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第226話 リヴァイアサンの過去 その2




「驚かずに聞いてください。数百年前、リヴァイアサンはガラルドさんと同じ緋色の瞳を持つ種族と女神長サキエル様を見かけた事があるそうです……」


 リヴァイアサンは驚きの事実を口にした。


 そういえばガーランド団が死の海を渡っている時にリリスが


――――女神長サキエル様がまだ二級女神だった頃、リヴァイアサンは別名『海神龍』とも言われていて、当時存在していた北方の港町を津波によって壊滅させたらしいです――――


 と言っていたことを今更ながら思い出した。もしかしたら、その時にお互いの存在を確認したのかもしれない。リリスも俺と同じタイミングでその事を思い出したようで、すぐさまリヴァイアサンへ質問するようグラッジに頼み込んだ。


「グラッジさん、今度はリヴァイアサンに港町を壊滅させた理由とサキエル様と関りがあったどうかを尋ねてください」


 グラッジは頷きリヴァイアサンに問いかけた。するとリヴァイアサンが今度は弱弱しい鳴き声で何かを呟いていた。神獣の言葉が分からない俺でも何となく申し訳なさそうな言い方をしているのだけは察する事ができる。


 グラッジはフォローするようにリヴァイアサンの体を撫でると、彼の言葉を訳してくれた。


「当時、ウィッチズガーデンからずっと東側にある『港町ドラウ』に300人規模の強大な野盗組織が幾度も襲撃を仕掛けていたそうです。しかし、ドラウには少数ながらも腕の立つ遊牧民が善意で防衛を手伝ってあげていたらしく、彼らは『緋眼ひがんの戦士団』と呼ばれていて町民から慕われていたそうです」


 以前、帝国でモードレッドと話をした時に『数百年前に緋色の瞳を持つ、類まれな戦闘力を持つ遊牧民がいたことを古文書の解読によって見つけ出した』と言っていたが、リヴァイアサンの言葉からも帝国の古文書解読は正確だったようだ。


 大昔とはいえ、自分と同じ血を持っているであろう者が、人々を守るために力を使っていたという事実は嬉しいものだ。


 それから更にグラッジの通訳は続く。


「緋眼の戦士団によって港町ドラウは安全な暮らしを続けられていましたが、野盗組織は征服を諦めきれなかったようです。理由は2つあって、1つは大陸でも片手で数えられる程しか存在していなかった『神木ロトス』と呼ばれる希少で高額な木を奪う事、2つ目の理由は港町ドラウそのものを野盗組織の拠点にしたかったからだそうです。そんな希少な神木ロトスを育むほどに豊かな大地・川・海は総じて七恵しちけいの楽園と呼ばれていたそうです」


「なるほどな、そりゃあ大人数で攻めたくもなるだろうな。だが、そんなに希少な土地なら近隣諸国が連携して保護してやればよかったのにと思うが……いや、大陸の北端ともなれば距離的に守ってもらうのは厳しいか。現代で考えても1番近いのがウィッチズガーデンになってしまうぐらい辺鄙な場所だもんな」


「リヴァイアサンも同じことを言ってました。そして辺境の地に町があったことが後の悲劇に繋がったとも言っています。敗戦が続いて怒り心頭の野盗組織はとうとう最悪の手段に打って出ました。それは一部の野盗がドラウの新しい民として潜入して、内部から攻撃したのです」


「内部から……つまりスパイされたってわけか」


「その通りです……正確には町の人間に扮した野盗が年に1度の港祭りで『緋眼ひがんの戦士団』に振舞われた料理の数々に毒を盛った形になります。少数精鋭である緋眼ひがんの戦士団さえ消すことができれば侵略は容易だと踏んだようです。結果、野盗組織の狙いは見事に的中し、緋眼ひがんの戦士団のほぼ全員を毒殺してしまったそうです……」


