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第224話 追放者を集める女神さま




「私が話せるシンの昔話はここまでです。シンはフェアスケールを出て行った後も色々な街で武勲をあげ、仲間を増やし、四聖と共に今のシンバードを作り上げたらしいですね。まぁ、そのあたりの話はシンバードの人に聞いた方が詳しく分かる事でしょう。昔話はここまでにしておきますね」


 そしてラファエルはシンの話を終えた。話をしてくれた礼を伝えると、ラファエルは改めてディアトイルでの大陸会議開催について話し始める。


「さて、話を大陸会議に戻しましょうか。あなた方の話を聞き、シンバードの施政に関わる皆さんがよこしまな気持ちでディアトイル開催を望んでいないと確信が持てました。何よりシンが望んで動いているのなら間違いはないでしょう。お望み通りディアトイル開催の方向で動きましょう」


 長くなったが遂にディアトイルでの大陸会議開催に漕ぎ着けることができた。


 俺はラファエルと握手を交わした後、具体的な話を進めていった。


 大陸北側にある全ての国へ同時に開催を知らせる手紙が届くように段取りして、大陸会議当日にどのような流れで情報を開示していくのかも話し合って決める事が出来た。


 話を終える頃には時刻も夜になっており、俺達はラファエルと別れ、中央塔の客室で休ませてもらうことになった。


 今までに無いタイプの街だったからどうなることかと不安だったが上手くいってよかった。今日は沢山話すことができて実りが多かったけれど、話が濃いぶん少し疲れた。しっかり休んで明日の航海に備えておこう。







 フェアスケール中央塔で話し合った翌日の朝、俺達は帰り支度を整えて、ラファエルにお別れの挨拶をしに行った。


 俺が「世話になった。また大陸会議で会おう」と告げると、ラファエルは笑顔で頷いて懐から手紙を取り出す。


「最後に1つお願いしてもいいですか? この手紙をシンに渡してもらいたいのです。我々が不甲斐ないばかりに慌ただしく別れてしまったシンに想いを伝えたいのです」


「ああ、必ず渡しておくよ。それじゃあラファエルさん、フェアスケールの皆さん、お元気で!」


 丸1日も滞在しなかったフェアスケールだったが、自分達とはかけ離れた文化に触れられる良い機会だった。


 みんなも同じ事を思っていたようでリヴァイアサンに乗り込んで落ち着いた後、各々フェアスケールへの印象の変化について語っていた。


 特にリリスはフェアスケールが印象深かったようで自身と対比しながら語り始める。


「私の生き様は女神としての務めだけではなく、恐らく前世の名残りみたいなものが強く作用した結果『追放者をはじめとした弱者を救済する思考』が強くなったのだと思いますが、フェアスケールは歴史と集落そのものが平和懇求の結晶といった感じで圧倒されましたね。一個人の本能で動いている私とは全然違います」


 しみじみと語るリリスを見つめていたグラッジは突然ハッとした顔を見せると、周りを見渡して呟く。


「思えばガラルドさんもサーシャさんも僕も追放されてきた人間なんですよね。そういう意味ではリリスさんは追放者集めの女神さまって肩書が付けられるかもしれないですね。『神託の森の女神』『海の女神』と横並びになれそうなぐらいかっこいいですね」


「や、やめてくださいグラッジさん! 私はまだ階級としては二級女神です、とてもじゃないですがサキエル様やウンディーネ様とは並び立てません。むしろ、仲間達はガラルドさんに惹かれて集まってきたのですからガラルドさんこそ何か肩書を名乗ってくださいよ」


「俺に振らないでくれよ。俺は肩書きなんて照れくさいからいらねぇよ。でも、グラッジの言う通りだ、リリスの熱い気持ちから全てが始まったから何か肩書を付けてもいいと思うけどな。と言ってもリリスには戻ってない記憶もあるから、それが戻れば夢や目的も変化するかもしれないけどな」


 俺は言葉を発した瞬間に後悔した。何故なら『記憶が戻ると別人になるのでは?』と恐れているリリスに掛けるべき言葉ではないと思ったからだ。


 しかし、慌てる俺とは違い、リリスは晴れやかな表情で自身の思いを語る。


「もし、私が強い恨みなどを持った状態で亡くなっていたとしたら記憶が戻った瞬間に前の人格に支配されるかもしれませんね。ですが、私は前世で仲の良い姉妹がいたみたいですし、きっと幸せに暮らしていたと思います。ですので、あまり変わらないのではないかと思いますね」


 『女神族の前世の記憶復活』に関する確たる情報は何ひとつ無いけれど、不思議とリリスの言葉から説得力を感じた。


 そしてリリスは更に話を続ける。


「それに『記憶が戻ってもリリスちゃんはリリスちゃんのままだよ』ってサーシャちゃんが太鼓判を押してくれましたからね。前世の記憶が戻っても『夢や目的が増える』ことはあっても『夢や目的が変化する』ことはない気がするのです。変化するのは精々髪色ぐらいですよ、ウフフ」


 リリスは自身の髪色が一部分金髪になったことと掛けておちゃらけた言い方をしているが、その思いは紛れもなく本物だろう。


 だから俺は謝らず、ポジティブな言葉をかけてこの話を終わらせることにした。


「リリスの言う通りだな。きっと失うものなんて無くて得るものしかないはすだ。大陸会議もライラの示した場所へ行くのも俺たちにとって大きな前進になるはずだ。当日まで、まだまだ時間はあるが楽しみにしとこうぜ」


 俺の言葉を受けて全員が笑顔の頷きを返してくれた。俺達を乗せたリヴァイアサンは何事もなく順調に海路を進み、翌日の朝シンバードへ到着した。






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