「湊君...湊先輩って友達?」
「う~~ん友達?友達かなぁ。いや、友達じゃないかも」
美咲さんは顎に手を当てて考える素振りを見せる。
俺は思い切って聞いてみる。
「もしかして彼氏?」
もしこれで彼氏と答えられてしまったらドンマイ、俺の初めての恋はここで終わりだ。
「いやいや全然!彼氏とかじゃないよ!そうだなぁ、幼馴染!幼馴染だよ」
「幼馴染?」
「うん、生まれた時からずっと隣の家だから小さい時ずっと遊んでたんだ。だから幼馴染」
俺は心の中で安堵する。
幼馴染であり、彼氏ではないと。つまり、俺の初めての恋はまだ終わっていないのだ。
まぁ美咲さんが隠している可能性もゼロではないし、美咲さんが湊先輩のことを好きな可能性もある。湊先輩が恋のライバルかもしれない。
俺はまだ何も分からないのだ。
今まで嘘を見抜けるおかげで隠し事をされてもすべて分かっていた。
おかげで知りたくないことも知ってしまったりしたのだが。
だが、美咲さんのことは見抜けない。
好きな子が居るのかどうかとかも、彼氏が居るかどうかも。
この気持ちが酷く不安で、楽しく、俺をぞくぞくさせた。
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「なんか暗そうな顔してるけどどうかしたか?」
火曜日、今日は俺と誠一の二人が鍵当番の日である。
誠一は俺の横に並んで顔を覗き込んでくる。
「好きな人に近づくためにはどうすればいいと思う?」
ちょっと緊張したが、俺は思い切って相談してしまった。
初めてだ。友達に恋の相談をするなど。
だけど誠一は一度恋の相談をされた相手、不思議と相談しても良いかもと思ってしまった。
「お?何々?健吾にも春が到来?」
「うーん、春到来ってほどじゃないけど」
「うんうん、任せとけって。なんたって俺は健吾には多大なる借りがあるからな。死なない頼みなら何でも引き受けるぜ」
まじか。俺って誠一にそんなに大きな借りを作ってたのか。驚きだ。しかも嘘をついていないと分かり余計に驚きが増すばかりだ。
「え?何々?なんの話してるの?」
俺たちの後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。
「日奈、どうしたの?」
日奈は黄色の髪を揺らしながらこちらに小走りで寄ってくる。
「いやぁ忘れ物しちゃってさ。そしたら何か面白そうな話をしてるお二人方を見つけたってわけよ」
「面白そうな話って...」
「そうだぞ、これは決して面白い話ではないんだ。男の大事な大事な話なんだ」
「でも好きな子の話でしょ?」
「なぜそれを...」
「いやぁ、階段上がってたら聞こえちゃって。で、何々?健吾君好きな子が居るの?」
「いや...」
話そうとした俺を日奈は右手で制止する。
「待って、当てるから...美咲ちゃん!美咲ちゃんでしょ」
俺はどう返答していいか分からず黙ってしまう。
誠一だけに相談しようとしていたから良かったものの、日奈にまで話を聞かれていたんじゃ話が変わってくる。
流石に日奈にまで恋愛相談するのは、少し気恥ずかしい。
日奈は俺の返答に期待してか、目を輝かせてこちらを見つめている。
まぁいいか。
俺は心のどこかで吹っ切れた。
「うん、そうなんだ」
「やっぱり~!私ずっと怪しいって思ってたもん!二人部活中も妙に仲良いし!」
「だよな、俺もずっと同じこと思ってたぜ」
「恋愛マスター日奈様が迷える子羊健吾君を導いて差し上げよう」
あれ?日奈ってこんなキャラだったっけか。明らかにテンションが上がっている気がする。
「日奈ちゃんって恋愛したことあるのか?アイドルだし」
「ちっちっち、私の事務所は恋愛OKなのだよ」
「まじかよ。すげーな」
「まぁ私は恋愛に無縁だったけどね」
「だめじゃねーか」
「しかーし、私は恋愛ドラマでヒロインの恋の相談役をやったことあるからね!大きい船に乗ったつもりで相談してくれていいよ!ほら健吾君ほら」
「泥船じゃね?」
小さく誠一が突っ込んだ声が聞こえたが、日奈には聞こえていないようだ。
今の日奈はテンションが上がっている気がする所じゃない。もう手に付けられないほどにテンションが上がっている。
こんな日奈は今までに見たことがない。いつも機嫌がよさそうでテンションが高いが、今は比にならない。
心なしか日奈の鼻息が荒い気がした。
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俺の恋の相談円卓会議は文芸部部室前の廊下で行われることになった。
三人で囲うように廊下に座り込む。幸い文芸部部室は棟の最上階にあるので滅多に人は上がってこない。
「やっぱ私はアタックするべきだと思うよ。もうガンガン行っちゃえ」
「やっぱそうなのかなぁ」
「やっぱデートに誘おうぜ。デートでお近づき作戦」
「美咲さん俺が誘ってデートしてくれるかな」
「ていうか美咲ちゃんも絶対健吾君のこと好きだよ」
「そうなのかなぁ」
俺はこの前のことを思い出す。
俺もこの前までは実は美咲さん俺のこと好きなんじゃないかと思っていたが、それが思い違いのような気がしてきたのだ。
俺以外の人が好きなのかも。
「他に好きな人が居るかもしれないし」
「それを確かめるためにはやっぱデート誘うしかないよ!」
「うーーん、でもなぁ」
「もーーうざいうざいうざい!誘うの!もうあんたに誘う以外の意見ないから!」
急に日奈は立ち上がり、俺に詰め寄る。
「あんたも男なんだからバシッといきなさいよバシッと」
日奈に背中を叩かれる。なんだろうかこの姉御感。
「もし明日誘わなかったら坊主にしてもらうからね!」
「ぼ、坊主...?」
「そうよ!坊主」
さっきまで姉御に見えていた日奈が一気に悪魔に見えてくる。
「何心配そうな顔してんのよ!大丈夫、私バリカン持ってるから」
確かに心配そうな顔をしていただろう。だが確実にバリカンの有無の心配はしていない。
「だから分かった?明日絶対よ」
そう言って日奈は去っていった。
明日...明日かぁ。
思わず俺は自分の坊主を想像してしまった。
そして分かった。確実に似合ってないということが。