 想像を遥かに超える下劣な手段に吐き気すら湧いてくる。その後も口に出す事すら辛くなるような野盗組織の卑劣な行動が語られ続けた。


 野盗組織は緋眼ひがんの戦士団亡き後、町を乗っ取り、全ての民衆を拘束して、各地へ奴隷として売り払ったそうだ。


 元の住民が全ていなくなったところでドラウを野盗の拠点地とした後は、自然資源の豊富なドラウが他国から目を付けられないように平原を燃やし、川に毒を流して近海を汚染させ、破壊の限りを尽くし、七恵しちけいの楽園という呼び名を過去のものにしてしまったらしい。


 野盗からすれば自分達が寝泊まり出来て、盗品を隠す事も出来て、各国の兵から目を付けられない場所であれば何でも良かったのだろう。更には大量の奴隷を売り払って土地だけではなく神木ロトスと金も手に入れられたのだから野盗からすればかなり都合のいい場所だったのだろう。


 そんな愚劣な行いをしていた野盗組織に裁きが訪れたのはドラウの住民が全員町から離れた後の事だった。当時大陸中の海を泳いでいたリヴァイアサンは七恵しちけいの楽園をとても気に入っていたらしい。


 そんなリヴァイアサンが久しぶりにドラウ周辺を訪れると、近隣の女神から事の顛末を聞く事になったそうだ。自分の愛する自然と人間を傷つけられたリヴァイアサンは激昂して、大津波を起こし、一瞬にして野盗組織を壊滅させたらしい。


 ほとんどの野盗が死亡し、野盗たちは抵抗する気力を失っていたが、それでもリヴァイアサンは皆殺しにしなければ気が済まない程に激怒していたらしく、ガタガタと震えている生き残りの野盗にトドメを刺そうとしたようだ。


 しかし、そこで庇うようにして現れたのが当時のドラウ周辺の女神長と二級女神だった頃のサキエルらしい。


 女神長は激怒するリヴァイアサンに恐れを抱きながらも『殺すのはよくありません、この者達は私達が責任を持って、他国へ連行して裁きを受けてもらいます。ですからどうか、静まりください、海神龍さま』と言い、リヴァイアサンの破壊を中断させたらしい。


 小さき者が勇気を持って立ち塞がった事に感銘を受けたリヴァイアサンは攻撃の手を止めて、それ以降はドラウに一切近づかず、ほとんどの時間を死の海近辺で過ごしていたらしい。


 リヴァイアサンの話からすると緋眼ひがんの戦士団はほとんどが殺されたようだから、もし緋色の瞳を持つ種族がドラウ周辺を旅していた緋眼ひがんの戦士団しか存在しなかったのなら、現代に俺と同じ種族の人はほとんどいないのかもしれない。


 俺がどういう血縁でザキールと兄弟になったのかは未だに分からないが、俺と同じ緋色の瞳を持つローブマン改めフィルの祖先を何世代も辿っていけば俺の祖先と重なりそうだ。そうやって自分のルーツを考えていると1つの仮説が浮かんできた。


 緋眼ひがんの戦士団がほぼ壊滅したことによって同じ種族だけで繁栄するのが難しくなった結果、血が段々と薄くなった家系と血が濃いままの家系の2つが出来上がったのではないかという仮説だ。その結果、常時緋色の瞳を持つフィルみたいな人間と意識的にしか緋色の瞳になれない俺みたいな人間に分かれたのではないだろうか?


 フィルに会う事が出来れば色々と分かりそうなのだが……あいつに会うのはアスタロトに会うよりも難しそうだ。会えたらラッキーぐらいに思っておこう。


 俺達は色々と教えてくれたリヴァイアサンに礼を伝えると、リヴァイアサンはグラッジを経由して1つの提案をもちかけてきた。


「あの~、リヴァイアサンからのお誘いなんですけど『時間があったら皆で七恵しちけいの楽園へ行ってみないか? 今後のガーランド団やシンバード領にとって役立つ面白いものがあるぞ』……と言っています」





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