南側の魔獣をひたすら狩り続け、ざっと数えても僕だけで1500匹以上の魔獣をやっつけただろうか。
普段ならスタミナも半分以上枯渇していたと思うけど今は魔力循環の修行を終えて、より効率的に戦えるようになった。加えて後方からとめどなく補助魔術と回復魔術が飛んでくるから、かなり疲れが少なく感じる。
近くで戦っている兵士やハンター達も順調に魔獣を減らしているし、戦闘職ではない民衆も弓で的確に援護してくれている。
イグノーラは昔から魔獣に襲われてきたという経歴があるせいで僕が生まれる前から民衆は学校や家庭で弓だけは必修する決まりとなっている、それは力の弱い幼い子供や女性でも同様だ。
これは父グラハム王が決めた政策で『魔獣と直接戦う力や勇気が持てない者でもイグノーラの力になりたいと思う者がいるはずだ』という考えから生まれたものだ。現在、気を失っている父さんが間接的に一緒に戦ってくれているようで凄く嬉しい、やっぱり父さんは最高の為政者だ。
このまま順調に倒し続ければ7万匹の魔獣を退ける事ができるぞ! と期待を持ち始めたタイミングで東側から兵士がやってきて戦況報告をはじめる。
「グラッジ様、ご報告があります! 現在、
ソル兵士長の力を以てしても苦戦する魔獣なんて相当危険そうだ。僕が駆け付けてどうにかなるのか心配ではあるけれど直ぐに西側へ応援に行く事にしよう。
リリスさんのアイ・テレポートで西側へ到達すると、そこにはガーランド団の船よりも大きな人型のゴーレムが城壁に向かって突進を繰り返していた。
自然金できているのかと思わされる程に眩しいゴーレムの体は、かなりの幅があるにも関わらず4頭身ほどのサイズ感で異様に手足も胴体も頭もずんぐりむっくりで頑丈そうだ。
実際にゴーレムは兵士達の魔術と矢をものともせずに分厚く頑丈な城壁を頭突きの突進で少しずつ削っている。
このままでは城壁に穴を開けられて街の中への侵入ルートを作らせてしまう。一刻も早くゴーレムを倒さなければ……僕はゴーレムに向かって走りながら
すると僕の斜め後ろからソル兵士長が走り寄ってきた。そして僕と同様に剣を鞘に納めて、笑いながら語り掛ける。
「まさか、グラッジ様が私の技をお使いになるとは……
「……そうだったのですか。実は僕も5歳頃にソルさんが使っているのを拝見し、見様見真似で練習を続けたんですよ。きっとソルさんと比べるとまだまだ未完成だと思いますから、ご教授願います」
「ふっ……剣が好きな男っていうのはやっぱり抜刀術に憧れるものなのですかね。では、2人でありったけの
そして、僕とソルさんは寸分たがわぬタイミングで跳び上がる。動きの鈍いゴーレムは僕達が顔の前まで上がってきたところで、ようやく視線をこちらに向ける。僕らは空中で同時に深呼吸し、豪風の刃をクロスさせる。
「「
2つの風刃がゴーレムの額に直撃すると、ゴーレムは大地を揺さぶるような重低音の声をあげて頭を揺らす。ゴーレムの額には僕達が付けた2筋の傷が深々と残っている。
しかし、地面を抉りながら進むソル兵士長の
このゴーレムを動かなくなるまで破壊するにはどうすればいいのだろうか。頭を抱えているとゴーレムは何故か突然体を反転させ、城壁から離れて雑魚魔獣が群がっている場所に向かって突進を始めた。
雑魚魔獣はいきなり味方から敵に変わったゴーレムに悲鳴をあげながら、ばったばったと倒されている。巨大なゴーレムが1回腕を振り回すだけで10匹以上の魔獣が倒れていくのは圧巻だ。気が付けば300匹を超える魔獣がゴーレムに倒されていた。
何故ゴーレムが魔獣を襲い始めたのか分からない。僕が困惑しているとソルさんが1つの仮説を立てる。
「ゴーレム系は岩人形や泥人形とも言われています。古代文明では人の手によって操られていた痕跡があるものもいるらしいです。私とグラッジ様がゴーレムの額に衝撃を加えたことで
「だとしたら僕達は運が良いですね。ですが、あれ程の強さを持つ敵が北や東にもいると考えると厳しい戦いになりそうです。次の戦いでも今回みたいなラッキーが起きるとは限りませんし」
「……グラッジ様、その事で提案があります。次に戦うであろう大型魔獣の為に今ここで
まさかソルさんからそんな提案をされるとは思わなかった。確かに
「覚えられればベストですけど修得方法を書いた紙は現在ガラルドさんが預かっているんです。それに昔から
「大丈夫です、私に考えがあります。というのもグラハム王が子供の頃に聞いた
「ええっ? 走りながら練習するんですか?」
「大丈夫です、グラッジ様ならきっと出来ます。それじゃあ行きますよ!」
半ば強引にソルさんによる
子供の頃に練習していて全く手ごたえが掴めなかった