「その『雷閃刀』の性能は?」
「驚いたか!対ミレニア専用の秘密兵器だ。雷を模した斬撃を放って、敵をぶちのめす。かすっただけで電流が走るってえ優れものだ」
得意満面の財前。一方、花丸は首を傾げる。
「雷閃刀…?昨日財前さんたちが使ってた刀…ですよね?」
そっか、花丸さんは詳しく知らないんだっけ。
「凄いんですよ!なんかこう…斬った途端、電流みたいなのがバーンって走って!電池でも入ってるのかなあ」
ジェスチャー交じりに言う私に、財前が笑いながら首を振る。
「電池だあ?んなチャチなもんで、威力が出るわけねえだろ。秘密はこの刀の柄にある」
そう言いながら、財前は刀の柄を私たちに見せる。
「簡単に言うとだな、この柄の中で電力をギューッと圧縮して、一気に刀身に放出できるようになってるわけよ」
「へえぇ~」
理系にはめっぽう弱い私。頷きながらもあまりよくわかっていないが、隣の花丸が目を輝かせているのを見ると、魅力的な仕掛けのようだ。
「効果の持続時間は?」
焔の質問に財前はうっすらとため息を漏らす。
「一時間くれえだ。でも、何度もエネルギーを放出すると、二十分くらいで切れちまう。『高出力モード』と『省エネモード』で切り替えられるようにしたかったんだが、手が回らなくてよォ…」
「その雷閃刀、我々SPTに一本預けてくれないか」
焔の提案が意外だったのか、財前と風間が顔を見合わせる。
「うちの研究部署は優秀だ。預けてくれれば、倍の性能にすることを約束する。改良した雷閃刀は組員の人数分用意しよう」
「ほ、焔…ちょ、ちょっと待った!」
驚いたヤトが慌てて口を挟む。
「さすがにそれは…えっと…財前たちは極道じゃんか。雷閃刀は立派な凶器だしさぁ…対ミレニアならともかく、その…敵対している組に使うかもしれないじゃんか…」
「心配ない。雷閃刀は対ミレニア専用だと財前や風間組長が明言している。現に、普段雷閃刀を差している組員は一人もいない。紅牙組は戦闘に美学を持った極道。ミレニア以外に使用するなど、自らの誇りを汚す行為は決してしない」
その言葉に財前が頷き、口元を緩ませる。
「なかなか、わかってるじゃねえか、焔」
「でもさあ…長官と他の幹部にどやされるよ、絶対…」
「それも心配ない」
焔はヤトを撫で、柔らかい笑みを浮かべる。
「誰に何を言われても、私が無理矢理、押し通す」
次の瞬間、ヤトががっくりと肩を落とす。私は思わず、焔の手に沿う形でうなだれた小さな頭をさする。ヤト、よしよし…。
一方、焔は風間と財前に向き直り、こう続ける。
「退去しないなら、これが私にできる精一杯です。まずは敷地内の詳しい調査を。SPTの研究員の立ち入りをお許しいただきたい。そして、今後も情報を共有する機会を定期的に設けたいのですが、いかがだろうか?」
「ありがたい。よろしく頼むよ。…ところで、これから、中央刑務所で罠を張るつもりかね」
「敷地の調査が完了次第ですが、恐らくそうなるでしょう。来月の解体まで作戦を練る時間は十分にあります。なにはともあれ、SPTに諸々報告してからになりますが」
「その作戦とやらに、紅牙組も協力させていただけないだろうか」
風間の提案に、私たちは顔を見合わせる。協力…?ということはつまり…。
「我々の目的はミレニアの襲撃で攫われた仲間を救出することだ。頭数は多いに越したことはないだろう」
「…良いのですか。命の危険が伴います」
「我々はタフだ。心配ご無用。雷閃刀の恩を、きっちり返させてもらうよ」
「ありがたい。少しは我々を信用していただけたようだ」
風間は頷き、ふうっと息をゆっくり吐く。
「この世界は、騙し合いが常。正直者が馬鹿を見る。だが君は、初めに『駆け引きはしない』と断言した。最初から腹の探り合いはせず、対等に話し合おうと思っていたのだね」
風間の表情は穏やかだが、今まで以上の真剣さを帯びていた。
「我々紅牙組はSPTと共闘する。ただし、信用するのはあくまでも君だ。今後の面談相手は、君を希望する。それ以外の隊員と面談に応じるつもりはない。幹部でも、長官でもだ。どうだね?」
「承知した。ではこちらは、面談相手に財前を希望する」
焔から名指しされて驚いたのか、財前が眉をピクリと動かす。
「財前なら、あなたも安心して任せられるだろう。私の仲間も、彼なら納得してくれるはずです」
焔が私たちを見渡した後、財前をじっと見据えた。財前は少し照れくさそうに笑い、肩をすくめている。風間を見ると、彼も納得した様子で頷いていた。
「では、こちらが掴んだ情報もお伝えするとしようか…だが…」
そう言いかけた風間の表情に、わずかな申し訳なさが滲む。
「君の話と比べると『対等な情報交換』とは言えそうもないがね」