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第225話 リヴァイアサンの過去




 シンバードに到着した俺達は早速、宮殿にいるシンに報告へ向かった。


 各国への同時連絡とディアトイルでの大陸会議開催が決まった事を伝えるとシンはとても喜んでいた。


 一通り報告を終えると、シンはいつもより歯切れの悪い言い方で俺に質問する。


「と、ところでガラルド君、フェアスケールはどんな様子だったかな? 確かラファエルという男が代表をしていると聞いた様な気がするようなしないような……」


「気にしすぎて喋りが辿々しくなってるぞ……。シンの過去はラファエルから聞いたよ。身寄りの亡くなったシンを親代わりに育ててくれたラファエルのことが気になるのも分かるから、わざわざ探りを入れなくても喋るつもりだ、安心してくれ」


「……そうか、やはり聞いていたか。ならよろしく頼むよ、ガラルド君」


 俺はラファエルの様子を伝えた後、預かった手紙を手紙をシンに渡した。


 シンは話を聞いている間、嬉しそうな顔と申し訳なさそうな顔を交互に繰り返していたが、手紙を読み終わった後は何か吹っ切れたのか、晴れやかな表情をしていた。


 シンの表情の変化が気になった俺は尋ねてみることにした。


「手紙には何て書いてあったんだ? 今日のシンは表情がコロコロと変わって面白いな」


「ん? ああ、ざっくりと言えば我々フェアスケールはシンに申し訳ないと思っているし、離れていてもずっと応援している、という内容が書いてあったよ。それとフェアスケールも少しずつ生き方や考え方を変えていかなければならないとも書いてあったね」


「変わるっていうのは中立的な立ち位置をやめるということか?」


「いや、そうじゃない。変えたいのは主に教育と外交の事のようだね。ラファエル曰く『シンの言う通り、外の世界を知って、人間の欲望や価値観と向き合い、より良いルールや在り方を模索しながら変化していく事が大事だ』と今は考えているらしい」


「なるほどな、もしかしたら近い内に鎖国的な在り方をやめるかもしれないな」


「そうだね、俺としては平和を重んじるフェアスケールの基本スタンスは変わらないで欲しいと思ってる。だが、俺にとってフェアスケールは故郷であり皆が親戚みたいなものだったから、やっぱり色々と外部の刺激を受けて世界を知る面白さを味わってほしいと思うよ」


 そう呟くとシンは玉座から離れて窓の外からフェアスケールの方角を見つめていた。


 シンの事を色々と知れたのは偶然によるところが大きいけど、結果的にシンの役に立てて本当によかった。


 シンは俺の事を考えたうえでディアトイル開催を提案してくれた訳だけど、俺だってシンに世話になりっぱなしだから何かしら礼をしたいとは常々思っていた。だから、この機会にラファエルの手紙を持って帰る事が出来てよかったと思う。







 こうして俺達は一通り仕事を終えて、ようやくゆっくりできる時間を手に入れた。


 思えば大陸南からシンバードへ帰って、更にフェアスケールと往復をするというバタバタ具合だったから、そろそろリヴァイアサンを休ましてやった方が良さそうだ。


 俺達は全員シンから2日ほど休みをもらって各自自由に過ごす事となった。休みを終えたら俺達は大陸南の国々へ大陸会議参加を呼び掛けに行ったり、シンバードとドライアドでの内政に務めながら大陸会議当日を待つ事になる。


 グラッジとグラハムは陸地にいられる時期が限られているから魔獣寄せが弱まっている今のうちに1度シンバードとドライアドをじっくり案内してやろうと思う。


 とりあえず俺達は1度ドライアドに顔を出す為に馬を借りた方がいいと考え、ギルド『ストレング』で手続きをしようと町を移動していた。するとグラッジが突然何かを思い出して提案してきた。


「そういえば忙しくてすっかり忘れていましたが僕達はリヴァイアサンに『魔人時代』の記憶があるのか尋ねていませんよね? 聞きに行ってみませんか?」


 過去のアスタロトが言うには『神獣という存在は元々魔人だった』らしい。もしリヴァイアサンに魔人時代の記憶があれば俺達にとって有益な情報を得られる可能性がある。


 本当は海底集落アケノスから出発する時点で尋ねておくべきだったのだが、色々なことがあり過ぎてすっかり忘れていた。


 俺達は早速船で陸地から少し離れた位置に行き『神笛カタストロフィ』でリヴァイアサンを呼び出した。


 リヴァイアサンが姿を現すとグラッジはリヴァイアサンへ言葉を伝える。


「聞いてくれリヴァイアサン。僕達は数日ほどシンバード領で過ごすことになる。君は近くの海で人に見つからないように待機していてほしい。それと1つ質問があるのだけど、リヴァイアサンには神獣となる前の記憶はあるのかな?」


 リヴァイアサンが過去に魔人であった可能性には触れないようにしながらグラッジが尋ねるとリヴァイアサンは長めの沈黙の後、俺達には聞き取れない鳴き声で伝えた。


 リヴァイアサンさんの言葉を受けたグラッジもまたしばらく沈黙し、自分なりに言葉を整理してから俺達に伝える。


「結論から言えばリヴァイアサンには神獣となる前の記憶はないそうです。ですが、リヴァイアサンに限らず神獣には生まれた時から持っている『個別の目標や宿望しゅくぼうのようなもの』があるらしいです。そういう意味では女神であるリリスさんに近しいものを感じる……と言っています」


 グラッジが言葉を伝えるとリヴァイアサンは穏やかな目でリリスを見つめていた。


 俺達の内情はグラッジが事前にリヴァイアサンへ伝えていたのだろうけど、それにしてもリヴァイアサンは俺達のことをよく理解してくれているようだ。


 神獣・女神ともに『神』の名を冠している点からも近しいものがあるのかもしれないが、そうすると女神は魔人とも近い存在になってしまうのだろうか? あまり考えたくはないが。


 リヴァイアサンにとっての『目標・宿望』は海の秩序を守る事だろうからリヴァイアサンが元魔人だとしたら海に関わる何かをしていたのかもしれない。


 リヴァイアサンには神獣としての記憶しかない訳だが、逆に言えば神獣として生まれてから今日までの記憶があることになる。もしかしたら過去の事を聞き出せば、五英雄が関わった魔人よりも更に古い魔人について知れるかもしれない。


 俺はグラッジに早速伝言をお願いした。


「グラッジ、今度はリヴァイアサンに『神獣として生きてきた中で魔人やそれに匹敵する危険な存在に関わった記憶はないか?』と聞いてくれないか?」


「分かりました、聞いてみます。ねぇ、リヴァイアサン、もう1つ質問があるんだけど君が神獣として生まれてから――――」


 グラッジが尋ねると、リヴァイアサンは再び熟考し、今度は俺とリリスの顔を交互に眺めながら言葉を伝えていた。


 グラッジは言葉を受け取ると目をカッと開いてリヴァイアサンと同じように俺とリリスを見つめ、リヴァイアサンの言葉を訳し始める。


「驚かずに聞いてください。数百年前、リヴァイアサンはガラルドさんと同じ緋色の瞳を持つ種族と女神長サキエル様を見かけた事があるそうです……」





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