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第15話 地下

「さっき、凪の審査の内容が決まった。一対一の決闘だ」

「決闘!?」


 決闘と聞いて、私は驚きを隠せなかった。てっきり、審査って筆記試験とか、持久力を測るとか、そういうものだと思っていた。


「日時は明日の午前9時からだ」

「きゅ、急ですね」


 色々目まぐるしくて、頭がついていかない。


「誰とだよ!?まさか、丹後じゃないだろうな」


 ヤトがすかさず焔に尋ねる。


「いや、上木凛という女の隊員だ。瓜生の腹心ふくしんの部下で、凪と年齢も近い。君の力量を図るなら、彼女が適任だろうという話になった」

「上木かあ~」


 ヤトが大げさにうなだれる。


「俺、上木苦手なんだよなあ。いつも狐のお面を被ってるし。いつも喋らないし。いつも暗いしさ」

「まあ、確かにちょっと独特な雰囲気はある。が、腕は間違いなく一流だ」


そう言われて、私は無意識に気構える。


「剣道家の君にこんなこと言うのもなんだが、正直なところ、明日の決闘では剣道にこだわる必要はない」

「え?」

「ルールは、見ている全員が納得する『勝ち』だ。勝てるなら反則だろうと手段は問わない。足を引っかけてでも、投げ飛ばしてもいい。とにかく勝て。勝てばSPTに入れる」


 めちゃくちゃ言うな…。

 そう思った私の気持ちを、ヤトがすぐさま代弁する。


「焔あ、そんなめちゃくちゃ言うなよ」

「めちゃくちゃだな、確かに。だが、実戦に競技ルールなんてものはない。上木は剣道経験者ではないし、間違いなく実践のつもりで来る」


 私はびくっとなる。


「これまで、試合で競ってきた相手とは根本的に違う。脅すつもりはないが、チャンスがあれば容赦なく攻めろよ、凪」

「…は、はい」


 そうは言っても、つい俯いてしまう。本当に大丈夫だろうか。色んな試合を経験してはきたけれど、明日の相手はきっと次元が違う。そんな不安がよぎり、自信をなくしてしまう。ふと顔を上げると、焔がジーっとこちらを見つめていた。


「…あの。何か?」


 焔は少し考えた後、ある提案を口にした。


「明日に備えて、稽古でもするか?今、一緒に」

「え!?」


 私は驚いて、思わず目を大きく見開く。


「稽古ですか?剣道の?」

「私は剣道をやったことがない。だから自己流に過ぎないのだが。明日の決闘前に少し体を動かしておくのも悪くないだろう」


 焔は立ち上がり、居間のカーペットをバッとめくった。すると、床に大きな扉のようなものが現れる。焔は、棚からリモコンのようなものを取り出し、スイッチを押す。すると、ガタガタガタと大きな重低音とともに、扉がゆっくりと開いていく。


「えええ!?これって…?」


 驚く私を見て、焔は嬉しそうに言う。

「驚いたか。この家にはこんなユニークな仕掛けもある。この下は私のトレーニングルームだ」


 いつも冷静な焔が、どこかウキウキとしている。きっと、この家が相当気に入ってるのだろうと、直感的に思った。その時、横にいたヤトが羽を広げ、音もなくサーっと床下の扉の奥へと飛び去った。焔は右手で扉を指し示し、どうぞと言わんばかりの表情を浮かべている。私は驚きながらも促されるまま、床下へと足を踏み入れた。


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