちの間に少し、無言の時間が流れる。


日奈がゆっくりと口を開く。


「な~んか、私が悩んでるとき毎回あんたが居るのよねぇ」


「もしかして心の奥底で俺を呼んでるんじゃないか?なんだ?実は俺のこと好きなのか?」


「ばーか。そんな訳ないでしょ」


「ははっ、知ってた」


「そんな小言言うなら美咲ちゃんにチクっちゃうからね。健吾が私が健吾のこと好きなんじゃないかって言ってたって」


「それでは勘弁してくださいお願いします」


「うんよろしい。今回は許そう」


「ありがたや~」


ふははっ、と二人で笑う。


そしてはぁ...とまた、小さく日奈がため息を吐いた。


「日奈の悩み事相談アドバイザーとして話聞くぞ?」


「いつからそんなアドバイザーに就任したのよ...まぁいいか。健吾に何回悩み事言っちゃったか分かんないし、今更変わらないわよね」


そう言って日奈は、ゆっくりと空を見上げた。


「私が一冊目出した時の本ね、結構好評だったんだ。編集の人も凄いって褒めてくれたり、ネット見た感じでも良い感想が多くて嬉しかったんだ。だから次作の依頼もくれたし、私も面白いって言ってくれるならって思って書いたの。

感想コメント思い出す度にニヤニヤして一瞬で書き終わっちゃった」


「おぉ面白いって言ってもらえるなら良かったじゃん」


「それでね私、最近二冊目出したんだ」


「おぉ、すげーじゃん。すっかり小説家だな」


「ははっ、ありがと...でもすげー不評なの」


「あらら、残念。日奈的には面白いと思ったの?」


「当たり前じゃん。面白いと思わなきゃ出さないよ」


「ははっ、それは確かに言えてるね」


「ネット見ても滅茶苦茶不評でさ。もう褒めてくれるコメントが一個もないぐらいの不評具合。クソだのおもんないだの、挙句の果てにはゴーストライターか親が一作目出したんじゃないかなんて言われちゃった...」


「そりゃ手ひどい感想だな」


「それから私、全然筆進まなくなっちゃってさ。どうしようかなってだけの話」


日奈が口を閉じる。

そしてちらっとこちらを見て、俯いてしまう。


「普段何考えて書いてるんだ?」


「う~ん。こここうした方が面白いって思ってくれるかなぁって考えてる」


「頭空っぽにして書いてみたらダメなのか?」


「一回だけそうしたんだけど、やっぱり脳裏によぎっちゃうんだよね。批判コメントとか。

よぎっちゃたら最後、もう進まなくなっちゃうんだよね」


無言の時間が流れる。


「私の悩み事相談アドバイザー的にはどうしたらいいと思う?」


「どうしたらいいんだ?」


「それが分かったら苦労しないわよ」


「まぁそれもそうか」


再び無言の時間が流れ、今度は俺が口を開く。


「一時間だけくれ」


俺はそれだけ言うと、縁側から立ち上がった。


===


「ほい」


俺はノートパソコンの前で画面を眺めている日奈にあるものを渡す。

キーボードを叩く日奈の指はすっかり止まってしまっていた。


「これって健吾のスマホ?どうしたの急にそんなの渡しちゃって」


「まぁまぁ一回画面見てみてよ」


俺がそう言うと、日奈は俺に言われた通り画面を見始める。


そしてスクロールし始めた。


日奈の顔がだんだんとにやけていく。


そして少ししてスクロールするのをやめた。


「これ..どうしたの?」


「いやぁ日奈嬉しいコメントがあったらモチベが上がるって言ってたから、応援してるコメント集めてみた」


「ははっ、一時間もかけてなにやってんの」


日奈が俺を見ながら笑う。


「まだこれだけじゃないよ」


そう言うと、俺は日奈の前に唯ちゃんと優奈ちゃんを連れてくる。


「「ひーちゃんの本、二冊とも超面白いです!二冊目の良さは...」」


二人とも止まることを知らないかのように感想について話始める。

その感想のほとんどが内容を褒める感想だ。


日奈の顔がだんだんとにやけていく。耳は少し赤い。


「す、ストーープ。ありがとね二人とも。なんで急に私に感想なんて...」


「「健吾先輩がひーちゃんが私たちの感想を求めてるって言ってたので!」」


「ふふっ、そうなの。ありがと」


日奈はそう言うと、キーボードを叩き始めた。

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