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第227話 現代の港町ドラウ




 リヴァイアサンにとって大事な場所でありトラウマでもある七恵しちけいの楽園――――そんな場所にある『役立つ面白いもの』が何かは全く見当がつかない。


 改めてリヴァイアサンに尋ねても『行けば分かる』の一点張りで教えてくれなかった。だが、長年訪れていないほどに苦い思い出のある地へ俺達を誘うなんてよっぽどの事なのだろうし『役立つ面白いもの』があるのも本当なのだろう。


 俺個人としては大事な友であるリヴァイアサンの誘いには乗りたいところだが、ようやく帰ってきたシンバード領をすぐさま離れても大丈夫だろうか? とりあえずシンに『許可を貰えるかどうか聞いてくる』とリヴァイアサンに伝え、俺達は再びシンの元へ向かう。







 宮殿へと入り王の間へと向かった俺は早速シンに話しかける。


「聞いてくれシン、実は――――」


 俺達が港町ドラウ跡と七恵しちけいの楽園と呼ばれていた場所へ行きたいと伝えるとシンは渋い顔をしながら暫く考え込んだ後、重い口を開く。


「う~ん、正直いつ魔人に襲われるかも分からないガラルド君達を少人数で遠方の地に送りたくはないなぁ。政治的交渉が必要だったフェアスケールみたいなケースは例外としてね。しかし、長き時を生きるリヴァイアサンの言う『役立つ面白いもの』はきっと本当に素晴らしいものだとも思えるし……」


 これはもう一押しすればいけそうだ。ぶっちゃけると俺はシンバード領に籠って政治的な仕事をしているよりも冒険に行きたい! ここは更に説得力を増すワードをぶつけてみよう。


「俺達と一緒にゼロも連れて行けばきっと得るものは多いと思うぞ。ゼロは自然・生物・魔術関連・古代関連、どの分野でも博識な学者だ。そんな優秀な人材を連れて行けばカリギュラのアビスロードと同じように色々な物を得られるに違いないさ」


「……分かったよ、ドラウ跡に行く許可を出そう。ただし、君達には大陸会議までにやってもらいたい仕事が色々とある。長居はしないようにね」


「ああ、ありがとな、シン。それじゃあ行ってくるぜ!」


 シンに別れを告げた俺達はゼロに準備を急がせ、すぐさまリヴァイアサンに乗り込んだ。北から帰ってきたばかりで直ぐにまた北の大地へ移動する人間なんて俺たちぐらいしかいないのではなかろうか。


 リヴァイアサンを働かせ過ぎて申し訳ないからドラウ跡地に着いたら今度こそゆっくりしてもらおう。





 俺達は何事もなく順調に海を進んでいき、翌日の昼過ぎに大陸最北東に位置するドラウ跡地へと到着した。


 当たり前だが人里離れた位置な事もあり、周辺には人っ子一人見当たらない。俺達はリヴァイアサンにドラウの港まで直接運んでもらい上陸する。


 グラッジは周囲を見渡すと、両手をギュッと握りしめて町の惨状を嘆く。


「数百年経っているせいもありますが、津波で壊れた家屋が視界一面に広がっているのは辛いものがありますね……。改めてリヴァイアサンの強さと怒りを実感しました」


 グラッジの言う通り、町の家屋は東から放たれた津波によって西側へ倒れる形で崩壊しており、海に近い建物ほど破壊が激しかった。


 建物の数と町の面積から察するに住人は1500人程度いたと思われる。それだけの数が野盗組織の暴力に屈して奴隷になったかと思うと、本当に胸が痛い。


 そして町と周辺の被害はリヴァイアサンによるものだけではなかった。視界の中でちらほらと紫色の毒沼が目に入り、毒沼の周辺には一切植物が咲いていないのだ。


 野盗組織が過去に豊かな自然を毒物によって破壊していたと言っていたが……気になった俺は「まさか今の時代にまで残っているはずはないよな?」とグラッジ経由で港に待機しているリヴァイアサンに尋ねると想像以上に辛い答えが返ってきた。


 それは野盗組織が使っていた毒が彼らでも制御できない程に強力なものだったらしく、川の上流から流した毒はまるで生き物のように自ら増殖して海を含む辺り一帯を浸食したらしい。


 その毒はどうやらバジリスクと呼ばれる災害級に危険な蛇型の魔獣から採取したものらしく、当時浄化作業に当たろうとした女神も数多く亡くなってしまったらしい。圧倒的に体の大きいリヴァイアサンですらジワジワと毒に蝕まれてしまってここでは長時間いられなかったらしい。


 当時と比べれば毒の濃度は数%程になっているらしいが、それでもリヴァイアサン自身まさか現代にも毒が残っているとは思わず困惑している様だった。これじゃあリヴァイアサンの言っていた『役立つ面白いもの』の話題を振れそうにない。


 凄惨な情景に唖然としていた俺達だったが、ゼロだけは冷静に跡地の現状を分析していた。ゼロは「少し調べものをしてくるよ」と呟くと近くにある毒沼の泥を透明の筒に入れ、実験道具らしき器具を使って分析を始めた。


 作業を10分ほど眺めているとゼロは薄っすらと笑みを浮かべ、リヴァイアサンの方を見ながら結果を語る。


「安心していいよリヴァイアサン。ここの毒はかなり薄まって大したことのない毒になってる。恐らく長年照射された日光で細胞が死滅したり、細胞そのものの寿命も尽きようとしているんだね。やっぱり自然や時の流れっていうのは偉大なものだよ」


 どうやら見た目よりもずっとマシな状況のようで一安心だ。これならそう遠くないうちに浄化魔術を使える者を大量に呼んで完全に毒沼を消し去れる日がくるかもしれない。


 ゼロの言葉を受けて心なしかリヴァイアサンも安堵の表情を浮かべているような気がする、ゼロがいてくれて本当によかった。


 リヴァイアサンは改めて周囲を見渡しながら川の上流にある森林地帯を眺めつつグラッジに話しかけた。グラッジは頷きながらリヴァイアサンの言葉を咀嚼すると西にある森林地帯を指差して言葉を訳す。


「リヴァイアサンが言っていた『役立つ面白いもの』はどうやら向こうの森林地帯にあるそうです。森の至る所に石碑があるらしくて石碑に書かれている横書きの文字を縦に読むと隠された場所への道順が書かれているそうです。それに従って進んでほしいとのことです」


 何だか宝さがしみたいでワクワクする言い方だ。わざわざ違う読み方を仕込んでいるあたりドラウの住人が外部の人間に秘密にしておきたかった場所なのかもしれない。


 俺達は一旦リヴァイアサンと別れ、30分ほど歩いてドラウの西にある森林地帯の入口へ辿り着いた。





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