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42話 妹と弟

俺は俺の持っている中で一番おしゃれな服を着ていく。まぁこれは日奈に選んでもらった奴なのだが。


俺は階段を降りて洗面所で髪を整えている明衣に話しかける。


「なぁなぁこれどうだ?俺のセンスも捨てたもんじゃないだろ」


俺はさぞ自分で選びましたという顔で見せびらかす。まぁ日奈が選んだのだが、この際どうでもいい。俺はファッションで褒められたいのだ。


「うんうん。凄い凄い」


明衣はこちらを見向きもせずに適当に返事を返す。


「ちゃんと見てくれよ~。どうだ?兄ちゃんのセンス。見直しただろ?」


「どうせ違う人が選んだんでしょ?」


「な、何でバレたんだ...」


「どうせそんなことだろうと思ったよ」


明衣はそう言うと、用意が終わったのか駆け足で洗面所を出ていく。


「明衣、どっか行くのか?」


「うん。ちょっとね」


「もしかして彼氏とか?」


俺は冗談交じりに聞く。


だが、なかなか返事が返ってこない。


ちらっと明衣を見てみると、驚いた表情で俺を見ていた。


「か...彼氏じゃないし...」


「なんだその反応。もしかして本当に彼氏か!?」


「ほんと...ほんとに違うから!」


明衣の視線はあっちこっち行って忙しそうだ。それに...なんだか顔も赤いような気がする。

これは...居るやつだ。


「明衣に彼氏かぁ....兄ちゃん嬉しいよ」


「勝手に嬉しがってんじゃないよ」


パシッと頭を叩かれる。


「じゃあ行ってくるね」


明衣は小走りで玄関に向かい、靴を履き始める。


「ちょ、ちょっと待って。俺も出かけるから」


ドアを開けて出ていこうとする明衣に、俺は慌てて靴を履いて玄関を出た。


===


「って、兄ちゃんどこまで着いてくんのよ」


「着いてくんのよって、お前こそどんだけ俺に着いてくるんだよ。もしかしてブラコンか?」


「もう一生口きかないから」


「ごめんごめん。明衣はブラコンなんじゃなくて俺がシスコンなだけだよな」


「なんかそれも嫌なんだけど」


俺たちは、同じ家の前で足を止めていた。


「ていうかさっさとどっか行ってくれない?」


「それは俺のセリフだぞ。明衣こそさっさとどっか行けよ」


その時、家のドアが開く。

家の中からは、二人の男女が出てきた。


一人は美咲さん、そしてもう一人はイケメンの男子である。


「健吾君?」


「明衣ちゃん?」


===


「いやぁまさか兄弟同士で繋がりがあるなんてね。びっくりだね」


「ほんとだよ。まさか俺の妹と美咲の弟が知り合いだなんてな」


世間は狭いものである。


それにしても....


俺はちらっと隣の部屋の壁を見る。

美咲さんの弟と明衣が入っていったので、おそらく弟の部屋なのだろう。


中でどんなことしてるのか気になってしまう。


美咲さんを見てみると、美咲さんもちらちらと隣の壁を見ていた。


「やっぱ気になるよね」


俺がそう言うと慌てたように美咲さんが首を振る。


「べっ別に盗み聞きなんてしようとしてないよ!?」


「盗み聞きとか一言も言ってないけど....」


「あっ....」


美咲さんが気まずそうに顔を俯かせる。


「じゃあ聞いてみる...?」


俺が冗談交じりに聞くと、美咲さんが首をブンブンと振った。


美咲さんはそそくさと自分のベッドの上に乗って壁に耳をくっつける。


美咲さんに手招きされ、俺もそっと美咲さんのベッドの上に乗った。

ふわっと良い匂いが鼻を突き抜ける。


「それにしても美咲さんそんなに気になるの?」


「そりゃそうだよ。私に彼氏いるのかとかずっと聞いてきた弟が彼女ちゃんを連れてきたとなったら話を聞かないわけにはいかないじゃん」


そう言った美咲さんの顔には怒りやら喜びやら楽しみやらワクワクやらの感情が複雑に入り混じっている。


「彼女ちゃん....」


俺はそっと小さく言葉を復唱した。

確かに、美咲さんの弟と明衣は彼氏彼女に近い関係になるのか。あの明衣に彼氏か。


ちっとも想像できないのは、俺が兄だからだろうか。


壁に耳をくっつけると、微かに二人が話している声が聞こえる。


「ふふっ、悠斗君ったらぁ」


今まで聞いた明衣の声の中で一番可愛い声である。

あいつあんな声出せたのか。


「明衣もそんなこと言っちゃって」


「イ...イケボになってる...私あんな声聞いたことないよ」


前を見ると、美咲さんが驚いた表情を浮かべていた。


その後も二人で話続けている。

妹がイチャイチャしている会話を聞くのって、こんなに複雑な気持ちなんだな。


俺はふと、そんなことを思う。


なんか悲しい気分になったので、壁から耳を離した瞬間、明衣が気になることを言い始める。


「あのね裕斗君...私裕斗君に言いたいことがあったんだ」


「ん?どうしたの?」


未だに壁に耳をくっつけている美咲さんが興奮した様子でこちらを見る。


小声ながらも興奮した様子で


「今やばいよ。始まっちゃうよ!やばいやばい。どうなっちゃうの」


とじたばたしながら言う。


美咲さんってこんなキャラだっけ?と心の中で少し思わないことも無いが、まぁ気にすることでもないだろう。弟の色恋沙汰となればみんなこうなるのだ。多分。


俺もそっともう一度壁に耳をくっつける。


「私ね。裕斗君のことがね...好きなの。だから....だから、付き合ってください」


明衣が真剣な声で言う。

そして少しの間を置いてから、その告白の返事が返ってくる。


「うん。俺で良ければ」


「ほんとに!?」


「ふふっ、ほんとだよ」


「裕斗君大好き!」


バフッとベッドに倒れこむ音が聞こえる。


俺と美咲さんは小さく拍手をした。


===


俺と明衣は、一緒の帰路に就いていた。


「随分と機嫌が良さそうだな」


「そう?」


「まぁ告白が成功したんだから当然か」


俺がそう言った瞬間、明衣の顔がどんどんと赤くなっていく。


「もしかして聞いてたの...?」


「あぁばっちりな!」


俺が親指を立てた瞬間、後頭部に思い一撃を入れられる。


「...さいてー」


「なんとでも言うがよい。妹の晴れ舞台を聞けて兄ちゃんは嬉しいぞ」


それにしても明衣が告白かぁ。

俺は心の中で考える。


妹が意を決して告白できたのに、俺はまだ勇気が出せなくて告白すら出来ていない。


俺はまだ恥ずかしがっている明衣をちらっと見る。


俺も頑張らないとな。心の中でそう思った。

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