美咲と健吾がデートを楽しんでいる頃。
別のカップル二人もまた、同じ場所でデートを楽しんでいた。
「見てみてぇ誠一君。エイでっかーい」
「それヒラメですよ」
「あれぇ」
由美は水槽の下に書かれている魚の種類を見て、驚きの表情を浮かべる。
「ヒラメだ...ショック...」
「ショック受けるようなことだったんすか」
「ショック...大ショックだよぉ」
「ほら、そんなこと言ってないで次の所行きますよ」
「なんか誠一君冷たぁい」
由美はぷす~と頬を膨らませる。
「俺が由美先輩に対して冷たいわけないっじゃないっすかぁ。気のせいですよ」
「気のせいじゃないよぉ絶対。あ~あ誠一君私のこと嫌いになっちゃったんだぁ」
「そんなわけないじゃないっすか」
誠一がどうすればいいのか分からない様子で、しどろもどろする。
「ほんとぉ?」
「ほんとですよ。命をかけて誓えます」
「ふふっ、重いよぉ誠一君」
由美がふふっと笑う。
そして誠一の手をきゅっと握った。
「ゆ、由美先輩!?」
「はぐれちゃだめだからねぇ。ふふっ」
そう言って由美は誠一の手を引いて次のコーナーへ向かって行った。
誠一と由美が次のコーナーへ向かってすぐ、先ほどまで由美と誠一が居たコーナーに新たなカップルがやってきた。
「ねぇねぇ、見てみて健吾君。エイおっきいねぇ」
美咲はまるで小学生のように水槽に顔を近づけて興味津々の様子でヒラメを見つめる。
「美咲...それヒラメだよ」
「あれ!?うそ!?」
美咲が水槽の下に書かれている魚の種類を見て、先ほどの由美と同じように驚きの表情を浮かばせる。
「ヒラメじゃん...まっ、いっか。健吾君も一緒に見ようよぉ。ヒラメ可愛いよ?」
美咲に言われて健吾も水槽へ顔を近づけた。
「まぁヒラメとエイ間違える人って結構いるかな?」
「美咲以外居ないんじゃない?」
「健吾君ひどーい」
...
「くしゅん...」
ヒラメのコーナーの次のコーナーの一角で可愛いくしゃみが響いた。
「由美先輩大丈夫ですか?もしかして寒いですか?」
「ううん。全然大丈夫だよぉ。誰かに噂でもされたのかなぁなんてぇ」
由美はふふっと笑った。
===
「誠一君足震えてるけど大丈夫?」
「ぜ、全然余裕だし?このくらいへっちゃらっていうか?なんというか?」
「強がっちゃってぇ。いつまで強がれるかな?」
「なんで由美先輩敵の悪役みたいになってるんですか」
誠一と由美は観覧車に乗っていた。
陽は少し暮れそうで、もう空は青ではなく赤になっていた。
「誠一君にこんな弱点があるなんてね」
「ちょ、ちょっとだけ高いところが苦手なだけですから」
「苦手なら無理に付き合ってもらわなくても良かったんだよぉ?」
「由美先輩が行きたいところを怖いぐらいで止められないですよ」
「ふふっ、流石に誠一君私のこと好きすぎだよぉ」
由美が口を押さえて笑う。そう言われた誠一は少し恥ずかしそうに目を伏せた。誠一の耳は少し赤い。
「じゃあさ」
そう言うと由美は誠一の対面から誠一の隣へと席を移動した。
「ど、どうしたんですか由美先輩」
そう誠一が問いかけると同時に由美先輩は誠一の手をぎゅっと握った。
「ゆ、由美先輩?」
「無理に付き合ってもらってるんだからぁこれぐらいはしないとねぇ」
「少し怖くなくなりました」
「ふふっ、そう?それならよかったよぉ」
観覧車はその間も昇り続け、ついにもう少しで頂上というところまで来ていた。
「ひえ~、たけぇ」
誠一は下を見ながら怯えたような声を出す。
「誠一君、こっち向いて」
窓の外を見ていた誠一に由美が声をかける。
その声に応じて誠一が由美へ振り返った瞬間、由美は誠一へ抱き着いた。
「えっえっえっ!?ど、どうしたんですか由美先輩!?」
「ふふっ、誠一君の心臓ドキドキしてる。そんなに高いの苦手なんだぁ」
「いやこのドキドキはどちらかというと...」
誠一の顔と耳がみるみるうちに赤くなっていく。
「ねぇ誠一君、こっち見て」
由美に言われた通りに誠一は由美を見る。
その瞬間、誠一の顔に由美の顔が覆いかぶさった。
「んんっっ~~~~!!!!???」
誠一の驚いた声が観覧車のゴンドラの中へ響き渡った。
誠一は何か言おうとするが、それは全て由美の唇に吸い取られる。
そして少しして、パッという唇と唇が離れる音と同時に由美の顔は誠一の顔から離れた。
誠一は驚いたような声で由美を見つめていた。
その顔と耳は真っ赤で今でも噴火しそうなぐらいだ。
そして一言、口を開いた。
「由美先輩って結構大胆ですよね...」
「ふふっ、大胆な女の子はキライ...?」
「いえ、大好きです」
誠一がきっぱりと言う。
「そんな凛としたような目で見られても困ったちゃうなぁ」
「由美先輩は、俺のどこが好きなんですか?」
「急にどうしたのぉ?」
「いや俺が由美先輩の好きな部分を言ったので、俺も由美先輩から一つぐらい聞いとかないと不公平かなって思いまして」
「ふふっ、確かに一理あるかもぉ」
そう言うと由美先輩は顎に手を当てて考える仕草を見せる。
二人の間に少し、言葉が流れない時間が続く。
「も、もしかしてないとか...?」
誠一がショックそうに言いながら由美を見つめる。
「ううん。むしろ逆だよぉ。いっぱいあるからどれ言おうか迷ってるとこぉ」
「何個でも言ってくれていいんですよ?」
「誠一君が一個なら私も一個じゃないと不公平かなぁって」
そしてまた少し由美は悩む仕草を見せると、ついに由美は動いた。
もう一度ぎゅーと誠一を抱きしめると、小さく誠一の耳を噛む。
そして誠一の耳のそばでぼそっと言った。
「ちゅーとかハグとかすると、照れて耳真っ赤になるところだよぉ」
誠一の頭から、湯気が出た。