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2話 体験入部

美咲さんと共に文芸部部室を目指して歩いていく。


美咲さんはスキップのような軽い足取りで、鼻歌を歌いながら歩いている。


「美咲さん楽しそうだね。体験入部そんなに楽しみだったの?」


俺がそう言うと、鼻歌がだんだん小さくなり、美咲さんの足取りがだんだん重くなる。そして歩幅が狭くなる。


頬は少し赤くなり、俯いて両手で顔を抑えている。

かなり恥ずかしそうにしている。


「私テンション上がっちゃうと、全然違う感じになっちゃうんだ...ごめんね」


「いやいや全然良いよ思うよ。そっちの方がギャップがあって可愛いみたいな」


「え!?あっそう?」


「うん」


「そっか」


だが会話が続かず無言の時間が続き、何か少し気まずい。


「美咲さんってどこ中学校なの?」


「え」


無言のこの空気を断ち切りたく、話しかける。

美咲さんは困惑した表情を思い浮かべている。


「あれ?健吾君覚えてくれてない...?」


美咲さんは不安そうに尋ねてくる。

覚えてるも何も、美咲さんと会ったのは入学式の日が最初だから、美咲さんの中学校を覚えているわけがない。


あれ?待てよ。なんか中学校の時にも見たことあるような気がするぞ。


「私、健吾君と同じ中学校だよ」


「あれ?ほんと?」


「うん」


「教師対抗100mリレーでぎっくり腰になったのは?」


「中村先生」


「一緒の中学校だ」


中村先生の腰は大丈夫だろうか。心配である。

そんなことは置いておき、確認する質問をしたが、そもそも嘘をついている気配はない。能力で分かる。


「話したことってある?」


「一回だけ...」


「いつ話したっけ?」


「うーーん」


美咲さんは腕を組んで悩む仕草をする。

若干ぷすっとしながら、笑って言った。


「ひみつ」


と、ここで俺は一つの違和感を覚えた。

何か、他の人と話す時にあるものがないような感じがするのだ。


何だろうと思ったとき、一つの答えに辿り着く。


「美咲さん。頼みがあるんだけど」


「うん」


「一回嘘ついてみてくれない?」


「嘘?」


「うん。どんな嘘でもいいから」


「実は私はこの学校の生徒ではないです」


「ホントにこの学校の生徒じゃないとかないよね?」


「ないよ~」


美咲さんはくすっと笑う。


まぁ本当と言うことは流石にないだろう。

俺は美咲さんの嘘が見破れない。


こんなことは初めてだった。


===


なんか、思っていたような人と違うという感想を持つ。

もっとあんまり喋らなくて、正直に言ってしまえば暗そうという感想だったのだが、喋ってみると結構喋るし、表情豊かな気がする。


そんなことを思っていると、文芸部の部室に辿り着いた。

コンコンとドアをノックし、ドアを開ける。


「失礼します」


そう言って部室に入ると、一人の部員が出迎えてくれた。

腰まで伸ばした黒髪に、温和そうな黒い目。身長は俺と同じくらいだ。


「もしかして体験入部に来てくれたのぉ?」


女子の先輩が嬉しそうに出迎えてくれる。おっとりとして、聞き心地の良い声だ。


「しかも二人も」


先輩は腰まで伸びた黒髪を跳ねさせながらるんるんとスキップして、俺たちに椅子を用意していくれる。


「どうぞ座って座って」


俺たちは言われた通りに座る。

文芸部の部室はどこかの空き教室のようだ。


たくさんの椅子と机が置かれており、その机の上にはノートパソコンがいくつか置かれている。


「いや~嬉しいよぉ。この部活今私一人しかいないからぁ」


「一人ですか?なんかその...少ないですね」


「そうなんだよ~私一人だから寂しくってさぁ。だから入ってくれると嬉しいなぁって」


先輩は笑顔で屈みこみ、上目遣いで見つめてくる。

やばい、普通に好きになりそう。


「ところで二人の名前ってなんていうの?」


「健吾です。白石健吾」


「あ、宮川美咲です」


「健吾君に美咲ちゃんね。私は村上由美っていうんだ。由美でも由美先輩でもなんでもいいよ~。あっでも先輩って言われるのは憧れちゃうな~」


「由美先輩って何年生ですか?」


「先輩って響きいいねぇ。健吾君は良い後輩になれるよぉ。ちなみに私は二年生だよぉ」


由美先輩はずっと屈みながら俺たちをニヤニヤ見つめている。

あっと手を叩き、由美先輩は後ろにある机の中をゴソゴソ漁る。


「私ねぇ、新入部員が来たら引き込もうと思ってお菓子買ってきたんだ~。食べる?」


由美先輩が取り出した袋には大量のお菓子が入っていた。

チョコやらマシュマロやらポテチやらポップコーンやら大量だ。


「何が欲しーい?私はねぇ、やっぱりチョコが好きだなぁ」


うーんと俺は悩む。何を貰おうとかじゃなく、そもそも普通に貰ってもいいものだろうか。


「全然遠慮しなくていいよ~」


「じゃあポテチ貰っていいですか?」


「うんいいよ~。個人的にはチョコつけたらもっと美味しくなるんだぁ」


はい、とポテチの袋を手渡される


「美咲ちゃんは何が良い?」


「じゃあポップコーンが良いです」


===


こうして文芸部部室で、お菓子パーティーが開催された。

未だに文芸部で何をするか全然わかってない。


「ねぇねぇ。美咲ちゃんと健吾君って付き合ってるの?」


「「え」」


突然の質問にびっくりする。


「付き合ってないですよ」


隣の美咲さんも、驚いた表情を見せている。


「え~~?そうなの?てっきり付き合ってるのかと思ったよ~」


「そんな風に見えましたか?」


美咲さんが少し興味深げに聞く。


「うん。見えるよ~。だって二人で一緒に来たからさ~」


「一緒の中学校で」


「なるほど~」


美咲さんは少し恥ずかしそうだ。

確かに他の人から見たら、付き合ってるというふうに見えるのだろうか。


その時、コンコンとノックの音が鳴る。


「失礼しまーす」


そう言って一人の男子生徒が入ってきた。


「もしかして体験入部の子?」


由美先輩は先ほどの俺たちと同じようにその男子生徒を案内する。

その男子生徒は俺の見知っている人だった。


「健吾じゃん」


「誠一」


遠藤誠一。俺の中学校の同級生で俺の数少ない中学校時代の友達である。


「あれ?もしかして二人とも知り合い?」


「はい。一緒の中学校なんですよ」


「じゃあ三人とも同じ中学校?珍しいねぇ」


誠一は俺の隣の席に座る。


「今ねぇ、お菓子パーティーやってるんだぁ」


「あれ?ここ文芸部っすよね?」


「そうだよ~」


「良かった。なんかさっきの言葉聞いて違う部活に行っちゃったかと思った」


誠一がそう言うと、由美先輩はクスっと笑う。


「誠一君はなにか食べる?」


「じゃあ俺チョコ欲しいっす」


こうして、文芸部の体験入部が始まった。

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