静寂に響く、蝉の声。じりじりと熱い日差しが降り注ぐ中、私は天宮財閥の縁側で座禅を組みながら、軽く目を閉じていた。縁側の先の手入れされた庭園には竹筒が置かれ、溜め込んだ水をゆっくりと吐き出している。
――カコン。
隣には、同じく座禅を組む天宮の姿。私たちの背後には天宮の部下の服部が「警策」という細長い棒を持ち、ゆるやかに歩を進める。
人狼の気…いわゆるソルブラッドの力をコントロールできないと相談したところ、この「
だが、今の私は集中どころではない。
慣れない座禅で、足が痺れて仕方ないのだ。
そんな私をよそにチュンチュンと鳴く小鳥たち。
くそっ…呑気でいいな、鳥ちゃんは…。
ヤトは元気かな。暑さでへばってないかな。
焔さん、ちゃんとご飯食べてるかな。忙しいと、いつもご飯抜くから心配だな。
…いや、今の私にとって彼は決闘相手。こんなこと、気にしている場合か。たくさん修行して、絶対に勝たないといけないんだ。
そのためには――。
「喝ッ!!」
次の瞬間、服部が警策で私の肩を容赦なく叩く。
「あいた!」
声を上げ、ドテッと前に倒れる私。足が痺れて震える私を見て、天宮がクスクスと笑う。
「まだまだだね、凪さん」
痺れる足を抑えながら、苦笑する私。
この先の特訓が思いやられる…。
一転、午後は天宮財閥の道場へ。
広々としていて作りも立派。それに、かなり広い。
ここへは、天宮に竹刀を持ってくるように言われて来た。道着を着て来たのだが――。
「…あの、ここで何を?」
天宮を見て私は首を傾げた。丸腰でラフな格好をしていたからだ。
「もちろん、実戦を交えた稽古をするためだよ」
そう言うなり、天宮は道場の入口に目を向ける。そこにいたのは…。
「上木さん!?」
お面を外し、素顔を露わにした彼女は、木漏れ日の光を浴びながら柔らかく微笑んだ。私も一気に笑顔が溢れ、彼女に駆け寄る。すると、天宮も心なしか声を弾ませた。
「事情を話したら、上木も君の力になりたいって」
「へええ」
私は一瞬天井を仰ぐ。もしかして…。
「連絡、取り合ってるんですね!天宮さんと上木さん」
すると、二人の頬が一気に赤らむ。天宮は瞬きをしながら手を顔の前で振り、上木はあからさまに目を泳がせた。
「いや、特に深い意味は」
「瓜生隊長がいなくなったから業務の相談を」
慌てふためく二人を見て、私はくすりと笑った。
二人は両片思い。まだ付き合ってはいないみたいだけど、順調に進展しているみたい。
いいなあ、上木さん…。
すると、天宮が仕切り直すようにパンッと手を叩く。
「じゃあ早速、始めようか。準備はいい?」
すると、上木は柔らかい表情から一転、鋭い視線を私に向けて竹刀を構えた。私も息を呑み、上木に向き直り、竹刀を中段に構えた。
「はじめ!」
次の瞬間、上木が一直線に駆け出した。
パンッと乾いた音が響く。私は咄嗟に竹刀を下から当て、上木の攻撃を受け止めた。すると、上木は右手を竹刀から外し、拳を握りしめる。私はギョッとした。正拳を繰り出すつもりだ。私の懐はがら空き。両手も塞がっている。このままじゃ――。
迷う間もなく、上木は正拳を私のみぞおち目がけて突き出した。私は反射的に腰を引き、辛うじて上木の正拳をギリギリでかわした。そして、すぐに間合いを取る。
だが、すかさず上木は向かってくる。相変わらずの反射神経と機敏さだ。でも、彼女と戦うのはこれで二度目。竹刀の軌道は予想がつく。
私は竹刀を中段に構え直し、息を吸う。彼女は攻撃を繰り出す時、若干右側に隙が生じる。そこを狙えば――。
私は一歩踏み込み、掛け声とともに竹刀を振り下ろす。すると、上木は僅かに体勢を崩した。
――ここだ!
次の瞬間、私は目を見開いた。突如、竹刀が眩い光に包まれたのだ。けれど、私は止められなかった。私は光を纏ったまま、竹刀を振り下ろしていた。
――バンッ!
鋭い音が耳をかすめる。竹刀から放たれた光は上木の竹刀だけではなく、彼女自身をも吹き飛ばした。壁に激突する上木を見て、私は慌てて彼女に駆け寄る。
「上木さん!!」
上木の肩を支える私、だが、彼女は微笑み、大丈夫と小さく頷いた。
「ごめんなさい!この力、制御できなくて勝手に出ちゃうんです」
「気にするな。容赦しなかったのはこちらも同じ。それにしても凄いな、その力は…」
そう言って、上木は自らの手を見つめる。彼女の手は金色の力に圧倒されたのか、微かに震えていた。その様子を見て、天宮が静かに呟く。
「やっぱり…焔に勝つ鍵は、その力だね」
確かに…。でも…もっとこの力をコントロールできるようにならないと。
すると、上木が立ち上がり、竹刀を手に取る。
「焔隊長に勝つんだろう。私なら大丈夫。さあ、続きだ」
微笑みを携えながら、私に向かって構える上木。だが――。
「上木、無理しないで」
優しく声をかける天宮。上木はハッとして、彼を見つめる。
「まだ怪我が治りきってない。少し休むんだ」
「ですが…」
「いいから」
上木は一瞬躊躇った後、静かに竹刀を下ろした。そう、彼女はつい最近、瀕死の重傷を負って入院していた。退院はしたが、天宮が気にかけているのは明らかだった。
「それに、実はもう一人助っ人を呼んでる。ちょうど来たみたい」
「助っ人?」
天宮の視線が道場の入口へと向かう。
静かな足音が近づき、逆光の中で人影がゆっくりと形を成す。そして、陽の光がその人物の顔を照らした瞬間、私は目を見開いた。
そこにいたのは、あの丹後だったのだ。