大昔の女神が残した手記には帝国の恐ろしい策謀が記されていた。ディアトイル生まれの俺が今まで苦しみ続けたのは大昔の皇帝のせいだったのかと思うと、はらわたが煮えくりかえる。
今すぐにでもこの事実を大陸中に公表したいところだが、人間ではない女神が残した証拠である以上、証明するのも難しそうだ。
一応帝国の印が入っているものの遥か昔の事だから『今の帝国を責められても困る』と言われたらそれまでだ。過去に祖先が犯した愚行を今の世代に償わすのも筋違いだし、だからこそ長く生きているサキエルが過去の出来事を他の女神に伝えなかった可能性も考えられる。
サキエルには色々話を聞きたいし、俺とリリスが新たに発現したスキルの解読も手伝ってほしいところではある。だが接触すれば俺達の旅の軌跡を伝えなければいけない訳で、当然リヴァイアサンの事や
暗い雰囲気になりそうな気がするし、サキエルの古傷を刺激する事にもなりかねない。会うのは全てが片付いてからにした方が良さそうだ。
俺が手紙を読み終えると、フローラは手紙を片付けて改めて俺達にお願いしてきた。
「今の帝国が過去の帝国と同じぐらい悪い国だとは言いません。ですが、それでも私は個人的に帝国リングウォルドを強く警戒してほしいと思ってます。その為にはシンバード領が中心となって帝国と対して欲しいですし、今まで以上に他国との協力関係を結んでほしいと思ってます。よろしくお願いします、英雄ガラルド殿」
代表である俺に畏まってお願いしてきたけれど俺達がやるべきことは変わらない。俺は率直な気持ちを伝える。
「帝国もそれなりに警戒はするが、とにかく俺達はモンストル大陸の危機を救いたいと思ってる。だから第一に優先するのは
「分かりました、安心して見守っていますね、いえ、見守るだけじゃなくて手伝えることは何だって手伝います。過去の女神族の失敗は総じて人々と手を取り合って動かなかったことが原因なのですから。幾らでも私や
「ああ、ありがとうフローラ。それじゃあ話も纏まった事だし、ゼロの所にでも行ってみるか」
俺は話を切り上げて、ゼロがいるマナストーン・コアまで近づいた。コメットサークル領にあったマナストーン・コアは間近へ近づくと流石に眩し過ぎて目を開けるのは辛かったが、ここのマナストーン・コアは遠くても近くても明るさが一定となる不思議な光だった。
俺は早速ゼロに「調べものはどんな感じだ?」と尋ねると、彼は数種類の花を地べたに並べて解説を始める。
「ここの植物は本当に凄いよガラルドさん。パラディア・ブルーがたくさん育っているだけじゃなくて『魔力制御を狂わせる花、触れた物に纏っている魔力を離散させる花、物質と物質を合成させる樹液』他にも色々なものがあるんだ」
ちょっとしたスキルかと思わされるぐらい不思議な植物が目白押しだ。それに俺の
「う~ん、仮定の段階だけど『魔力制御を狂わせる花』なら摂取することで魔力制御の特訓に使えるかもしれないね。筋力を鍛える為に重たい負荷をかけるのと同じように、花で難易度を上げれば通常時にはもっと密度の濃い魔力を練ることが出来るかもしれない。そして『触れた物に纏っている魔力を離散させる花』に関しては戦闘に使えるかもしれないね」
「戦闘に? 杖の先端とかにぶつけて魔術師の魔術を妨害するとかか?」
「それもいいけど、魔術は自分の手からでも発動できるから最善の使い道とは言い難いかな。僕の理想では魔力砲やサクリファイスソードにぶつける事が出来れば最善だと思うよ。どちらも武具を介して
「理屈は分かったしゼロの言う通りだとは思うが、もう帝国と戦うのはこりごりだぞ……。まぁ帝国に限らず魔力を角などに一点集中させる魔獣とかもいるからハンター業でも役に立つかもな。頭に入れておくよ」
ゼロは俺への説明を終えると今度は各植物の名称をフローラに尋ねた。どうやら魔力制御を狂わせる花は『コンフ』 纏っている魔力を離散させる花は『ヴァリアン』 物質と物質を合成させる樹液は『ミクスード』と言うらしい。
物覚えの悪い俺では直ぐに花の名前を忘れてしまいそうだが、せめて特性だけでも覚えておくことにしよう。
ようやく一通りの話を終えることが出来た。フローラは「研究・植物採取・特訓・寝泊まり、なんでも自由にここを使ってくださいね」と言い、両手を広げると改めて俺達に歓迎の意思を見せてくれた。
研究はゼロに任せて、俺は役に立つ植物の採取をするのが正解なのだろう。だが、正直なところマナストーン・コアの加護に満ちたこの空間で早く特訓がしたくて仕方がなかった。
グラッジも俺と同じ考えだったようで、2人で早速「体が疲れるまで戦闘訓練をしよう!」と話し合っていると横からフローラが声をかけてきた。
「おぉ! 早速戦闘訓練ですか、いいですね。よかったら私も混ぜてくれませんかガラルドさん」
「ん? 構わないが大丈夫か? 自慢じゃないが俺もグラッジも結構強いし危ないと思うが……」
「問題ありませんよ。むしろ皆さんが纏めて私にかかってきて欲しいぐらいです。勿論全力を出してもらっても大丈夫です、皆さんに怪我はさせませんので」
最初に会った時は気弱そうで、物腰柔らかなフローラが突然自信満々に自分の戦闘力を誇示しはじめた。それとも俺達の事を侮っているのだろうか?
グラッジは少し負けん気を漲らせた顔をしているが、俺にはフローラが何かを隠しているように思える。俺は訓練を始める前にフローラへ尋ねる事にした。