「さっき、凪の審査の内容が決まった。一対一の決闘だ」
「決闘!?」
決闘と聞いて、私は驚きを隠せなかった。てっきり、審査って筆記試験とか、持久力を測るとか、そういうものだと思っていた。
「日時は明日の午前9時からだ」
「きゅ、急ですね」
色々目まぐるしくて、頭がついていかない。
「誰とだよ!?まさか、丹後じゃないだろうな」
ヤトがすかさず焔に尋ねる。
「いや、上木凛という女の隊員だ。瓜生の
「上木かあ~」
ヤトが大げさにうなだれる。
「俺、上木苦手なんだよなあ。いつも狐のお面を被ってるし。いつも喋らないし。いつも暗いしさ」
「まあ、確かにちょっと独特な雰囲気はある。が、腕は間違いなく一流だ」
そう言われて、私は無意識に気構える。
「剣道家の君にこんなこと言うのもなんだが、正直なところ、明日の決闘では剣道にこだわる必要はない」
「え?」
「ルールは、見ている全員が納得する『勝ち』だ。勝てるなら反則だろうと手段は問わない。足を引っかけてでも、投げ飛ばしてもいい。とにかく勝て。勝てばSPTに入れる」
めちゃくちゃ言うな…。
そう思った私の気持ちを、ヤトがすぐさま代弁する。
「焔あ、そんなめちゃくちゃ言うなよ」
「めちゃくちゃだな、確かに。だが、実戦に競技ルールなんてものはない。上木は剣道経験者ではないし、間違いなく実践のつもりで来る」
私はびくっとなる。
「これまで、試合で競ってきた相手とは根本的に違う。脅すつもりはないが、チャンスがあれば容赦なく攻めろよ、凪」
「…は、はい」
そうは言っても、つい俯いてしまう。本当に大丈夫だろうか。色んな試合を経験してはきたけれど、明日の相手はきっと次元が違う。そんな不安がよぎり、自信をなくしてしまう。ふと顔を上げると、焔がジーっとこちらを見つめていた。
「…あの。何か?」
焔は少し考えた後、ある提案を口にした。
「明日に備えて、稽古でもするか?今、一緒に」
「え!?」
私は驚いて、思わず目を大きく見開く。
「稽古ですか?剣道の?」
「私は剣道をやったことがない。だから自己流に過ぎないのだが。明日の決闘前に少し体を動かしておくのも悪くないだろう」
焔は立ち上がり、居間のカーペットをバッとめくった。すると、床に大きな扉のようなものが現れる。焔は、棚からリモコンのようなものを取り出し、スイッチを押す。すると、ガタガタガタと大きな重低音とともに、扉がゆっくりと開いていく。
「えええ!?これって…?」
驚く私を見て、焔は嬉しそうに言う。
「驚いたか。この家にはこんなユニークな仕掛けもある。この下は私のトレーニングルームだ」
いつも冷静な焔が、どこかウキウキとしている。きっと、この家が相当気に入ってるのだろうと、直感的に思った。その時、横にいたヤトが羽を広げ、音もなくサーっと床下の扉の奥へと飛び去った。焔は右手で扉を指し示し、どうぞと言わんばかりの表情を浮かべている。私は驚きながらも促されるまま、床下へと足を踏み入れた。