あれから一週間、毎日由美先輩は遅れて部活にやってきていた。
傷は増えててなそうなので、暴力は振るわれて無さそうだが、心配である。
「由美先輩またあいつ...あの人たちですか?」
「うん。ちょっとね」
「流石に誰かに言いましょうよ。暴力は振るわれてないにしても流石にこれは酷いですよ」
「うーーん。私もそう思うけど。あの子たちは今ちょっと気持ちが乱れてるだけなんだよ。根は本当に良い人なんだよ?」
「ちょっとって言ったって限度がありますよ」
「う~~ん、やっぱりそう思うよね。私も裏側を知らなかったらそう思うかも」
「裏側?」
「うん、裏側。まぁ話してもいいか。これから言うことは誰にも言っちゃえダメだよ?」
俺と誠一、美咲さんはごくりと唾を飲む。
「あの子たち、その聡一君って子が好きだったの。でも聡一君が私のことが好きって知ってあの子たち凄く聡一君のこと応援してたし手伝ってたの。
私も話したことあるし、ほんとにほんとに良い子たちなの。信じてあげて」
「それでも流石に暴力は....」
「でも流石に暴力といい目に余るかもね。これ以上酷くなったら先生に報告するかも」
「うーん。ならいいか」
誠一は渋々といった様子で納得した様子を見せた。
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あれからまた一週間、由美先輩はすぐに部室に来るようになったが、それに代わって一つ良くない噂が俺の耳に入ってきていた。
由美先輩が聡一君に貢がせていたという噂だ。
流石に聞き捨てならない噂である。
ということで、俺たちは上級生に対して聞き込みを開始していた。
これ由美先輩にバレたらどうなるんだろうなと考えないわけではない。
だが流石に仲の良い人が殴られ、変な噂を流されているとなっては話は別だ。
流石に俺もだんだんむかついてきた。
「あーそれ?私聞いたことあるよ。由美ちゃんが聡一君に貢がせていたって話でしょ?」
「あれ嘘なんですよ。信じちゃだめなんですよ」
誠一は少し嚙みながらも、早口で弁明する。
「あー分かってる分かってる。私もそんなこと信じてないよ。まぁどちらかと言えば貢がせてるっていうより貢がしてもらってるって言った方が正しいけどね」
「噂流してる人の名前って分かりますか?」
「あー分かるよ。かなちゃんと佐奈ちゃんかな。二人とも聡一君好きだったからね。聡一君があんな風に振られて悔しかったんじゃない?」
「その聡一...って人はそんな由美先輩のことが好きだったんですか?」
「うん。聡一君去年のクリスマスも由美ちゃんにプレゼントあげてたし、告白するたびに何かあげてたからね。凄くバイトしてたよ」
「なんだ?俺の話か?」
俺と誠一が話していた女子生徒の後ろから、長身の男子生徒が現れる。
イ...イケメンだ...思わず心の中でそんな感想が漏れる。
背の割に小顔で鼻も高く、黒のまつ毛は長い。目元は優しそうな雰囲気を醸し出している。
声は低く、聞くだけで癒されそうな優しい声だ。
「いやぁ、由美ちゃんが聡一君に貢がせてるって噂あるの知ってる?」
「え?そんな噂があるのか?」
聡一の目が点になっている。
「だ、誰なんだ?そんな根も葉もない噂を流したのは」
「うーーん」
目の前の女子生徒は言いづらそうにしている。
「かな先輩と佐奈先輩らしいです」
「なっ...あいつらか。かなと佐奈は今どこに居るんだ?」
「うーん。教室じゃない?2-4。今日バスケ部休みらしいし」
「そうか。ありがとな」
そう言って聡一は女子生徒に手を振り、去り際にウインクしていく。
「かっこいぃ」
女子生徒の小さく呟く声が聞こえた。
あれを自然とやっているなら、才能の類である。
俺と誠一は聡一に続くように2-4教室に向かって歩き出した。
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2-4教室に生徒の数は少なかった。
放課後だからだろうか。
その中で、かなと佐奈の姿はすぐに分かった。
体育館裏で見た姿と同じだ。
「ちょっと話があるんだが、いいか?」
誠一は低い声で、そう尋ねた。