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16話 由美先輩の恋愛問題4

「うん?どうしたの聡一...と後輩君たち」


「どうしたって、お前ら変な噂流してるだろ」


「変な噂って何のこと?」


「しらばっくれんなよ。聞いてんだぜ。由美が俺に貢がせてるって噂流してるの」


「でもそれは聡一のためを思って...」


「一体いつ俺がそんなこと頼んだんだよ!」


ドンと、聡一が机を叩きつける。

教室の中に緊張した空気が走る。


教室の隅の方で談笑していた二人組が教室を出て行ってしまうほどに。


「はぁ、正直いうとここ最近のあんたは見てられないわよ」


「一体何の話だ」


「何の話だじゃないわよ。ずっと思ってたけどね振られた女にそこまで意固地にならなくていいじゃない。正直ここ最近のあんたは見てられないわよ。あんたのそれはプレゼントっていうんじゃないわ。貢ぎ物っていうのよ。今のあんたはただ好きな女に貢いでるだけ。本当にそれで満足なの?」


「それとこれとは今は関係ないだろ!」


「関係あるわよ!ばか。私はずっと聡一のことが好きだったのに...なんだか今は気持ち悪く見えるわ」


「そこまで言わなくていいだろ」


ずっと黙って聞いていた誠一がキッと聡一を問い詰めている女子生徒を睨みつけ、反論する。


「黙ってなさいよあんたは。あんたには関係ないでしょ」


「関係あるぜ。聡一...先輩はなぁ」


誠一は一息ついて、覚悟を決めた顔をする。


「おんなじ人を好きになった人だからな!だから関係ある」


「はぁ、なによそれ」


「は~い。そこまでにして~」


聞き覚えのある声が、後ろから聞こえる。

後ろを振り向くと、そこには由美先輩が立っていた。


いつものように、笑顔で。


「なんでここにあんたが居るのよ」


「だって事件の当事者だし~?居なくちゃいけないかなぁって」


「あんたが居たって何も変わんないわよ」


「うん分かってる。だから私は傍観者。あくまでかなちゃんたちと聡一君の喧嘩でしょ?私は口を挟まないよ。私は」


「あっそ、それならいいわ」


そう言うと、由美先輩は近くにあった席に座り、立っている誠一に手招きする。

誠一が近づき、屈むと由美先輩は耳元で小さく呟いた。


「さっきのは聞いてなかったことにしてあげる」


その主観、ぼっと誠一の顔が赤くなる。

そしてそのままどこかに行ってしまった。


あいつ、告白しただけじゃん。


一体何をしに来たのだろう。


===


聡一たちの口論は熾烈を極めていた。

最初は噂に対する口論だったのだが、だんだんと普段思っている各々への愚痴にへと変わっていく。


「もーうざいうざい!聡一も由美も嫌い嫌い!」


かなが頭をかきむしる。


これまずいやつだ。良く分からないが、まずいことだけはわかる。良くない雰囲気だ。


「一旦。一旦落ち着いてください」


「黙ってなさいよ部外者は!」


「部外者じゃないですよ。大事な先輩が被害に合ってるんですから」


「あーなんかもう全部うざい。こんな奴らと関わらなかったら良かった」


「それは違うでしょ」


無意志に言葉が口から発せられる。


「何が違うのよ。どう思ったって私の自由でしょ」


「それを本当に思ってるならね。でもそうじゃないでしょ」


「何言ってんのよ」


「かな先輩。由美先輩のことも聡一先輩のことも本当に嫌いなんですか?」


「き...嫌いよ」


「嘘つくなよ!」


思わず声を荒げてしまう。


「う、嘘って何よ」


「好きな友達に嫌いって言って遠ざけるなんて、そんな悲しいことすんなよ」


「何が分かんのよ」


「分かるけどわかんねぇよ!かな先輩がなんでそんなこと言うかなんて正直分かんない。でも嘘だってことは分かる」


「あんたのことも嫌いになりそうだわ」


「俺のことはどんだけ嫌いになってくれてもいいです。でも嫌いって言われた友達がどんな顔してるかは見てみるよ!」


「えっ....」


「んーー?どうしたのぉ」


由美先輩はなんでも無さそうにこちらに笑顔を向ける。

その頬には、涙が伝った跡が残っている。


「由美先輩も聡一先輩もきっとかな先輩のことが好きなんですよ。絶対に。

正直俺から見たらかな先輩たちの行動は常軌を逸してます。正直に言って俺なら縁を切るレベルです。

でも、そんなかな先輩でも、こうなる前のかな先輩たちを知ってるからまだ好きでいてくれるんですよ」


「こんなことになって好いてくれてるわけ」


「好きで居てくれてますよ。きっと。元は良い人なんでしょ?」


「誰がそんなこと言ったの?」


「由美先輩です。あなたたちが好きな由美先輩が」


「ちょっと健吾君」


「なんで自分から辛いほうに行くんですか。なんで他の人が辛い道に行くんですか。なんで他の人が泣いてしまう方向に行くんですか。自分のムキを押し通しても誰も幸せにならないじゃないですか」


「もう遅いわよ...」


「遅くないよ。少なくとも俺は。ちゃんと謝って理由さえ言ってくれたらさ。俺はまだお前たちのこと嫌いになってないよ」


優しい口調で聡一が諭す。


「私もちゃんと謝ってさえくれたら良いかなぁ」


「うぅ、ごめんね」


「ごめんなさい。私たちひどいことやっちゃって」


「私たち、友達じゃなくて好きな人として聡一のことが好きだったの。

でも聡一が好きな人が由美って聞いて諦めがついた。

でも聡一と由美の関係が、私たちには許せなかった。何回も振られてプレゼントし続ける聡一が...見苦しく見えちゃって...辞めてほしかったから、こんな事しちゃったの。

ほんと...ごめんなさい」


「そう思ってたんだな...まぁ...そう思われてもしょうがないか。俺は許すよ。まぁ由美次第だけどね」


「私はねぇ、もうなんでもいいよ。かなちゃん達が悪い子じゃないって元々知ってたし、謝ってくれるならなんでもいいかなぁ。あっでも噂はちゃんと訂正しといてよね」


「うん。ちゃんとしとく。ほんとごめんなさい」


「ごめんなさい」


「ほら、これでちゃんと涙拭いて」


そう言って由美先輩がハンカチを手渡す。

正直言って由美先輩はかなり懐が広いと思う。


だがまぁ、当事者達が良いと言っているんだ。俺がこれ以上口を挟む必要もない。


一件落着だな。と心の中で安堵を覚える。

その時、教室からある一人の男子生徒がこちらに向かってくる。


「俺に出来ることってあるか?」


「おせぇよ」


誠一、悪いやつじゃないんだよなぁ。

心の中でそう呟いた。

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