居住空間の座標へ案内された俺達は早速フローラに、この場所の事とリヴァイアサンの言っていた『役立つもの』について教えてもらう事となった。
「まずはこの場所とドラウの森について説明させてください。皆さんもご存知の通り、ドラウ周辺の森・平原・海・川・山などの自然は
シルバーと出会い、共に
エナジーストーンには文字通り町の中心にマナストーン・コアと呼ばれる太陽と超巨大魔石を合わせたような彗星が地面に突き刺さっており、光と生命エネルギーを照射していた。ここにも同じような物質があるのだろうか? 尋ねてみよう。
「エナジーストーンと同じって事はマナストーン・コアがここにもあるって事か?」
「はい、存在します。エナジーストーンにあるマナストーン・コアに比べるとサイズは5分の1ほどしかありませんが、光の届く範囲はずっと広く、光そのものの強さは弱いという特徴があります。それ故に今いる場所もあまり明るくはないのです。とはいえ背の高い木が多過ぎて太陽の光が届かない土地なのでマナストーン・コアがなければ真っ暗になってしまいますから文句は言えませんけどね」
「なるほどな、一応現物を見てみたいから案内してもらってもいいか?」
「分かりました。隣の部屋に行けば窓から見られますので行きましょうか」
フローラに案内されて隣の部屋に行き、ガラスの無い窓から外を眺めると斜め下50メード程の位置に淡いけれど不思議と力強く光るマナストーン・コアが木とツタに包まれた状態で浮かんでいた。しかし、ここにあるマナストーン・コアはストーンサークル領にあるものとは随分と違ったものだった。
サイズがストーンサークルで見たものと比べて小さいというのもあるが、1番の違いは形状だ。
ストーンサークルで見たマナストーン・コアは如何にも彗星だと言わんばかりにゴツゴツした楕円状のものだったが、ここにあるのは緑の薔薇の花弁だけを切り取って、そのまま巨大化させて硬質化させたような美しい形状だ。
そんな綺麗なマナストーン・コアに準ずるように周辺の土には見たことのない植物が沢山咲いている。そんな植物群の中には俺達がアビスロードで必死になって集めたパラディア・ブルーも大量に咲いていた。
光が苦手なはずのパラディア・ブルーがここに咲いているのは何故だろうか、聞いてみよう。
「教えてくれフローラ。パラディア・ブルーは光が苦手なはずなのにどうして咲いているんだ?」
「今いる場所は『日の光』自体がほとんど届いていないからというのもありますが、それ以上にマナストーン・コアによる成長力の促進と生命力の付与が大きいと思われます。マナストーン・コアがどういったものなのか我々女神もまだ解明できていません。ですが、せっかくなので世の為・人の為になるように使わさせてもらってます」
「世の為・人の為? この閉じた空間の中で育てられた植物をどこかで運用しているってことか?」
「その通りです。例えば魔獣オークの襲撃に悩まされている村があれば、オークの苦手な植物を村の周辺に植える活動をしたり、疫病に悩まされる村にそっと薬草を届けたりしていますね。とはいえ私も森の生き物たちもシャイなのでコッソリ行動していますが」
「そうか、女神の人助けというのは神秘的な力や聖なる魔術によるものだけではなくて、人間に近いやり方をしていたりもするんだな。尊敬するよ、フローラ」
「いえ、そんな私なんてまだまだですから! 恥ずかしいので褒めないでください。私なんてずっと二級女神なんですから!」
顔を真っ赤にして謙遜するフローラは手足をバタバタさせていて可愛かった。女神の等級がどのようにして上がるのかは分からないが、これだけ
それにしてもこの場所は本当に凄い。ゼロは今にも窓から飛び出しそうなぐらいに目をカッと開いて鼻息を荒くしながら植物群を眺めているし、役に立つ植物も多そうだ。
もしかしたらリヴァイアサンの言っていた役立つものとは、ここにある植物の数々なのだろうか?
「リヴァイアサンの言っていた役立つものって植物の事だと思うんだが、どう思うフローラ?」
「それもあると思いますし、特訓の場所としても役に立つと思いますよ。こと回復力の向上においてはストーンサークル領のマナストーン・コアよりもここの方が強いはずです。ですが、個人的に私が
「ノーム? さっきフローラを守ろうとしていた小人の事か、そんなに凄いのか彼らは?」
「はい、何故なら
まさかノームが縁の下の力持ちだとは思わなかった。ノームもまたフローラを慕っていることからも、互いに支え合い、尊敬しあって生きてきたのだろう。
ノームがそれだけ賢いならシンバードへ帰る前にゼロへ出来るだけ知識を授けてもらっておいた方がいいかもしれない。ゼロにノームと話してくるように提案しておこう。
「俺達はまだしばらくフローラと話をしているからゼロはノームと話してきたらどうだ? ちょうどマナストーン・コアの近くでノームたちが佇んでいるみたいだし」
「奇遇だね、ちょうど僕もそうしようかと思っていたんだよ。それじゃあ行ってくるよ!」
ゼロは若干スキップ気味に走りながら下にいるノーム達の元へ向かっていった。知識欲の塊みたいなゼロはかなりうずうずしていたから、餌をお預けされている犬のようで年齢以上に幼く見えた。
そんなゼロの後ろ姿を微笑みながら見つめていたフローラはこちらへ向き直ると、真剣な表情で別の話を始める。
「ゼロさんが色々と知識を得るまでには時間がかかるでしょう。その間に少し昔話をさせてください。この話はもしかしたらシンバード領や大陸全土にとって役に立つ話かもしれません」