目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第222話 説得と軌跡




 ラファエルに来訪の目的を尋ねられた俺は改めて情報を整理し、依頼したい内容を伝えた。


「ああ、俺達は死の海を越え、大陸南を旅して色々と情報を得たんだ。だから、その情報をフェアスケールの人達から世界に発信してもらい――――」


 門番に目的を伝えた時よりも詳細に俺達の望みを伝えると、ラファエルは噛みしめるように頷き聞いてくれた。そして全てを伝え終えると、ラファエルはこちらを見て了承の微笑みを返してくれた。


「皆さんの希望は分かりました。お望み通りフェアスケールは力を貸しましょう。まずはフェアスケールから300人ほど使者を派遣し、大陸で届けられる全ての国々に大陸会議開催の手紙を全く同じタイミングで届けましょう。大陸則たいりくそくでは中立的立場のフェアスケールの人間を襲うと死罪になりますから野盗も襲ってはこないでしょう。仮に襲われても抵抗する手段を持ち合わせていますから問題はありません」


「ん? そうか、それじゃあよろしく頼む」


 『仮に襲われても抵抗する手段がある』とはどういう事だろうか? 武力を持たないという彼らにそんなことが出来るとは思わないが……まぁ詮索するのも印象が良くないし、フェアスケールのネームバリューがあれば大丈夫だろう。特に聞き返しもせずお願いすることにした。


 そしてラファエルは続けて、伝達内容の詳細を尋ねる。


「死の山の状況や魔人の存在など、一斉開示したい情報の内容は理解しました。次に大陸会議を開く場所ですが何処をご希望ですか? 正当な理由が無ければ基本的にフェアスケールで開催する流れとなりますが……」


 ここからが本番だ。どうにか上手く話をもっていってディアトイルでの開催にこぎつけねば。俺はディアトイルで開催するべき理由を並べる。


「俺達はディアトイルで開催したいと思っている。理由は特定の勢力に加担している地でもなく、地理的にも大陸南部の国々が合流しやすい位置だからだ」


「なるほど、一理ありますね。しかし、ディアトイルが大陸民から、あまり好まれていない地であることはディアトイル出身の貴方が一番理解しているはずです。その点に関してはどうお考えですか?」


「近年、シンバードのような国に加えて、旧来の教育に異を唱える者達の主張や新聞によってディアトイルへの差別は和らぎつつある。だからディアトイルで開催しても問題はないと考えているんだが……」


「問題はない……と本当に言い切れる段階でしょうか? 今、世相が変わりつつあるのなら次回以降の大陸会議でディアトイル開催にしてもよいと思いますが……。それに加えて1つ引っ掛かることがあります。ディアトイルが提案者であるガラルド殿の故郷だという点です、この提案に貴方の個人的な思惑や利益は含まれていませんか?」


 ラファエルはさっきより少しだけ険しい顔をしている……このままではマズいかもしれない。


 俺個人の利益の為にディアトイル開催を推している訳ではないけれど、ラファエルは疑っているようだ。どうにかして、誤解を解きつつ意見を通したいものだが何て言えばいいのだろうか。


 俺は次に発する言葉が思いつかず黙ってしまっていると横にいたグラッジが手を挙げてラファエルに意見する。


「現在ガラルドさんの仲間になっている僕が言っても身内贔屓のように思われるかもしれませんが言わせてください。ガラルドさんは個人の利益の為に画策するような人ではありません。ガラルドさんはパーティーを追放されて1人なってから今日まで常に誰かの為に動き続け、しまいには僕の故郷まで救ってくれました」


「ふむふむ、ガラルドさんを中心とした団体の活躍はこれまでの会話と新聞等で知ることが出来ましたが、ガラルドさん個人の軌跡は聞いていませんでしたね。判断材料にしたいのでお聞かせ願えますか?」


 そこからはリリス、グラッジ、サーシャがそれぞれの視点から俺の事を語り始めた。リリスは少し熱が入り過ぎて身振り手振りが激しくなり、見ているこっちが恥ずかしくなったが、その都度サーシャが客観的視点からフォローしてくれた。


 そもそも今日会ったばかりのラファエルに仲間3人がこぞって俺のことを熱弁していること自体が相当恥ずかしいのだが、これも信用を得る為だから仕方がない……我慢だ……。


 ラファエルは一通り話を聞いた後、俺の方を見て微笑みながら尋ねてきた。


「どうやらガラルドさんは相当愛されているようだ。自分の事を度外視し、ここまで世の為・人の為に尽くせる者は珍しい。もしかしたらディアトイル開催を提唱したのもガラルド殿に恩返しをしたいと思った仲間の内の誰かなのでは?」


「……最初に言いだしたのはシンバードの王であるシンって男だが……」


「え? シンが言いだしたのですか? いや、確かにシンの性格と考え方ならディアトイル開催を提案しそうではありますが……」


 誰に対してもずっと丁寧に敬称をつけて呼んでいたラファエルはここにきて突然シンを呼び捨てにした。まるで知り合いの様な言い方が気になった俺はラファエルに尋ねる。


「もしかして、ラファエルさんはシンと知り合いなのか?」


「そうです、元々シンはフェアスケールの中で育った人間なので」


 この事実はフェアスケールの異様な風景以上に驚かされかもしれない。思えば今までシンと会話をしてきて生まれ故郷の話を聞いたことがなかった。


 そもそもシンバード自体が生まれや身分を全く考慮しない国だから、そういう話題があまり挙がらないこともあるが。


 ディアトイル開催を説得する場面ではあるのだが、シンの話題が挙がった以上、色々と話を聞いてみたい欲が湧いてくる。思い切って尋ねてみることにしよう。


「話せる範囲でいいからよければシンの昔話を聞かせてくれないか? 俺達はシンに恩があるし慕っている。色々知って今後に活かしたいんだ」


「そうですね、彼は別に自ら過去を話さないだけで聞かれたら答えるタイプなので、教えても問題ないでしょうし、お話ししましょうかね。彼の昔話をするなら過去のフェアスケールについても少し話せなければなりません。長くなるでしょうから、お茶のおかわりを入れてきましょうかね」


 そう言うとラファエルは席を立ってお茶の葉を入れ替えにいった。目的がちょっとズレてしまったがシンの昔話を聞けるのは凄く楽しみだ。俺はソワソワしながらラファエルが戻るのを待った。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?