実は美咲さん俺のことが好きなんじゃない。
授業中、突然そんなことを考える。
だって部活に誘ってくれるし、中学校の時の俺を覚えてくれてるし、連絡くれたし、入学式の日の奴は助けたし、実はこれ俺のこと好きなんじゃないか?
そう考えると美咲さんのことが途端に気になってくる。
相手が好きだと思ったらこっちも気になってくる。
男子は大体そういうものなのだ。
サンプルは俺一人だが。
気になると同時に、相手の良い所にも気付いてくるものだ。
美咲さんって小顔だし目鼻立ちで可愛いよなとか、声も可愛いし仕草も可愛いよなとか。
そしてこうなってくると、あれ?実は俺美咲さんのことが好きなんじゃない?とかなってくる。
やばい、そう考えるとだんだん美咲さんのことが気になってきた。
俺は、結構単純だったりするのだろうか。
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「こんにちは~」
部室のドアを開け、中に入る。
部室にはすでに全員揃っていた。
誠一と美咲さんは何か本を読んでおり、教室の端では由美先輩はメガネをかけて難しそうな顔でノートパソコンで何か執筆している。
「こんにちは」
「よっ」
美咲さんと誠一から挨拶が返ってくる。
由美先輩は俺に気付いていないようで、画面を見つめている。そして何か閃いたのか物凄い速度でタイピングしていく。
俺は適当に席に座る。
さて、一体何しようか。
とりあえず、俺は自分のリュックから小説を手に取り、読み始める。
ちらっと美咲さんの方に目をやる。
美咲さんはつまらなさそうな顔で本を見つめている。
まつ毛長くて可愛いなぁと、ふと思う。
突然、美咲さんがこちらに視線を向けてくる。
俺は思わず目を逸らしてしまった。
正直に言うと、俺は多分美咲さんのことが好きだ。
出会ってまだ一か月も経ってないし、話したことも少ないが美咲さんのことが好きだ。
中学生の時まで、俺は別に好きになったこともいないし、当然好きになられることも無かった。
女子と話したこともほぼないし、女子に話しかけられるなんてもってのほかだ。
だが、そんな俺に美咲さんは話しかけてくれたのだ。しかも部活も誘ってくれた。
意識しないほうがおかしい。そう思うのは俺だけなのだろうか。
どうやってお近づきになればいいのだろうか。
やはり話しかけるのが一番効果的なのだろうか。
俺は深呼吸する。
俺は女子に話しかけたことがない。
もし、きょどって気持ち悪がられたらどうしようとか。実は全然好きじゃなくて話しかけられて気持ち悪がられたらどうしようとかそんなマイナスな思考が脳裏をよぎる。
いやいや、そんなこと考えてたら一生仲良くなれない、マイナスな思考を吹き飛ばすために首を振る。
一瞬、一瞬だけ勇気を出すだけだ。
そう自分に言い聞かせ、俺は席を立ち、美咲さんに歩み寄る。
美咲さんは小説から目を離し、俺に顔を向ける。
あれ?そう言えばなんて話せばいいんだろうか。
よく考えれば見切り発車で話題なんて何一つ用意していない。
入学式のことを思い出し、冷や汗が流れてくる。
思考が停止する。
美咲さんの不思議そうに首をかしげ、俺の目を見つめている。
「どうかしたの...?」
「えっ、あっいや」
話しかけられてどもってしまうが、平常心を保つことに意識する。
俺は出来る限りの、わざとらしくない笑みを浮かべながら美咲さんに話しかける。
「どんな本読んでるのかなぁって」
「この本?」
「うんうんその本」
「この本はねぇ」
美咲さんは机に置いていた小説を手に取り、俺に表紙を見せる。
その表紙にはスーツ姿の男性がウエディングドレスの女性に指輪をはめているイラストが描かれていた。
「恋愛系?美咲さんってそういうのも読むんだね」
「意外?」
「いや、意外って訳じゃないけどね」
「ふふっ、私も恋する乙女だから...」
美咲さんは笑いながら少し恥ずかしそうに俯いている。
「逆に健吾君はどんなの読むの?」
「俺かぁ」
俺は席に置いてきた小説を手に取り、美咲さんに表紙を見せながら美咲さんの隣の席に座る。
「健吾君もそれ読んでるんだ」
「ということは美咲さんも読んでるの?」
「私全巻持ってるよ」
「いいなぁ、俺全然買えてなくてさ」
「今度貸してあげようか?」
「いいの?」
「うん。いいよ。健吾君だしね」
「よ~~し!出来た出来たぁ」
教室の端から大きな声が聞こえる。
目を向けてみると、由美先輩が伸びをしながら嬉しそうな表情を浮かべている。
「あれ?みんな来てたんだ」
由美先輩は驚いたようにこちらを見つめている。
どうやら俺どころか誠一や美咲さんにも気付いていなかったようだ。
一体どんな集中力をしているのだろうか。
由美先輩と目が合う。
ニコリと由美先輩が微笑む。
「やっぱり仲いいよね、美咲ちゃんと健吾君」
「えっ?そうですか?」
「うん仲良く見えるよ~。付き合ってるみたい」
「ハハッ...」
愛想笑いでなんとか誤魔化す。
付き合ってると言われて美咲さんはどう思っているのだろうか。
やっぱり迷惑とか思っているのだろうか。
でもここで全然仲良くないですとかも言いずらい。
そもそも別に仲が悪いわけではないと思う。
...悪くないはず。
「えっ!?健吾と美咲ちゃんって付き合ってるの!?」
今まで何の反応も示していなかった誠一が慌てた様子で読んでいた小説を机に置き、驚いた様子で話しかけてくる。
「いや、別に付き合ってるわけじゃないけど。ねぇ美咲さん」
美咲さんを見てみると俯きながら笑っていた。
「美咲さん?」
俺が話しかけると美咲さんは急に顔を上げ、早口で喋りだす。
「付き合ってないです付き合ってないです。付き合うとか多分健吾君に迷惑だし...」
そして美咲さんはまた俯いてしまった。
いや別に迷惑じゃないけどね?でもそれを言うとなんか意識してみるみたいで恥ずかしい。
俺も何も言えず、少しだけ無言の時間が流れる。
「ねぇねぇ誠一君。ちょっと付き合ってほしいことがあるんだけど良い?」
「えっ?ああいいっすよ」
そんな無言の間を断ち切ろうと由美先輩が突然誠一に話しかけ、誠一を連れて教室を出ていった。
俺と美咲さんの二人だけになる。
「由美先輩たち一体どうしたんだろうね」
「ね。どうしたんだろ」
「美咲さんはやっぱり付き合ってるとか言われるの嫌だよね?」
「別に...いやじゃないけど」
別に嫌じゃないという言葉を聞いてほっとすると同時にドキドキする。
嫌じゃないということは付き合ってあげても良いということじゃないのか。
いや早とちりはだめだ。早とちりで告って振られたら今後の部活生活が気まずくなってしまう。
「逆に健吾君はいや?」
「別に嫌じゃないよ」
「そう...なら良かった」
美咲さんは小さく微笑む。
俺の心はすでに美咲さんにノックアウトされてしまったのかもしれない。