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第212話 魔人と神獣




 ウンディーネさんがアスタロトと接触して得た情報について語り始めた。


「まずアスタロトの肉体に関してですが彼は何種類あるのか分からない程に色々な魔力を纏っていました。凄まじい力強さを誇る魔力に目を取られたせいで1種類の魔力に見えてしまいそうでした。イメージとしては複数の植物で形成される森のような魔力だと認識してもらって構いません。複数の魔力を持っているという意味ではガラルドさんに近いのかもしれませんね」


「う~ん、と言っても俺が扱える魔力は2種類だけだからなぁ。またワンの話に戻ってしまうが、ワンは『人という種族を変異させる』のが夢だと言っていたらしいから、やっぱりアスタロトの正体はワンなんじゃないかと考えてしまうな。もしくは関係性の深い人物だったりな」


「関係性が深い……ですか。それはあながち間違いではないのかもしれませんね。わたくしはアスタロトに攻撃される前に『まずは名前と目的を告げるのが礼儀です、答えなさい』と伝えました。すると彼は『私の名はアスタロト、人類殲滅と大陸調律の為、あらゆる種族の肉体と情報を求めている』と告げたのです」


 人類の敵であることは死の山でも言っていたから知っていたけれど、もう1つの『大陸調律』というワードが気に掛かる。


 アスタロトは同じ目的を持つザキールの腹に拳を打ち込んだかと思えば天地のはかりで負傷を治したり。汚染された海の浄化を行ったりもしている。


 それに圧倒的な強さを持っているにも拘わらず死の山で出会った俺達を殺していかなかったのも謎だ。


 俺達がそれなりに有名になったガーランド団だということは知っていたのだからアスタロトはザキールを天地のはかりで回復する反動で自身を負傷させてしまうよりも前に俺達を1人で皆殺しにすることも可能だったはずだ。


 いまいち奴の行動が読めない。血が通っていないようにも見えるが、かと思えば自然を大切にする一面も垣間見えるし、合理的な人物にも思える。


 俺の中で結論が出ないままウンディーネは更に話を続ける。


「人類殲滅はともかく大陸調律の意味が分からなかったわたくしは言葉の意味を彼に尋ねました。結果、彼はこう答えました『この大陸には人間、魔獣、魔人、3つの大きな勢力がある。人間は弱いが数が多く、同種族で争う愚か者ばかり。魔獣は無駄な争いはせず、強い個体が多いものの知能が低い。そして、魔人は力と知恵があるものの数が少なく怠惰な者ばかり。そんな大陸が正しき道に進むようバランスを取るのが私の役目だ。だから調律という言葉を使った』と言っていました」


「その言い方だと魔人は村を作る程度の数はいるのかもしれないな。それに愚かな人間と知恵の無い魔獣か……中々皮肉が効いているな。確かに俺達が見た死の山の魔獣集落は人間よりよっぽど統率がとれていたよ」


「ガラルドさん……あまり人類を悲観しないでください。知恵があるからこそ欲や悪が増大してしまうのでしょうが、逆に言えば知恵があるからこそ理性、規則、経験を用いてマイナス面と戦う事が出来るのですから。それにガラルドさん達がこれまで頑張ってきたことは全て誇り高いものだと思いますよ」


「なんか気を使わせてしまったみたいだな、申し訳ない。その後アスタロトは何て言ったんだ?」


「アスタロトは『それぞれの種族に至らぬところはあるが、その中でも醜いのは群を抜いて人間だ。故に私は一部の魔人と魔獣を束ねて、最大勢力である人間を消すつもりだ。それこそが私の言う調律だ。そして、調律を成し遂げる鍵となるのが多種多様な種族の命だ。ましてや、おとぎ話でしか見たことがない女神の命があれば調律はより一層進むことだろう。だから大陸の為にお前の命を捧げるのだ』と言われました」


「アスタロトが複数の魔力を纏っているように見えたのならウンディーネさんを殺して女神族の魔力を取り込もうとしたのかもしれないな」


「わたくしもそう思いまして『他者の魔力を取り込むことができるスキルを持っているのですか?』と尋ねました。ですが、アスタロトは『そんな便利なスキルはもっていない。もっと厄介で私を含む多くの者が失敗ばかりしている発展途上の技術だ』と不明瞭な答えを返してきました」


 『私を含む多くの者が失敗ばかりしている発展途上の技術』……わざわざ技術と言っていることからもアスタロトにしか使えないものではなさそうだ。


 もしかしたら魔人の文明には人間とは違う道具などがあって使用しているのかもしれない……もしくはアーティファクトの可能性も考えられる。


 不明瞭な事が多過ぎるし謎が増えていくばかりだ。どうすればいいのか分からなくなってくる。


「俺の予想だとアスタロトは冥土の土産のつもりで色々教えてくれたのかもな。それならもっと詳細に教えて欲しいものだが。魔人のことを掘り下げないと情報のピースが嵌まりそうにないぜ……」


「わたくしもガラルドさんと同じように悩んでいました。わたくしは魔人に関しては過去に現れたディアボロスと2回目に現れて消えたといわれる青の魔人のことしか知りません。なので『そもそも魔人とは一体何なのですか?』とアスタロトに尋ねてみました」


「アスタロトは何て答えたんだ?」


「魔人は人間よりも遥か昔に生まれ、あらゆる生物に進化できる可能性を秘めたさなぎのような存在だ。各々の生き方や考え方によって魔人から別の存在に進化するかどうかが決まる。ある者は神獣に、またある者は精霊に、私が把握していない進化を遂げた者も数多くいることだろう……そう彼は告げました」


 ここにきて神獣が元々は魔人だったという衝撃の事実が発覚した。思えばゼロがザキールの血を調べた時にも『別の種に進化できる可能性があるくらい細胞が強い』と言っていたし合点がいく。


 全ての神獣の進化元が魔人とは言っていないからリヴァイアサンやグリフォンが該当するのかどうか分からない。もしかしたらグラッジのスキルで意思の疎通が出来ているのも魔人時代の言語感覚が残っているからかもしれない。


 そして、ウンディーネさんは「次に話す内容が魔人について分かった最後の情報です」と前置きをしたうえで語り始めた。





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